コラム Column

新興国の公共交通機関の現状と課題
~インドネシア・ジャカルタを事例に解説~

■州政府の取り組み

 ジャカルタは世界最悪と言われる交通渋滞に加え、大気汚染は深刻であり、大気汚染指数ランキングでも世界最悪を記録してしまいました。ジャカルタ近郊には煤煙を排出する工場はあまりないため、主な要因は自動車やバイクとされています。

そんな状況を打破すべく、2017年からジャカルタ州知事に就任したアニス氏(Anies Baswedan)が公共交通機関へのモーダルシフトを促す目的で実施したのが、前述のOKOTRIPです。OKOTRIPとは「One Karcis (Card) One Trip」の略で朝の時間帯3時間以内であれば乗り継ぎを何度行っても料金にキャップ(上限:5,000IDR=約40円)を設けるというものです。
特にTrans Jakartaは単一運賃ですが乗り継ぎのたびに運賃を払う必要があるため、1本で目的地に到達できない場合、乗客が支払う合計運賃は割高となってしまいます。また、インドネシアでは通勤交通費は従業員の自己負担となっている場合が多く、この金銭的負担を軽減することでバイクから公共交通機関へのモーダルシフトを促すことを目的として導入されました。朝の通勤に公共交通機関を利用させるプロモーションであるという意味で、冒頭に述べたJR東日本のオフピークキャンペーンと全く逆の取り組みであり、今後どうなるのかとても興味深いものです。

このOKOTRIPは2018年末「Jak Lingko 」と名称を変更しました。また、対象をTrans Jakartaから傘下に収めたAngkot(Mini Trans)、日本のODAで建設されたMRT Jakarta、新たに建設されているLRTと広げて利便性を高めています。
一方でこの施策によって発生する標準運賃との差額はジャカルタ州政府の負担となっており、これら差額の補填を含めた補助金はTrans Jakarta だけで 年間3.27 Trillion IDR(約250億円)と大きなものとなっています。
この施策を利用するためには「Jak Lingko Card」を新たに入手する必要があります。また、交通事業者側では全ての決済端末のプログラムを改修する必要がありました。利用者にも事業者にも大きなインパクトを伴う施策ですが、高評価で受け入れられています。(AINOはこのJak Lingkoの端末側プログラムの開発と実装を行いました)
しかし、この施策はジャカルタ州政府独自施策のため、国営系の交通機関にはサービスが提供されていません。そこでジャカルタでは、さらに利便性を高めるための施策として国と州政府横断的な取り組みを現在進行形で行っています。

 

■PT. JAK LINGKO設立

 2020年からジャカルタでは全ての交通機関のAFC (Automatic Fare Collection:自動運賃収受) システムを統合し、より利便性の高いサービス提供を目的とした動きが出てきています。
まず、プロジェクトを動かす第一弾として全ての交通機関がステークホルダとなるJoint Ventureが設立されました。この名前がPT. Jakarta Lingko Indonesia (Jak Lingko)です。(前述のサービス名と同じ名称)
下図のように、PT. Jak Lingkoにはジャカルタ州政府配下のTrans Jakarta、MRTと国営系のKAI両方の資本が入っています。ここがさまざまな施策の母体になることにより、州政府系、国営系両方の交通機関に対して、横断的な施策を打つことができるようになります。

organigation-chart

このPT. Jak Lingkoの下、ジャカルタで運営されているすべての交通機関のAFCシステム統合だけではなく、急激に普及が進むQRコード決済の利用やMaaS(Mobility As A Service)も公式サービスとして提供されるようです。
ジャカルタは東南アジア最大のRide hailing企業であるGrabとGojokがしのぎを削る場所です。公共交通とRide hailingのサービスが統合されるのは必然といえ、今後1年の間にどのような発展がみられるかとても楽しみです。

●まとめ

 新しいテクノロジーであっても成熟している国では既存サービスとの違いを感じにくいことがあるかもしれません。しかし、社会基盤が整っていない新興国では同じものでも大きなイノベーションとしてとらえられ、実際に社会を大きく変える可能性があります。そのような部分に新興国ならではのビジネスの面白さがあると私は考えています。
しかし、その裏には現地の人達が世界の最新トレンドを勉強しキャッチアップしようとするもの凄い量の努力と、それを資金面で支える投資家のエコシステムが存在しています。
我々も日本の技術や品質に奢ることなく世界のトレンドを学び、半歩先の提案ができる存在になっていきたいと考えています。

※この記事が参考になった!面白かった! と思った方は是非「いいね」ボタンをお願いします。