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A2A決済は新たなキャッシュレスの要となるか?仕組みやメリット、国内外の普及状況、事例を解説

A2A決済のイメージ

キャッシュレス化が加速する中、次世代の決済手段として注目されているのが「A2A(Account to Account)決済」です。従来のクレジットカードや電子マネーといったキャッシュレス手段を介さず、銀行口座同士を直接つなぐ仕組みにより、決済コストの削減や即時性の高い取引の実現が期待されています。本記事では、A2A決済の仕組みやメリット、国内外の普及状況、そして導入の事例までを分かりやすく解説します。

目次
1 A2A(Account to Account:口座間)決済とは?
1-1 従来の決済手段(クレジットカードなど)との違い
1-2 A2A決済が注目されている背景
1-3 A2A決済の種類
1-4 A2A決済の利用目的
2 A2A決済の仕組みとは?
2-1 A2A決済のセキュリティ・認証技術
3 A2A決済のメリット・デメリットとは?
3-1 加盟店・事業者にとってのメリット
3-2 ユーザーにとってのメリット
3-3 想定されるデメリット・導入時の課題
4 【日本】A2A決済の動向は?
4-1 A2A決済は日本でどのように普及してきた?
4-2 A2A決済を利用した金融機関の取り組み・企業の事例
4-3 今後の普及に向けた課題とポイント
5 海外のA2A決済事情は?
5-1 ヨーロッパでの普及状況
5-2 北米・アジアでの普及状況
5-3 国際送金・クロスボーダー決済で注目度が高まる
6 まとめ

1 A2A(Account to Account:口座間)決済とは?

A2A(Account to Account)決済とは、銀行口座から銀行口座へ直接資金を移動させる新しいキャッシュレス決済の仕組みです。「A2Aペイメント」とも呼ばれます。従来のキャッシュレス決済(クレジットカード、電子マネー、QRコード決済など)は、カード会社や決済ゲートウェイといった中間事業者を介して取引が行われていました。一方で、A2A決済はこうした仲介を必要とせず、ユーザーの銀行口座から加盟店やサービス提供者の口座へ直接送金できる点が特徴です。
この仕組みにより、取引コストの抑制、決済スピードの向上、透明性の高い資金フローの実現が期待できます。さらにオンラインバンキングやオープンAPIといった技術を活用することで、即時決済が可能になり、ユーザーと事業者双方にとって利便性の高いサービスといえます。
特に欧州では、PSD2(欧州決済サービス指令第2版)の導入を契機に利用が拡大し、A2A決済はキャッシュレス社会を支える重要な手段として定着しつつあります。今後、日本を含む世界各地で、キャッシュレス社会を支える重要な決済手段としての存在感が高まると予想されています。

1-1 従来の決済手段(クレジットカードなど)との違い

キャッシュレス決済には、クレジットカード、電子マネー、QRコード決済などさまざまな形態があり、それぞれに強みがあります。
クレジットカードは「利便性」や「ポイント還元」、電子マネーは「少額決済の手軽さ」、QRコード決済は「利用範囲の広さ」などが挙げられます。

A2A決済は、それらを置き換えるのではなく、新たに加わった選択肢の一つであり、以下の特徴があります。

  • 口座間を直接つなぐことで中間コストを抑えやすい
  • 即日入金が可能なケースが多く、資金繰りの改善につながる
  • ユーザーは銀行アプリで直接認証を行うため、高いセキュリティ性と利便性を確保。スマートフォン上で完結する直感的なUX(ユーザー体)は、利用者の利便性を大幅に向上

つまり、A2A決済は既存のキャッシュレス手段を補完する形で利用が広がっており、ユーザー・事業者双方に新しい価値をもたらす存在といえます。

1-2 A2A決済が注目されている背景

A2A決済が注目される背景には、以下の社会的・技術的要因があります。

1-2-1 キャッシュレス社会の進展

キャッシュレス社会の進展とともに銀行APIを活用した「Open Banking」※1や、金融サービスを既存のアプリやサービスに組み込む「Embedded Finance」が広がりを見せています。これにより、銀行口座を直接活用したシームレスな決済手段への期待が高まっています。

※1:金融サービスにおいて銀行が持つ顧客の口座情報や取引の機能を、APIを通じて認可された第三者(フィンテック企業など)へ提供・共有することで、新たなサービス創出する取り組み

1-2-2 ECやサブスクリプション市場の成長

サブスクリプション型のビジネスやEC市場の急成長に伴い、柔軟かつ低コストな決済手段が求められていることも背景の一つです。A2A決済の場合、特に事業者にとっては従来のカード決済にかかる高額な手数料を削減できる選択肢となります。

1-2-3 UX(ユーザー体験)の進化

スマートフォンのアプリ上で完結する直感的なユーザー体験(UX)は、利用者にとっての利便性を大幅に向上させています。こうした流れが相まって、A2A決済は次世代のキャッシュレス手段として急速に関心を集めているのです。

1-3 A2A決済の種類

A2A決済には複数の形態があり、利用シーンや目的によって使い分けられます。主な種類は以下の通りです。

1-3-1 企業間送金(B2B)

企業同士の大口取引や請求書決済で活用されます。振込手数料の削減や即時入金によるキャッシュフローの改善に有効です。

1-3-2 企業→消費者(B2C)

企業が給与、保険金、返金などを消費者へ直接送金するケースです。紙ベースの処理や小切手を廃止でき、効率化が進みます。

1-3-3 個人間送金(P2P)

スマホアプリを使った友人や家族への送金が代表例で、利便性の高さから急速に普及しています。

1-3-4 消費者→企業(C2B)

ECサイトでの商品購入や公共料金の支払いなど、消費者から企業への支払いに用いられます。一般的に、C2B決済の場合はカード決済の手数料よりも低く設定されています。

1-3-5 自己送金

個人が自分の複数の口座間で資金を移動するケースです。資産管理や投資口座への入金などで利用されます。
このように、A2A決済は「送金する相手」と「目的」に応じて多様な形で利用され、企業・個人双方にとって利便性を広げています。

1-4 A2A決済の利用目的

A2A決済は、中間事業者を介さずに資金を直接移動できる特性から、さまざまな業界で広く利用されています。主な用途は以下の通りです。

1-4-1 eコマース・小売

ECサイトや小売事業者が導入することで、クレジットカードに依存しない低コスト決済を実現できます。決済完了から入金までが速いため、キャッシュフロー改善にもつながります。

1-4-2 給与

企業が給与を従業員の銀行口座へ直接送金するケースです。紙の明細や小切手を廃止し、支払業務の効率化を図れます。

1-4-3 保険

保険金や給付金を利用者に迅速に送金できます。従来の振込よりも即時性が高く、顧客満足度の向上に寄与します。

1-4-4 自治体・公共機関

給付金、補助金、税還付などを迅速に住民へ届ける手段として注目されています。手続きのデジタル化にもなり、効率化や利便性が高くなるなどのメリットがあります。

1-4-5 クラウドファンディングや投資

出資者からの資金を集めたり、分配金を投資家に送金したりする場面で活用されます。手数料を抑えつつ効率的に資金を循環させることが可能です。
A2A決済は、商取引から公共サービス、投資まで幅広い領域で「迅速・低コスト・安全」な資金移動を支える仕組みとして拡大しています。

2 A2A決済の仕組みとは?

A2A決済の基盤となるのは、銀行口座と外部サービスを安全につなぐ「オープンAPI」の仕組みです。従来は金融機関ごとに閉じたシステムを持っていましたが、オープンAPIの普及により、第三者の決済事業者やEC事業者が銀行の機能に直接アクセスできるようになりました。これにより、ユーザーは自身の銀行口座から即時に資金を移動可能です。
オープンAPIは金融機関とサービスの間で中継役を果たし、取引データや認証情報を安全にやり取りします。その際、国際的に広く利用されるAPIの仕様(RESTやOAuth 2.0など)が用いられ、セキュアな通信を実現します。特にOAuth 2.0は、利用者が銀行の認証画面を通じてアクセスを許可する方式を採用しており、本人確認の信頼性を高められるプロトコルです。

このように、A2A決済はオープンAPIと高度な通信技術によって成り立っており、スピーディーかつ安全な口座間取引を可能にする仕組みとなっています。

2-1 A2A決済のセキュリティ・認証技術

A2A決済において欠かせないのがセキュリティです。銀行口座間で直接資金を移動させるため、認証やデータ保護の仕組みが欠かせません。まず、多要素認証(MFA)や生体認証(指紋・顔認証など)が導入され、ユーザー本人のみが取引を実行できるよう強化されています。
さらに、通信の安全性を確保するためにトランザクションはTLS(Transport Layer Security)で暗号化され、不正アクセスやデータ改ざんを防ぎます。
これらの仕組みを組み合わせることで、A2A決済は利便性と同時に高いセキュリティ水準を確保し、利用者にとって信頼できる決済基盤として機能します。

3 A2A決済のメリット・デメリットとは?

A2A決済は加盟店・利用者双方に多くの利点がありますが、導入・普及には課題も存在します。ここでは具体的なメリットとデメリット・想定されるリスクを整理します。

3-1 加盟店・事業者にとってのメリット

A2A決済の大きな魅力は、決済手数料を抑えられる可能性がある点です。従来のキャッシュレス決済では、加盟店が手数料を負担する仕組みが一般的でした。A2Aは中間事業者を介さず口座間を直接つなぐため、手数料負担を軽減でき、収益性の改善につながります。
さらに、入金サイクルの短縮もメリットです。即時または翌営業日に入金されるケースもあり、資金繰りの改善に直結します。特にEC事業者や中小企業にとって、キャッシュフローの安定は経営の柔軟性を高める要因となります。
また、残高確認に基づいて直接決済が行われるため、与信エラーやチャージバックのリスクが少ない点も注目されています。取引の確実性が高まることで、事業者にとって安心感のある決済手段となります。

3-2 ユーザーにとってのメリット

A2A決済は、ユーザーにとっても利便性が高い手段です。銀行アプリやECサイトのアプリ内で決済が完結するため、カード番号や有効期限を入力する手間がかかりません。セキュリティ面での安心感にもつながり、不正利用のリスクも減らせるでしょう。
さらに、取引明細が即時で銀行口座へ反映されるため、ユーザーは支出をリアルタイムで確認でき、家計管理や支出管理がしやすくなることもメリットです。

3-3 想定されるデメリット・導入時の課題

事業者・ユーザーの両者にメリットがある一方で、A2A決済の普及にはいくつかの課題もあります。

3-3-1 銀行APIの対応状況

まだ全ての金融機関がAPI接続に対応しているわけではなく、利用可能な範囲が限定される場合があります。

3-3-2 導入コスト

事業者側ではシステム改修やAPI接続に伴う技術的コストが発生し、既存の決済システムとの整合性を取る必要があります。

3-3-3 ユーザーの心理的ハードル

「銀行口座を直接つなぐ」ことへの抵抗感を持つ利用者も少なくありません。信頼性や安全性をどう訴求するかが重要です。これらの課題を解決することで、A2A決済はより広く受け入れられると考えられます。

4 【日本】A2A決済の動向は?

日本におけるA2A決済は、法改正やデジタルバンクの登場を背景に普及が進み、今後さらなる拡大が期待されています。ここでは、A2A決済がど日本での普及の歩みと金融機関や企業の取り組み事例について紹介します。

4-1 A2A決済は日本でどのように普及してきた?

日本でA2A決済が本格的に注目され始めたのは2021年頃からですが、その土台を築いたのは2017年5月の銀行法改正です。この改正では、電子送金や口座管理を担う「電子決済等代行業(電代業)」が新たに定義され、フィンテック企業の法的位置付けが明確になりました。さらに、銀行には2020年5月末までにオープンAPIへの対応を進める努力義務が課され、これを機に多くの銀行がAPI整備に取り組むようになりました。
その結果、銀行のオープンAPI活用が本格化し、フィンテック企業やデジタルバンクとの連携が容易になります。特に国内初のデジタルバンクとして登場した「みんなの銀行」は、口座直結型の送金や決済サービスを打ち出し、A2A決済への注目を一気に高めました。
また、大手プレイヤーも積極的に動きを見せています。金融機関やIT企業では、APIを活用した実証実験や新サービスを展開し、他の地方銀行やメガバンクも2023年以降次々に追随しています。
さらに、経済産業省の発表によれば、日本国内のキャッシュレス決済比率は2024年時点で約42.8%(※)に達しており、非現金決済が定着しつつあることもA2A普及の追い風となっています。

出典:経済産業省「2024年のキャッシュレス決済比率を算出しました」

4-2 A2A決済を利用した金融機関の取り組み・企業の事例

日本国内でも、A2A決済を活用した新サービスや実証実験が広がっており、金融機関やスタートアップの取り組みが加速しています。以下にいくつかの事例を紹介します。

4-2-1 デジタル現金払い!Jamm

https://jamm-pay.jp/index.html

4-2-2 Pay By Bank

https://bankey.jp/pay-by-bank

4-2-3 MINAコイン(十八親和銀行)

https://www.18shinwabank.co.jp/personal/service/minacoin/

4-2-4 こうふりネット(福岡銀行・熊本銀行・十八親和銀行)

https://trigon-manager.fukuoka-fg.com/lp/fukuokabank/

4-3 今後の普及に向けた課題とポイント

A2A決済の拡大に向けては、制度・技術・ユーザー意識といった複数の観点で課題が残されています。

4-3-1 銀行APIの整備と標準化

現在、日本の金融機関ごとにAPI仕様が異なるため、事業者側では接続コストや導入の煩雑さが障壁となっています。今後は、業界全体で統一的なルールや標準仕様を整備し、よりスムーズに接続できる仕組みづくりが求められます。

4-3-2 ユーザー心理的ハードルの克服

「銀行口座を直接つなぐのは不安」という利用者の声は少なくありません。これを解消するには、UXの改善や多要素認証・暗号化技術の強化によって安心感を提供することが重要です。分かりやすいUIや透明性のある説明も、普及を後押しする要素となります。

4-3-3 法制度・セキュリティ基準への対応

事業者にとっては、電子決済等代行業者登録やPCI DSS準拠といった基準を満たすことが、信頼性を確保する上で不可欠です。これにより、事業者・ユーザー双方が安心してA2A決済を利用できる環境が整います。

5 海外のA2A決済事情は?

海外では法制度やインフラ整備が進んでおり、特に欧州を中心にA2A決済の普及が加速しています。ここでは、ヨーロッパ・北米・アジアの動向、そして国際送金の分野における取り組みを紹介します。

5-1 ヨーロッパでの普及状況

ヨーロッパはA2A決済の先進地域と言われ、イギリスやドイツ、北欧諸国で導入が広がっています。背景には、2018年に施行されたPSD2(欧州決済サービス指令第2版)があります。これにより銀行はオープンAPIを通じて口座情報を外部事業者に提供する義務を負い、フィンテック企業による新しい決済サービスが台頭しました。
また、EU域内ではSEPA Instant(単一ユーロ決済圏即時送金システム)が整備され、24時間365日で数秒以内に資金移動が完了する環境が構築されていることも大きな要因と言えるでしょう。これにより、ECや公共料金支払い、個人間送金など幅広い用途でA2A決済が利用可能となり、カード依存度を下げる動きが進んでいます。
特に北欧諸国では、既存のモバイル決済アプリと銀行インフラが連携し、日常生活に深く浸透していることから、ヨーロッパは世界のA2A決済普及をリードする地域と言えるでしょう。

5-2 北米・アジアでの普及状況

北米では、2023年に米連邦準備制度(FRB)が開始したFedNow Serviceが普及の起爆剤となっています。従来のACHネットワークよりも利便性が高く、24時間365日リアルタイム送金を可能にすることで、企業・消費者間のA2A取引が拡大しています。
アジアでは、インドとシンガポールが先進事例として注目されています。
インドの UPI(Unified Payments Interface) は、eコマースや請求書支払い、個人間送金など幅広く活用され、1日数億件規模の取引を処理。
シンガポールの FAST(Fast And Secure Transfers) は、銀行間即時送金の基盤として定着し、公共料金支払いや仕送りなどに活用されています。
北米・アジアともにフィンテック企業の参入が進んでおり、APIを活用した新しい決済体験の提供により、カード依存度が高い地域でもA2A決済の存在感が次第に高まっています。

5-3 国際送金・クロスボーダー決済で注目度が高まる

A2A決済は、国際送金やクロスボーダー決済の分野でも注目度が高まっています。従来の国際送金はSWIFTネットワーク※2を経由するため数日かかることもありましたが、近年はこれに代わるリアルタイム決済構想が各国で進められています。異通貨間でも即時に資金移動を可能にする仕組みが整備されつつあり、送金のスピードアップとコスト削減が期待できるでしょう。
シンガポールでは、A2Aを基盤としたクロスボーダー決済の実証が進んでいます。特に「SGQR+」と呼ばれるQRコード規格は、複数の国やサービス間で相互利用でき、海外旅行者や出稼ぎ労働者の仕送りニーズに応える仕組みとして注目されています。
こうした取り組みは、国際的な金融インフラの再編につながり、従来の高コスト・低効率な国際送金に代わる新しい標準となる可能性があります。A2A決済は、単なる国内送金手段にとどまらず、グローバル金融の変革を支える重要な存在となりつつあるのです。

※2:銀行間の国際送金指図をやり取りするメッセージングシステム

6 まとめ

A2A決済は、低コスト・高セキュリティ・即時性を兼ね備えた次世代のキャッシュレス決済手段として、国内外で急速に注目されています。日本でも法制度の整備や金融機関の取り組みにより普及が進み、今後ますます拡大していくでしょう。