コラム Column

クレジットカードの不正利用を防ぐには?金融機関・カード会社が取るべき対策と課題

クレジットカードの不正利用は、金融機関やカード会社にとって重大な経営リスクです。補償コストやチャージバックの増加に加え、国際ブランドからの業務改善要請や加盟店契約の制限/停止といった制裁リスクなど、事業収益や企業価値を揺るがす重大な要因となるおそれがあります。さらに、不正手口は年々高度化・巧妙化しており、従来の防止策だけでは対応しきれない局面も増えています。

本コラムでは、クレジットカード不正利用の最新動向や業界が直面する課題を整理し、金融機関やカード会社が検討すべき実効性の高い対策を紹介します。

目次
1 クレジットカードの不正利用とは?
  1-1 クレジットカードの不正利用の主な手口
    1-1-1 スキミングによる被害
    1-1-2 フィッシング詐欺・偽サイト
    1-1-3 ネットショッピングでの不正利用
    1-1-4 クレジットカード番号盗用
    1-1-5 電話や対面での詐欺(オレオレ詐欺)
    1-1-6 フリーWi-Fiを利用した情報盗用
    1-1-7 クレジットマスターアタック
  1-2 近年の不正利用の傾向と事例
2 クレジットカード会社の直面する課題と不正利用対策の限界
  2-1 チャージバック対応の増加と運用負荷
  2-2 不正利用被害の補償コストと収益圧迫
  2-3 加盟店との摩擦と審査体制の難しさ
  2-4 セキュリティ技術への投資と導入遅延のジレンマ
3 クレジットカード会社が取るべき不正利用対策
  3-1 高度な不正検知システムの導入(AI・機械学習活用)
    3-1-1 AIによる異常検知の仕組み
    3-1-2 不正検知の自動化と運用効率化
    3-1-3 ベンダー選定時のポイント
  3-2 リアルタイム認証(3Dセキュア2.0など)
    3-2-1 リアルタイム認証導入メリットと課題
  3-3 加盟店審査・監督の強化
    3-3-1 ハイリスクな加盟店のスクリーニング
    3-3-2 加盟店向けのガイドラインと教育
    3-3-3 モニタリング体制の構築
4 クレジットカード利用者・加盟店への支援(不正利用対策)
  4-1 利用者へのサポート体制
  4-2 加盟店への技術・運用支援
  4-3 共通プラットフォームの活用促進
5 経済産業省や業界団体の最新ガイドラインへの準拠を徹底しよう
  5-1 経済産業省による「クレジット取引セキュリティ対策協議会」の提言
  5-2 PCI DSSへの準拠強化
  5-3 ICチップ対応と磁気ストライプ廃止の方向性
  5-4 業界団体による共同対策・情報共有の強化
  5-5 今後求められる事業者の対応
6 クレジットカードの不正利用に対する国内外の今後の課題
  6-1 不正利用の手口が高度化する中での課題
  6-2 国内制度や補償体制の限界
  6-3 中小事業者への導入ハードル
  6-4 国際的な犯罪組織への対抗
  6-5 消費者リテラシー向上の必要性
7 まとめ

1 クレジットカードの不正利用とは?

クレジットカードの不正利用とは、カード名義人以外の第三者が不正にカード番号や暗証番号を取得し、決済や現金引き出しに使用する行為を指します。特に近年はネットショッピングの普及に伴い、オンライン決済における不正利用が急増しており、その手口はますます巧妙化しています。スキミングやフィッシング詐欺といった従来の手口に加え、偽サイトや不正アプリを利用した情報搾取など、攻撃手段の多様化が進んでいます。

世界的にもクレジットカードの不正利用は拡大傾向にあります。その背景にはEC市場の急成長や国際的な犯罪組織による組織的な攻撃の増加が挙げられます。日本クレジット協会(JCA)の公表データによると、国内のクレジットカード不正利用の被害額は2024年に555.0億円と過去最多を更新し、これは2020年の2倍以上の規模(※)です。このうち、「番号盗用」による被害(※)が9割以上を占めています。

こうした状況は金融機関やカード会社に大きな負担を与えており、利用者保護と事業継続の観点から、高度な不正利用対策の導入が急務となっています。

※出典:経済産業省「クレジットカード不正利用被害の状況について(一般社団法人日本クレジット協会)」

1-1 クレジットカードの不正利用の主な手口

クレジットカードの不正利用には多様な手口があり、利用者が気付かないうちに被害に遭うケースが増えています。ここでは代表的な不正利用の手口を解説します。

1-1-1 スキミングによる被害

スキミングとは、カードの磁気ストライプ部分に記録された情報を「スキマー」と呼ばれる装置で不正に読み取り、偽造カードを作成して利用する手口です。海外旅行先のATMや一部の店舗で利用者が気付かないうちに被害に遭うことが多く、ガソリンスタンドや飲食店での支払い時にも事例が報告されています。偽造カードは実店舗やECサイトで利用されることが多く、請求明細を確認するまで不正を発見できない場合も少なくありません。

ICチップ搭載カードの普及によって被害は減少傾向にあるものの、磁気ストライプ決済に依存する国や店舗では依然としてリスクが存在しています。

1-1-2 フィッシング詐欺・偽サイト

フィッシング詐欺とは、利用者にメールやSMSで「カード情報を確認してください」「不正利用が発生しました」などと不安を煽る文章を送りつけ、偽のリンク先へ誘導して情報を盗み取る手口です。誘導先の偽サイトは本物の金融機関やカード会社のページに酷似しており、利用者は正規のページと誤認してカード番号やパスワードを入力してしまいます。

入力された情報は、ネットショッピングや不正送金に悪用されます。こうした攻撃は短期間でURLや送信元を変えながら繰り返されるため、利用者側の警戒とカード会社による検知体制の強化が欠かせません。特に近年はスマートフォン利用者を狙ったSMS型フィッシングが急増しています。

1-1-3 ネットショッピングでの不正利用

ネットショッピングでの不正利用は、架空のECサイトへ誘導してカード番号・有効期限・セキュリティコードなどの情報を抜き取る手口です。購入したはずの商品は届かず、カード情報が流出してしまいます。

さらに近年はカード番号そのものではなく、ECサイトや決済アプリの「アカウント乗っ取り」が横行しており、購入履歴やポイントも含めて不正利用される事例がみられます。

1-1-4 クレジットカード番号盗用

クレジットカード番号盗用は、フィッシングや情報漏えいなどによって取得されたカード情報が第三者に悪用される手口です。カード現物がなくても、番号・有効期限・セキュリティコードがあれば決済ができてしまうECサイトを狙い、不正取引が行われます。盗まれた情報はダークWeb上で売買され、短期間に多数の少額決済へ利用されることが多く、追跡や検知が困難です。正規取引に紛れて行われるため、利用者が明細を確認するまで被害に気づかないケースも少なくありません。

1-1-5 電話や対面での詐欺(オレオレ詐欺)

電話や対面での詐欺は、カード会社や銀行を装って利用者から直接カード情報を聞き出す古典的な手口です。特に高齢者が狙われやすく、「口座に不正がある」「本人確認が必要」などと巧みに不安を煽り、カード番号や暗証番号を聞き出します。

中には自宅を訪問してカードを回収し、現金引き出しや高額商品の購入に悪用されるケースもあります。近年はデジタルを通じた手段が主流になりつつありますが、このような対面型の詐欺も依然として根強く被害が発生しています。

1-1-6 フリーWi-Fiを利用した情報盗用

フリーWi-Fiは利便性が高い一方で、セキュリティが十分に確保されていないケースが多く、不正利用の温床となっています。悪意ある第三者は暗号化されていない通信を傍受し、カード番号やログイン情報を盗み取ることが可能です。さらに悪質な手口では、正規のアクセスポイントに似せた「偽のアクセスポイント」を設置し、利用者を接続させて通信内容を直接盗み取るケースも確認されています。

利用者本人が気付かないままクレジットカード情報が抜き取られ、ネットショッピングや不正送金に利用される危険性があります。外出先でWi-Fiを利用する際は、認証のないフリーWi-Fiの利用は避けるべきです。

1-1-7 クレジットマスターアタック

クレジットマスターアタック(クレジットマスター攻撃)は、クレジットカード番号の桁数や発行ルールといった規則性を悪用し、無作為に番号を生成して有効なカードを特定する不正手口です。攻撃者は自動プログラムで膨大な番号の組み合わせを試行し、認証が通るカード番号を特定し、不正利用を行います。

この攻撃による被害はカード利用者だけでなく、加盟店側にもおよびます。短時間に大量の不正アクセスが集中することで、ECサイトのシステム負荷や決済手数料の上昇、販売機会の損失などを招きます。正規取引に紛れ込むのが特徴であり、検知が難しい点が、カード会社と加盟店双方にとって深刻な課題となっています。

1-2 近年の不正利用の傾向と事例

近年、クレジットカード不正利用は、フィッシング詐欺やECサイトでの番号盗用を中心に急増しています。被害は個人利用者にとどまらず、チャージバック対応を迫られる加盟店側にもおよび、経営上のリスクとして深刻化しています。

日本クレジット協会のデータによると、不正利用被害額は2019年から2024年の6年間で約6割増加(※)しており、特に「番号盗用」による被害が大半を占めています。
背景には、コロナ禍を契機としたオンライン決済やネットショッピングの急拡大と、国際的な犯罪組織による手口の高度化があります。そのため、従来のセキュリティ対策だけでは防ぎきれない局面が増加しています。

※出典:経済産業省「クレジットカード不正利用被害の状況について(一般社団法人日本クレジット協会)」

2 クレジットカード会社の直面する課題と不正利用対策の限界

クレジットカード会社は不正利用の増加に対応するために多様なセキュリティ対策を講じています。しかし、攻撃手口の高度化により被害は減少せず、チャージバックや補償コストなど新たな課題が顕在化しています。

2-1 チャージバック対応の増加と運用負荷

クレジットカードの不正利用が増加する中で、利用者からの異議申し立てによる「チャージバック」対応件数も年々増加しています。

チャージバックとは、利用者が「この取引は身に覚えがない」と申し立てを行った際に、クレジットカード会社が調査を行い、必要に応じて加盟店へ売り上げ金を返還させる仕組みです。返金するだけでなく、加盟店や取引内容の調査、証明書類の収集・精査など膨大な業務が発生します。

その結果、カード会社には人件費や時間的コストが重くのしかかり、業務負荷の増大を招いています。さらに、利用者への迅速かつ丁寧な対応を維持しつつ、内部の調査精度を確保する必要があり、顧客満足度と業務効率の両立が難しいのが現状です。
チャージバックは利用者保護の仕組みとして重要ですが、カード会社にとっては収益構造を圧迫する要因となっています。

2-2 不正利用被害の補償コストと収益圧迫

クレジットカード会社は不正利用被害に遭った利用者を守るため、原則として被害額を全額補償する対応を行っています。しかし、補償コストは年々増加しており、経営上の大きな負担となっています。利用者からの信頼を維持するためには積極的な補償対応が不可欠ですが、不正手口の巧妙化によって補償範囲が拡大しているのが現状です。

また「どこまでをカード会社が補償すべきか」という判断が難しいケースも多く、対応の一貫性や公平性を保つことが課題です。結果として、補償にかかるコストは収益を圧迫し、経営資源の配分において慎重な判断が求められる状況となっています。

2-3 加盟店との摩擦と審査体制の難しさ

クレジットカード会社にとって、不正利用が頻発する加盟店への対応は大きな課題です。特にEC加盟店における不正取引の早期検知と再発防止支援が求められています。

一方で、過剰な審査や取引制限を行うと、加盟店の取引機会を損ねるおそれがあるため、リスク低減と加盟店支援の両立が鍵となります。近年は、チャージバックやブランド要請への対応を通じて、カード会社の監視・モニタリング体制強化が進んでおり、「予防と教育」に重点が置かれています。

このように、加盟店との信頼関係を保ちながら不正リスクを最小化する仕組みづくりが、今後の重要なテーマとなっています。

2-4 セキュリティ技術への投資と導入遅延のジレンマ

高度な不正検知・防止システムの導入はクレジットカード会社にとって急務ですが、その投資額は莫大で、導入スピードにも限界があります。

加盟店への展開だけでなく、カード発行システムや利用者側カードの切り替えにも時間とコストがかかるため、すべての関係者が同時に最新技術へ移行することは容易ではありません。

その結果、一部の事業者やユーザー環境では導入が遅れ、不正グループに先手を取られるリスクが残ります。
また、セキュリティ投資は短期的には収益を圧迫する側面もあり、「即時導入か、段階的移行か」という経営判断のジレンマが生じます。

こうした背景から、技術革新のスピードと現場実装のギャップを埋めるために、官民連携や業界全体での標準化推進が求められています。

3 クレジットカード会社が取るべき不正利用対策

クレジットカード会社は、不正利用を「検出」するだけでなく、発生を未然に防ぐ「予防的対策」にも注力する必要があります。ここでは、最新技術を活用した効果的な取り組みについて解説します。

3-1 高度な不正検知システムの導入(AI・機械学習活用)

多くのクレジットカード会社や金融機関の不正検知システムでは、あらかじめ設定したルール(条件)に基づいて不正を検知する方式「ルールベース型」が採用されてきました。しかし、これは過去の不正パターンに基づいて判断するため、新しい手口に対しては後手に回る傾向があります。

これに対し、AIや機械学習を活用した不正検知は「利用者の行動パターン」や「取引の異常値」をリアルタイムで学習・分析し、未知の不正にも対応可能です。例えば、急な高額決済や海外からの異常なアクセスを即座に検知し、不正利用を未然にブロックできます。これにより、利用者の保護と運用効率化を両立できるため、不正利用対策として導入が進んでいます。

3-1-1 AIによる異常検知の仕組み

AIを活用した不正検知では、単に金額や回数を見るのではなく、利用履歴や取引の時間帯、利用端末、位置情報など多面的なデータを統合して分析します。機械学習により、利用者ごとの「通常の取引傾向」を継続的に学習し、その取引がどの程度異常かをスコアリングします。

例えば、普段は国内の小口決済が中心の利用者が、深夜に海外から高額購入を行った場合、AIは高リスク取引と判断して自動的にアラートを発報します。これにより、従来のルールベース型では検知できなかった巧妙な不正をリアルタイムに検知でき、利用者の被害を未然に防ぎます。

3-1-2 不正検知の自動化と運用効率化

AIや機械学習による不正検知は、アラート発生から対応までのプロセス自動化を実現します。従来は人が行っていた確認作業をシステム化することで、調査工数を削減し、迅速な初動対応が可能になります。

また、AIは誤検知の低減にも寄与し、正規利用者の取引を不必要に止めてしまうリスクを抑制できます。これにより顧客体験を維持しつつ、不正利用に対して迅速かつ正確に対応することが可能です。AIによる不正検知はすでに多くの金融機関で標準化されており、 今後はモデルの精度向上や継続的学習を通じた検知力の強化が重要なテーマとなっています。 これにより、監視コストの削減と顧客満足度の維持を両立する運用体制の構築が進んでいます。

3-1-3 ベンダー選定時のポイント

不正検知システムを導入する際に重視すべきは、検知精度と誤検知率のバランスです。誤検知が多いと顧客体験を損ね、逆に見逃しが多いと被害拡大を招きます。

また、導入実績や運用事例、自社システム・外部決済プラットフォームとの連携性も重要です。
さらに、取引特性やリスクプロファイルに応じたルール調整・モデルカスタマイズの柔軟性を備えているかも確認が必要です。
これらを総合的に評価することで、自社に最適なシステムを採用できます。

3-2 リアルタイム認証(3Dセキュア2.0など)

本人確認の強化は、不正利用を根本から防ぐ上で欠かせない対策です。その代表例が「3Dセキュア2.0」であり、利用者の利便性を損なうことなく高度な認証を実現できる点から、多くのカード会社やECサイトが導入を進めています。

従来のパスワード入力型と異なり、ワンタイムパスワードや端末認証、生体認証といった多要素認証に対応しています。また、リスクの低い取引では追加認証を省略する「リスクベース認証(Frictionless Flow)」が導入され、スムーズな購買体験を維持と不正利用の防止を両立しています。

3-2-1 リアルタイム認証導入メリットと課題

リアルタイム認証の導入は、不正利用防止率を大幅に改善し、チャージバック件数の削減にも寄与します。利用者の本人確認を強化することで、番号盗用やアカウント乗っ取りといった典型的な不正利用を未然に防ぐことが可能です。

ただし、加盟店やカード発行システム側の対応が遅れると、導入効果が限定的となるほか、追加認証がユーザー離脱を招くリスクもあります。セキュリティと利便性のバランスをいかに設計するかが重要なポイントとなります。

3-3 加盟店審査・監督の強化

クレジットカードの不正利用は、カード会社単独では完結しません。カード会社・国際ブランド・加盟店・決済事業者が連携し、取引全体を可視化する仕組みづくりが進められています。

特にカード会社では、高リスク取引の早期把握や関係事業者との情報共有を強化する取り組みが広がっています。
加盟店はそのネットワークの一部として、安全な決済環境を支える重要なパートナーです。

以下では、カード会社を中心に進められている代表的な取り組みを紹介します。

3-3-1 ハイリスクな加盟店のスクリーニング

加盟店管理では、不正利用のリスクが高い事業者を早期に把握する体制整備が進んでいます。業種や所在地、過去のトラブル履歴、急激な取引増加などのデータを分析し、AIによるリスクスコアリングや継続的な審査を実施するケースも増えています。

例えば、短期間で売上が急増した新規加盟店や、カードテスト攻撃が集中しやすいデジタル商材販売事業者などに対しては、追加調査や取引制限の設定を行うことで、不正利用を未然に抑止しています。

3-3-2 加盟店向けのガイドラインと教育

加盟店に対しては、不正防止のためのガイドライン整備や教育支援の強化が進められています。
不審な取引を識別するためのチェックポイントの共有や、**クレジットカード情報の安全な取り扱い(PCI DSS準拠など)**を促す啓発活動が行われています。

さらに、カード会社が主導して最新の不正手口や対応策を共有する研修・セミナーを実施するなど、現場レベルでのセキュリティ意識向上に向けた取り組みも広がっています。
これにより、加盟店を監督対象ではなく信頼できる取引パートナーとして支援する関係づくりが進んでいます。

3-3-3 モニタリング体制の構築

加盟店で発生する取引データを継続的に監視し、異常な取引を自動検知してアラートを発する仕組みの導入も進展しています。たとえば、通常より高額な決済や短時間に集中する複数取引を自動で検知し、発行会社・決済事業者・加盟店間で即時共有する取り組みが一般化しています。

こうしたリアルタイムモニタリングの強化により、不正の早期発見と被害最小化が可能になり、カード会社と加盟店の双方にとってリスク低減につながっています。

4 クレジットカード利用者・加盟店への支援(不正利用対策)

クレジットカード不正利用の防止は、カード会社だけで完結する問題ではありません。利用者へのサポート体制や加盟店のセキュリティ管理など、関係者全体での連携が欠かせません。

以下では、利用者と加盟店それぞれの立場で進められている主な取り組みを紹介します。

4-1 利用者へのサポート体制

クレジットカード利用者への支援体制を整えることは、不正利用の被害を最小限に抑えるために欠かせません。まず、被害発生時に迅速に相談できる窓口の整備が進んでいます。24時間対応のコールセンターやチャットサポートを設けることで、カード停止や補償手続きをスムーズに行うことが可能です。
また、利用通知サービスや利用者自身による取引停止機能を提供するカード会社も増えており、利用者がリアルタイムで異常取引を確認できる環境が整いつつあります。
さらに、フィッシング詐欺や不審サイトの見分け方を紹介する啓発コンテンツの発信も広がっており、利用者自身のリテラシー向上を支援する動きが見られます。こうした取り組みにより、利用者のセキュリティリテラシーを高める環境整備が進んでいます。

4-2 加盟店への技術・運用支援

加盟店に対しては、セキュリティ強化に向けた技術導入と運用改善の支援が進んでいます。
本人認証を強化する「3Dセキュア2.0」や、カード情報非保持化を推進する「トークン決済」など、安全性と利便性を両立する技術の導入が拡大しています。

実店舗では、古い決済端末の更新やICチップ・非接触決済への対応が進み、偽造カード被害の防止に寄与しています。
また、オンラインショップでは、定期的なセキュリティ診断や外部専門家による脆弱性チェックを受ける加盟店が増えており、早期改善によるリスク低減が図られています。

こうした取り組みの積み重ねにより、加盟店全体の防御力向上と不正利用リスクの抑制につながっています。

4-3 共通プラットフォームの活用促進

クレジットカード不正利用への対策を強化するうえで、業界全体での情報共有とデータ活用が重要な鍵を握っています。
カード会社や決済事業者の間では、不正利用の取引データや手口を蓄積・分析し、共通の不正検知データベースを活用する取り組みが進んでいます。

特に、金融機関・決済代行会社・カード会社の間でリアルタイムに不正兆候を共有する仕組みが整備されつつあり、新たな攻撃手口にも迅速に対応可能です。
このような共通プラットフォームは、業界全体のセキュリティ水準を底上げし、特定加盟店だけが標的となるリスクを分散するうえでも有効です。

5 経済産業省や業界団体の最新ガイドラインへの準拠を徹底しよう

日本国内で増加するクレジットカードの不正利用に対応するため、経済産業省や日本クレジット協会などの業界団体では、セキュリティ対策ガイドラインの改訂と運用強化が進んでいます。ガイドラインでは、ICチップ化の推進やPCI DSS準拠の徹底、3Dセキュアの導入促進、不正取引情報の共有制の強化などが示されています。

こうした基準への準拠は、利用者保護と業界全体の信頼性維持に直結する重要な取り組みです。

5-1 経済産業省による「クレジット取引セキュリティ対策協議会」の提言

経済産業省は、国内で急増する不正利用に対応するため、2025年3月に「クレジットカード・セキュリティガイドライン」を改訂しました。今回の改訂では、EC加盟店・カード会社・決済代行業者(PSP)など、クレジットカード取引の関係事業者に具体的な対策を求める内容となっています。

例えば、EC加盟店には3Dセキュア2.0の導入や不正検知体制の整備、カード会社や決済代行業者には、加盟店管理や情報共有体制の強化が、それぞれ促されています。こうした改訂は、利用者保護の徹底と業界全体のセキュリティ水準を底上げすることを目的としたものです。
各事業者には、ガイドラインに沿った体制整備と運用の見直しが求められています。

参考:経済産業省「クレジットカード・セキュリティガイドラインが改訂されました」

5-2 PCI DSSへの準拠強化

国際的なセキュリティ基準である「PCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard)」は、クレジットカード情報を安全に取り扱うための世界共通ルールです。

日本国内においても、カード会社や加盟店に対してPCI DSS準拠が取引継続の前提条件として位置付けられており、各社でシステムや管理体制の再点検が進められています。非準拠のままでは国際ブランドからの接続制限や取引停止といったリスクが生じるおそれもあり、事業継続性の観点からも準拠対応は重要です。

参考:日本カード情報セキュリティ協議会「PCI DSSとは」

5-3 ICチップ対応と磁気ストライプ廃止の方向性

経済産業省の方針では、セキュリティ強化の一環として「ICチップ非対応カードの段階的廃止」が提言されています。
日本国内ではすでにICチップ搭載カードへの移行がほぼ完了しており、現在は一部の古い端末や海外発行カードで残る磁気ストライプ決済の排除が進められています。

ICチップは暗号化処理によって偽造が極めて困難である一方、磁気ストライプは情報をコピーされやすく、スキミング被害の要因とされてきました。
こうした背景から、実店舗全体でのIC対応端末への完全移行が推進されています。

また、2025年4月からはICチップ搭載カードにおけるサイン認証が廃止され、暗証番号(PIN)認証への統一が実施されるなど、より強固な本人確認体制が整いつつあります。

参考:経済産業省「クレジットカード・セキュリティガイドライン[6.0版]」

参考:日本クレジットカード協会「ICクレジットカードの正しいお取扱いについて」

5-4 業界団体による共同対策・情報共有の強化

クレジットカード不正利用の巧妙化に対応するには、業界全体での情報共有と共同対策が重要です。日本クレジット協会やクレジット取引セキュリティ対策協議会は、不正利用に関するデータを集約・分析を進め、加盟店やカード会社への情報提供を進めています。

さらに、加盟店向けにセキュリティセミナーや教育プログラムを実施し、現場レベルでの知識向上を支援しています。また、カード会社やシステムベンダー間で不正検知ルール標準化や共有を進める動きも見られ、業界全体で共通基準のセキュリティを確保する体制が整いつつあります。こうした官民・業界横断の連携は、不正利用の早期検知や広範な抑止につながる重要な基盤として、今後さらにその役割が高まることが期待されます。

5-5 今後求められる事業者の対応

不正利用対策は一過性の取り組みではなく、常に最新のガイドラインに沿って体制を見直し続けることが重要です。
対応が遅れた場合、補償コストやチャージバックの増加が企業収益やブランド信頼を損なうリスクにもつながります。特にシステム刷新や新たな検知技術の導入には大規模な投資が伴うため、経営層を含めた全社的な視点での判断と予算計画が求められます。

その際、社内リソースだけで対応するのではなく、外部の専門パートナーと協働することで、より効果的かつ迅速な対策が可能となります。たとえば、TISのように決済分野で豊富な知見と技術を持つベンダーと連携することで、自社では難しい高度な不正検知体制や最新技術の導入を円滑に実現することができます。
業界全体での連携と継続的な改善こそが、今後の不正利用対策を支える鍵となるでしょう。

6 クレジットカードの不正利用に対する国内外の今後の課題

クレジットカードの不正利用を防ぐために多様な対策が進められているものの、攻撃手口の巧妙化や制度的な限界など、今後に残された課題も少なくありません。ここでは主な論点を整理します。

6-1 不正利用の手口が高度化する中での課題

テクノロジーが進化するにつれ、不正利用の手口も巧妙化しています。従来は偽メールを使った単純なフィッシングが主流でしたが、近年では公式アプリを装った偽アプリや精巧な偽サイトを用いる手口が急増しています。さらにクレジットカード番号の盗用だけでなく、ECサイトや決済アプリのアカウントを乗っ取りやAIを悪用したクレジットマスターアタックなど、手法が多様化しています。

こうした状況に対しては、従来のセキュリティ施策だけでは十分に対応できません。
サイバー攻撃の高度化と防御技術の強化は世界的な「いたちごっこ」の様相を呈しており、持続的なアップデートが欠かせません。カード会社だけでなく、加盟店や利用者のリテラシー強化も重要な対策の一つです。

6-2 国内制度や補償体制の限界

日本のクレジットカード会社では、原則として不正利用被害に対する補償制度が整備されています。
ただし、利用者や加盟店に重大な過失がある場合には、補償の対象外となることもあり、制度面での限界も指摘されています。

一方で、国際的には「ライアビリティシフト」と呼ばれる制度が導入されており、EMV(ICチップ)非対応の加盟店で不正利用が発生した場合、その損失責任を加盟店側が負う仕組みとなっています。
これはセキュリティ投資を促す効果がある一方で、対応が遅れている事業者にとっては負担となる場合もあります。

また、海外の一部ではカード付帯保険の内容によって補償範囲が限定されるケースがあり、利用者が被害を十分にカバーできない事例も見られます。
今後は、こうした制度の違いや補償範囲のばらつきを踏まえ、利用者・加盟店・カード会社それぞれがセキュリティ意識を高め、被害抑止に向けた取り組みを継続していくことが重要です。

6-3 中小事業者への導入ハードル

大手企業では最新の不正検知システムや多要素認証の導入が進んでいる一方で、中小規模の加盟店や事業者では対応が遅れているのが実情です。
その背景には、システム導入や運用にかかるコスト負担の大きさに加え、社内に専門人材が不足しており、「どのような仕組みを選定すべきか判断できない」という課題があります。

また、セキュリティ強化によって顧客体験(UX)が損なわれる懸念から、導入判断が慎重になりやすい点も指摘されています。
このような状況を踏まえると、低コストで導入可能なクラウド型サービスの活用や、専門事業者による導入・運用支援の拡充が、中小事業者を取り巻く不正利用リスクの軽減につながると考えられます。

6-4 国際的な犯罪組織への対抗

クレジットカード情報の流出は国境を越えて発生しており、犯罪組織は海外サーバーや匿名化技術を利用して攻撃を行うため、国内のみの対策では限界があります。流出した情報はダークWeb上で売買され世界中の不正取引に転用されるケースも多く、一度漏えいすると被害が拡大しやすいのが現状です。

犯行グループは複数の国を跨いで活動する傾向があり、捜査機関やカード会社が追跡・対応するまでに時間を要する点も課題とされています。こうした背景から、国内の事業者だけでなく国際的な情報共有体制や官民連携の強化が重要です。カード会社、捜査機関、システムベンダー、国際ブランドなどが協調し、不正検知や情報分析のネットワークを整備することで、国際的な犯罪組織への対抗力を高めることが期待されます。

6-5 消費者リテラシー向上の必要性

不正利用対策には技術的な仕組みが不可欠ですが、最終的には利用者一人ひとりの意識向上が被害防止に直結します。例えば、フィッシングメールや偽SMSによる被害は「怪しいリンクを開かない」といった基本的な注意によって防ぐことが可能です。

一方で、高齢者やデジタル機器に不慣れな層を中心に危機管理のための情報が十分に行き届いていない状況も指摘されています。このような課題に対応するためには、カード会社や加盟店、さらにはメディアが連携し、分かりやすい啓発活動を継続的に行うことが必要です。

具体的には、不正事例を紹介する動画やチェックリストの提供、定期的な注意喚起キャンペーンなどが有効です。利用者のリテラシー向上は、技術的対策を補完し、業界全体の不正利用抑止に資する基盤となります。

7 まとめ

クレジットカードの不正利用は、カード普及率の向上や手口の高度化によって被害が拡大しており、カード会社だけでなく、利用者や加盟店も一体となった対策が不可欠です。特にクレジットカード事業者にとってはセキュリティに関するガイドラインの遵守やインフラ整備が、被害抑止の要となります。

不正検知の高度化や運用体制に課題を感じている決済事業者の皆様は、ぜひTISへご相談ください。豊富な実績と知見をもとに、最適な対策をご提案します。