
キャッシュレス決済の普及が進んでいる近年、各国の中央銀行が発行するデジタル通貨「CBDC(中央銀行デジタル通貨)」が世界的に注目を集めています。
一見すると、電子マネーや暗号資産(仮想通貨)、ステーブルコインと同じように見えますが、CBDCは「中央銀行が発行する法定通貨のデジタル版」という点で大きく異なります。
本記事では、CBDCの定義や仕組みを整理したうえで、電子マネーや暗号資産との違い、決済におけるメリット・デメリット、さらに日本を含む国内外での最新動向を分かりやすく解説します。
1 CBDCとは?
1-1 電子マネーとの違い
1-2 暗号資産との違い
1-3 ステーブルコインとの違い
2 CBDCとキャッシュレス決済の関係
3 CBDCを決済・送金に活用するメリット
3-1 P2P送金が可能
3-2 価格が安定している
3-3 クロスボーダー決済・送金を効率化できる
3-4 現金の製造・管理コストの削減になる
3-5 脱税など不正行為の発見・防止につながる
3-6 銀行口座がない人でも利用できる
4 CBDCを決済・送金に活用するデメリット・課題
4-1 システム障害・停電時の対策が必要
4-2 プライバシー・個人情報への配慮が必要
4-3 セキュリティ・サイバー攻撃への対策が必要
5 CBDCにまつわる日本国内の動向
6 CBDCの導入に向けた世界の動向
6-1 アメリカ
6-2 ユーロ圏
6-3 イギリス
6-4 中国
6-5 スウェーデン
7 CBDCを導入した国の事例
7-1 バハマ
7-2 カンボジア
7-3 ナイジェリア
8 CBDCについてよくある疑問
8-1 CBDCでの決済はどうやって行う?
8-2 CBDCはオフラインでも使える?
9 まとめ
1 CBDCとは?
CBDCとは「Central Bank Digital Currency」の略で、日本語では「中央銀行デジタル通貨」と呼ばれます。円などの「法定通貨」をデジタル化したもので、民間企業ではなく中央銀行の債務として発行されることが特徴です。
日本銀行の定義によると、CBDCは次の条件を満たすものを指します。
- デジタル化されている
- 円などの法定通貨建てである
- 中央銀行の債務として発行される
出典:中央銀行デジタル通貨とは何ですか? : 日本銀行 Bank of Japan
「デジタル化」の方法はいくつかありますが、改ざん防止などの観点から、暗号資産(仮想通貨)などと同様のブロックチェーン技術などが使用されるのが一般的です。ただし、CBDCは、暗号資産とは発行主体や信用の裏付けなどで大きく異なります。
また決済に使えるデジタル通貨というと「電子マネー」もイメージする人も多いでしょう。こちらもCBDCとは異なる特徴を持ちます。以下では両者の違いを整理します。
1-1 電子マネーとの違い
電子マネーとCBDCの違いとして次の4点が挙げられます。
| 電子マネー | CBDC | |
|---|---|---|
| 使用できる範囲 | 導入済み店舗でのみ利用可能 | 強制通用力があり、誰に対しても利用可能 | 
| 発行体 | 民間企業 | 中央銀行 | 
| 信用度 | 民間企業の信用度に依存(民間企業の債務) | 国の信用度に依存(中央銀行の債務) | 
| 決済手数料の有無 | 加盟店に数%発生するケースが一般的 | 原則としてなし(現金同様) | 
電子マネーとCBDCは「電子的に利用できるお金」という点は共通ですが、大きな違いは「使用できる範囲」です。電子マネーは加盟店でのみ利用可能ですが、CBDCは現金と同じように「強制通用力」※を持ち、誰に対しても利用可能な通貨です。ただし実際に送金や決済を行うには、受け取る側が対応する口座やアプリを利用している必要があります。
また、信用の裏付けも異なります。電子マネーは民間の企業・金融機関が発行するため、その企業の信用度に依存します。一方でCBDCは中央銀行が発行するため、国家の信用に支えられています。また店舗側が電子マネーで決済を受け付けると、決済システムを提供する事業者などに対して決済手数料が発生しますが、CBDCは現金と同じように手数料なしで決済できるとされています。
※強制通用力:決済手段などに使用した場合に、受け取り側が拒否できないこと。(日本銀行法第46条2項)
1-2 暗号資産との違い
暗号資産とCBDCはいずれもブロックチェーンなどのデジタル技術を活用して発行・管理される点で共通しています。ただし、次のような違いがあります。
| 暗号資産 | CBDC | |
|---|---|---|
| 発行体 | 民間企業・団体 | 中央銀行 | 
| 法定通貨に対する価値変動の有無 | あり(価格が常に変動) | なし(法定通貨と同等) | 
| 投機性 | あり(売買対象となる) | なし(投機対象にならない) | 
暗号資産は民間企業が発行・運用するデジタル資産であり、国家による価値の裏付けはありません。そのため価格は市場で変動し、法定通貨に対してボラティリティ(変動性)が高い点が特徴です。この性質を利用して、短期的な売買によって利益を得る「投機」の対象として利用されるケースも多いです。
一方でCBDCは、法定通貨と常に等しい価値を持つように設計されており、価値変動リスクは基本的にありません。インフレなどに伴う通貨価値の変化はありますが、それは既存の法定通貨と同等の範囲にとどまります。そのため、CBDCは投機対象としてではなく、安定した決済手段として利用されます。
1-3 ステーブルコインとの違い
法定通貨と連動した暗号資産として「ステーブルコイン」も知られています。
ステーブルコインとは、法定通貨や金などと価値を連動(ペッグ)させることで価格を安定させる仕組みを備えた暗号資産です。
関連コラムはこちら:ステーブルコインとは?用途やメリット・デメリット・市場動向を解説
CBDCとステーブルコインの違いとして、次の3点が挙げられます。
| ステーブルコイン | CBDC | |
|---|---|---|
| 発行体 | 民間企業 | 中央銀行 | 
| ペッグの概念の有無 | あり(法定通貨や資産に連動) | なし(法定通貨そのものと等価) | 
| 法定通貨に対する価値変動の有無 | 連動はするが保証はない | なし(国が保証) | 
ステーブルコインは民間企業が発行・管理しており、例えば「1ドル=1ステーブルコイン」といったレートを維持するように設計されています。ただし、これは「価値が裏付け資産と連動する仕組み」であり、必ずしも完全に保証されているわけではありません。過去には価格連動が崩れた事例も存在します。
一方でCBDCは、「法定通貨そのもののデジタル版」として発行されます。中央銀行が発行主体であるため、価値は常に法定通貨と等しく、ステーブルコインのような「ペッグ(連動)」という概念自体が必要ありません。これにより、CBDCは国家の信用によって価値が保証される唯一のデジタル通貨といえます。
2 CBDCとキャッシュレス決済の関係
CBDCはキャッシュレス決済の新たな選択肢として注目されています。
暗号資産は「P2P送金ができる」「国際送金(クロスボーダー送金)を効率化できる」など多くのメリットがありますが、価格が不安定で投機性が高く、決済手段としては普及が進んでいません。
そのため「価格が安定していて、かつ暗号資産と同様の利便性を持つデジタル通貨」への期待が高まっています。
ステーブルコインは法定通貨と価値を連動させて安定性を確保する仕組みを持っていますが、発行主体が民間企業である以上、価格変動リスクが完全に排除されるわけではありません。
その点、CBDCは中央銀行が発行し、法定通貨と同等の価値が保証されるため、より高い安定性を持つとされています。これにより、キャッシュレス決済・送金の手段として普及する可能性が高いデジタル通貨として注目されています。
3 CBDCを決済・送金に活用するメリット
CBDCを現金や他の決済手段の代わりに活用することで、次の6つのメリットが期待されます。
それぞれ詳しく解説します。
3-1 P2P送金が可能
CBDCは、仲介機関を介さずに「P2P(Peer to Peer)」で直接送金できる設計が想定されています。これは現金を直接手渡す感覚に近く、ユーザー同士が直接やり取りできる点が特徴です。
従来のキャッシュレス決済手段では、銀行や決済事業者を仲介するため、手数料や時間的コストが発生します。CBDCのP2P送金ではこうした仲介を省略できるため、コスト削減と即時性の向上が可能です。
店舗側にとっても、決済手数料の圧縮や入金スピードの改善により、キャッシュフローの安定化につながることが期待されます。
関連コラムはこちら:P2P(Peer-to-peer:ピアツーピア)決済に注目してみよう!
3-2 価格が安定している
暗号資産もP2P送金は可能ですが、価格変動が激しいため日常決済に使いにくいという課題があります。ステーブルコインは価格安定を目的に設計されていますが、発行主体が民間である以上、価値の連動が崩れるリスクは残ります。
CBDCは中央銀行が発行する法定通貨のデジタル版であり、国による信用を背景に価値が保証されます。そのため、暗号資産やステーブルコインよりも決済手段としての安定性が高いのが特徴です。
3-3 クロスボーダー決済・送金を効率化できる
CBDCは国際送金やクロスボーダー決済の効率化にも貢献すると期待されています。従来の国際送金は複数の中継銀行を介するため、着金まで数日かかり、手数料も高額になりがちでした。
CBDCを利用すれば、中継銀行を介さずに送金できる可能性があり、手数料の削減や着金スピードの向上につながります。特に海外取引の多い企業や仕送り・留学費用などで国際送金を行う個人にとって、CBDCの導入は大きなメリットとなるでしょう。
3-4 現金の製造・管理コストの削減になる
CBDCの導入は、現金の製造・流通にかかるコストを削減する効果も期待されています。紙幣や硬貨には印刷・鋳造に加え、全国への配送、ATMへの補充、古い通貨の回収・廃棄といった一連のコストが伴います。
CBDCは完全にデジタルで流通するため、こうした物理的コストを削減可能です。さらに、店舗ではレジ現金の管理や集計の負担が減り、利用者も現金を持ち歩く必要がなくなるなど、社会全体の効率化につながります。
3-5 脱税など不正行為の発見・防止につながる
CBDCは脱税など不正行為の発見・防止につながるというメリットからも注目されています。
現金での不正取引が秘密裏に行われた場合、その記録が残らないことがあり、不正行為の発見が遅れることがあります。
この点、CBDCでの取引は電子的に記録されるため、必要に応じて追跡・監査が可能です。
決済・送金においては脱税をはじめ、詐欺やマネーロンダリング・テロ資金供与といったさまざまな不正・犯罪に対する対策が求められます。現金の代わりにCBDCが利用される場面が広がることで不正行為が発見されやすくなり、コンプライアンス遵守を強化する仕組みとして機能することが期待されています。
3-6 銀行口座がない人でも利用できる
CBDCは銀行口座を前提としない仕組みが設計可能であり、金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)を推進する手段として注目されています。
従来のキャッシュレス決済は多くの場合、銀行口座の開設を前提としており、口座を持たない人々は利用できませんでした。CBDCはスマートフォンや専用アプリを通じて利用できる設計が検討されており、銀行口座を持たない人でもデジタル金融サービスにアクセス可能になります。
特に発展途上国では、CBDCの導入が金融サービスを誰もが利用できる環境整備につながると期待されています。
4 CBDCを決済・送金に活用するデメリット・課題
CBDCを決済・送金に普及させるには、次のような課題への対応が不可欠です。
- システム障害・停電時のリスク
- プライバシー・個人情報への配慮
- セキュリティ・サイバー攻撃への対策
これらは電子マネーなど既存のキャッシュレス決済にも共通する課題ですが、「法定通貨のデジタル版」という性質を持つCBDCには、より強固で信頼性の高い対応が求められます。
4-1 システム障害・停電時のリスク
CBDCはインターネットや電力を前提として利用されるため、ネットワーク障害や停電が発生すると利用できなくなるリスクがあります。
現金であれば停電や通信障害時でも直接受け渡しできますが、CBDCはオンライン環境が不可欠です。そのため、障害発生時に備えたオフライン利用の仕組みや冗長性の高いインフラが求められます。
また利用者にとっても、緊急時には最低限の現金を併用するなど代替手段を確保することが現実的な対策となります。
4-2 プライバシー・個人情報への配慮が必要
CBDCの取引履歴は電子的に記録されるため、「脱税など不正行為の発見・防止につながる」というメリットがある一方で、プライバシー侵害の懸念も指摘されています。
特にCBDCは国が管理するものであるため、国家による「過度な監視につながるのではないか」という懸念が国内外で議論されています。
このため、取引データの記録範囲・利用目的・保存方法を明確化し、匿名性と透明性のバランスを取ることが重要です。利用者が安心して使えるルール整備がなければ、一般普及に向けた理解を得るのは難しいでしょう。
4-3 セキュリティ・サイバー攻撃への対策が必要
CBDCの運用システムがサイバー攻撃や不正アクセスを受けた場合、金融取引の停止や資産流出といった深刻な被害が発生しかねません。個人情報の漏えいは、CBDCそのものだけでなく国家の信用を揺るがすリスクも伴います。
そのため、CBDCの導入には次のような強固なセキュリティ対策が不可欠です。
- リアルタイムの不正検知システム
- 通信やデータの暗号化
- バックアップや復旧体制の構築
さらに、企業や店舗においてもネットワークセキュリティの強化が求められます。CBDCを安心して利用できるかどうかは、利用環境の安全性にも大きく左右されます。
5 CBDCにまつわる日本国内の動向
日本銀行は2020年10月9日、「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」を公表しました。その中で「現時点でCBDCを発行する計画はない」と明言しており、2025年9月現在においても計画は発表されていません。
出典:中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針 : 日本銀行 Bank of Japan
ただし、発行を前提とした「実証実験」は進められており、日本銀行は2021年4月より、CBDCに求められる基本機能を実行できるかを検証する「概念実証フェーズ1」を開始しました。
2022年4月からは、さまざまな周辺機能を加えて実現可能性を検証する「概念実証フェーズ2」を開始。さらに2023年4月からは、民間事業者の知見を反映させることなどを目的としてさらに詳しい技術的検証を行う「パイロット実験」を進めています。
出典:中央銀行デジタル通貨に関する実証実験「パイロット実験」の進捗状況(2025 年 5 月)
6 CBDCの導入に向けた世界の動向
2025年9月現在では、CBDCを正式導入している国は少数です。導入済みの国の事例については「CBDCを導入した国の事例」のセクションで紹介します。
CBDCの導入に向けて、世界ではどのように準備が進められているのでしょうか。代表的な事例として、次の5つの国・地域の動向を紹介します。
- アメリカ
- ユーロ圏
- イギリス
- 中国
- スウェーデン
6-1 アメリカ
アメリカではバイデン政権の時代までCBDCの発行準備が進められていました。
FRB(連邦準備制度理事会)は2022年1月に、CBDCに関する報告書を発表。同年の3月9日には、CBDCの発行に向けた研究を加速するよう指示する大統領命令への署名がなされています。
参照:バイデン米大統領、デジタル資産の研究開発加速を命じる大統領令に署名(米国、ロシア、ウクライナ) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ
しかしトランプ政権ではCBDCではなく「ステーブルコイン」を推奨する方向に舵を切っています。トランプ大統領は2025年1月、金融システムの安定や個人のプライバシーを脅かすといったリスクから国民を守るなどの目的で、政府がCBDCを発行することを禁止する大統領令を発出しました。
さらにステーブルコインを推進する「GENIUS法案」や、政府がCBDCを発行することを禁止する「反CBDC法案」の可決を目指しており、CBDCではなく「ステーブルコイン」の普及に向けて動いています。
6-2 ユーロ圏
ユーロ圏を管轄するECB(欧州中央銀行)は2023年11月より、ユーロのCBDC「デジタルユーロ」の発行に向けた「準備フェーズ」を開始しています。
準備フェーズでは、デジタルユーロが利用者のニーズやシステムの要件を満たせるかどうかを確認するために、さまざまな実証実験や関係者との意見交換が行われました。
2025年7月にはデジタルユーロの準備フェーズに関する3回目の進捗報告書が公開され、一般企業の代表者や業界の専門家によるフィードバックなどを活用しながら、ルールブック草案の策定などの準備が進められていることが報告されています。
参照:ECB publishes third progress report on the digital euro preparation phase
6-3 イギリス
イギリスでは「デジタルポンド」と呼ばれるCBDCの発行に向けて、議論・検討が進められています。
2020年3月には、イングランド銀行がCBDCについて意見交換・議論を促すディスカッションペーパーを発表。2021年4月には、財務大臣がCBDCの可能性についての検討を調整する組織「デジタル・ポンド・タスクフォース(旧CBDCタスクフォース)」の設置を発表しました。
2025年9月時点で、デジタルポンドを導入するかどうかは決定されていませんが、着々と実験・検討が進められています。
参照:Digital pound news | Bank of England
6-4 中国
中国は早い段階でCBDC(デジタル人民元:e-CNY)の大規模な実証実験を始めた国として知られています。
2019年にはデジタル人民元のパイロットプログラムを深圳・蘇州・成都・雄安新区と、冬季オリンピック会場で開始しています。
2022年にはパイロットエリアのユーザー向けに、デジタル人民元への入金や出金・決済などができるウォレットアプリをリリース。2024年7月時点で、デジタル人民元アプリによる累計取引額は7.3兆元にも達しています。
スマートフォンを持たない層向けのカード型のデジタル人民元ウォレットなども展開し、デジタル人民元の導入に向けた取り組みを進めています。
参照:中国発・次世代金融インフラの実像:デジタル人民元最前線 | リサーチ | インサイト | 電通総研
6-5 スウェーデン
スウェーデンでは「e-クローナ」と呼ばれるCBDCの導入についての検討が進められています。
スウェーデン国立銀行は2017年、eクローナのプロジェクトを開始し、技術面・法律面での課題についての検討を開始しました。
2020年には、より実践的なパイロットプロジェクトに移行し、アクセンチュア社と共同でeクローナの技術的ソリューションの実現可能性について詳細な検討を進めました。
パイロットプロジェクトは2023年に終了し、ユーロ圏など世界のデジタル通貨の動向の監視に注力するフェーズに移行しています。
参照:The e-krona – state money in digital form | Sveriges Riksbank
7 CBDCを導入した国の事例
次に、実際にCBDCを正式導入した国の事例を見ていきましょう。次の3つの国では、既にCBDCの導入がスタートしています。
- バハマ
- カンボジア
- ナイジェリア
それぞれどのように導入され、どこまで普及しているのか詳しく紹介します。
7-1 バハマ
世界で初めてCBDCを正式導入した国として知られるバハマでは、法定通貨バハマドルのデジタル版「サンドドル」を発行し、全国的に正式導入しています。
導入の背景には、離島が多く現金輸送が非効率であることや、銀行口座を持たない層への金融サービス提供、2019年のハリケーン・ドリアンによる災害時の金融サービス寸断への対応などがありました。
バハマでは2019年にサンドドルのテスト運用を開始、同年10月には全国規模でCBDCを正式導入しています。
国民はモバイルアプリや物理カードを使ってサンドドルの送金・受け取りが可能です。またサンドドルの収入・支出のデータを記録して、マイクロローン申請の裏付けデータとしても活用できます。
参照:Digital Bahamian Dollar SandDollar
7-2 カンボジア
カンボジアでは、2020年10月に「バコン(Bakong)」というデジタル決済システムを導入しました。
日本のソラミツ社と共同で開発したシステムで、電子ウォレット・モバイル決済・オンラインバンキングなどの機能を使えるモバイルアプリとして提供されています。タイ・ベトナム・マレーシアなどとのクロスボーダー決済も可能です。
ただし一般的なCBDCは「中央銀行の債務」として発行されますが、バコンには「民間金融機関の債務」が利用されています。ソラミツ社によるとバコンは厳密にはCBDCではなく、「中央銀行が運営する決済システム・決済アプリケーション」であるとしています。
参照:日銀CBDCフォーラム WG4資料|CBDCへのDLTの応用可能性|2024年7月ソラミツ株式会社
7-3 ナイジェリア
ナイジェリアでは2021年10月に「イーナイラ(eNaira)」と呼ばれるCBDCを正式リリースしました。とはいえイーナイラは2025年9月現在、国民への普及が進まなかったCBDCの事例として知られています。
普及が進まなかった要因として、法定通貨ナイラの信頼性の低さや、ステーブルコインの普及といった点が指摘されています。
ナイジェリアは2023年の急激なナイラ相場の暴落などをきっかけに経済危機に陥っていることもあり、イーナイラは評価が難しい事例であるといえるでしょう。
参照:ナイジェリア中銀、電子通貨「イーナイラ」をリリース(ナイジェリア) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ
8 CBDCについてよくある疑問
CBDCがどのような通貨なのかについて、よくある次の疑問の回答をまとめました。
- CBDCでの決済はどうやって行う?
- CBDCはオフラインでも使える?
8-1 CBDCでの決済はどうやって行う?
CBDCでの決済は通常のキャッシュレス決済と同様、物理的なカードや、スマートフォンにインストールされた「ウォレットアプリ」などを使って行われます。
ウォレットアプリの使い方は通貨の種類によって異なりますが、例えばバハマの「サンドドル」は、ウォレットアプリのQRコードを読み取ることで決済・送金が可能です。ウォレットアプリでは送金を「受け取る」こともできます。ウォレットアプリを使用できるのは、サンドドルが有効な国内に限られますが、外国人でもアプリを使って外貨でサンドドルを購入することが可能です。
8-2 CBDCはオフラインでも使える?
CBDCは基本的にオンライン状態で決済を行うため、インターネットが使えないオフラインの状態では決済できなくなる可能性があります。CBDCは基盤としてブロックチェーンと呼ばれるネットワーク技術が使用されるため、基本的にはオンラインでのみ決済が可能です。
とはいえオフライン状態で使えなければ、山間部などインターネットがつながりにくい場所で使えなくなってしまい、法定通貨の代わりとしての利便性が下がってしまうでしょう。
技術的には、オフライン状態での取引は不可能ではありません。ただしオフライン状態では、決済の安全性や整合性を保つことが難しくなります。オフライン状態でも安全に決済できる仕組みを構築するためには、オフラインで安全性・整合性をどのように保つかを十分に検討する必要があります。
9 まとめ
CBDCは中央銀行が法定通貨としてデジタルで発行する信頼性の高いデジタル通貨です。
決済・送金の効率化や、金融包摂の促進といったメリットから注目される一方で、オフライン対応、プライバシー・セキュリティ課題などが導入の障壁となります。
日本国内では2025年9月現在、CBDCを導入するかどうかは未定ですが、実証実験が進行中です。世界各国でも検討が進んでおり、既に運用を開始している国もいくつか存在します。
TISは、国内の金融・決済インフラ構築で培った技術や知見をもとに、ステーブルコインをはじめ、セキュリティトークン、NFT、各種アセットトークンの発行が可能なプラットフォームを提供しています。
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