コラム Column

法人カードの市場動向とニーズを解説。いま求められる金融サービスの形とは

ビジネスカードのイメージ画像

企業のDX化は、2022年から2027年の5年間で急速に進むと見られており、今後はSaas、FinTechの融合による企業の課題解決へのニーズがさらに高まるでしょう。

近年では、金融サービスとIT技術を組み合わせた「FinTech」の市場拡大に伴い、法人や個人事業主に対して発行されている法人向けクレジットカード(以下、法人カード)事業への参入が注目されています。

この記事では、法人カードの市場動向やニーズ、事例などを紹介し、いま法人カード市場に求められるサービスとはどのようなものなのかを解説していきます。

法人カードの市場動向

法人カードは、法人名義で契約しビジネス上の支払いに使用されるクレジットカードです。個人がプライベートで使用する個人カードとの違いは、申込時の審査対象、指定できる支払い口座、限度額、付帯サービスなどにあります。

まずはこの法人カード市場の現状と、今後の顧客ターゲット、市場規模について見ていきましょう。

●法人カードの利用状況

2014~2023年における法人カードの発行枚数グラフ

※日本クレジット協会の資料を基にTIS作成
 https://www.j-credit.or.jp/information/statistics/download/toukei_inumber_b.pdf

一般社団法人日本クレジット協会の『クレジットカード発行枚数調査結果』によれば、2023年の法人カードの発行枚数は1,201万枚。2014年の639万枚から比較すると、約2倍に増加しています。

さらに上図の推移からは、とくに新型コロナウイルス感染症が流行した2020年以降から法人カードの発行枚数が一定のペースで増えていることがわかります。テレワーク導入などの推進が行われるなかで企業のDX化が進み、法人カードの市場が拡大したことが理由としてあげられるでしょう。

▼参考資料
日本クレジットカード協会『クレジットカード発行枚数調査結果』

●今後のターゲットは「伝統的な中小企業」

ところがDXは、大企業を中心に多くの企業で進められているものの、従業員の少ない企業ほど進んでいないという現状があります。以下は、独立行政法人中小企業基盤整備機構による「従業員規模別DXの取り組み状況」を示したグラフです。

※独立行政法人中小企業基盤整備機構の資料を基にTIS作成
https://www.smrj.go.jp/research_case/research/questionnaire/favgos000000k9pc-att/202310_DX_report.pdf

101人以上の企業では「すでに取り組んでいる」「取り組みを検討している」が合計で66.2%なのに対し、20人以下の企業では16.7%と大きく下回りました。さらに20人以下の企業では「取り組む予定はない」との回答が51%にのぼり、DXへの意識の差が顕著に現れました。

DXの効果が実感として広がれば、今後は、「必要だと思うが取り組めていない」「取り組む予定はない」とするDXに未対応の中小企業も積極な取り組みを始めるでしょう。
これらの企業には、以下のような特徴があります。

・インターネットを活用せずに情報を税理士・商工会などから収集している
・業務が経理担当者などに属人化している
・インボイスなどの制度対応を税理士に依存している

こうした企業がDXに取り組む最初の一手として、労働生産性の向上やキャッシュフローの改善などを目的に法人カードの利用が進むと考えられます。それでは、これらの企業が法人カードを活用した場合の市場規模を見ていきましょう。

▼参考資料
独立行政法人中小企業基盤整備機構『中小企業のDX推進に関する調査(2023年)アンケート調査報告書』

●法人カードの市場規模

法人カードの市場規模推定
※法人企業統計調査 時系列データ(金融業・保険業以外)2020年度より試算

2020年度の『法人企業統計調査 時系列データ(金融業・保険業以外)』によれば、企業間取引におけるキャッシュレス化の市場規模は、全体で仕入れ市場1,000兆円、経費市場300兆円です。内、顧客ターゲットとなる中小企業のキャッシュレス化が可能な取引を試算したところ、仕入れ市場では40兆円、経費市場では35兆円でした。

▼参考資料
財務省 財務総合政策研究所『法人企業統計調査 調査の結果(目次)』

法人カードの市場ニーズ

オフィスの様子をうつした写真

ここまで法人カードには伝統的な中小企業に向けた市場があることを解説してきました。では具体的にどのようなニーズがあるのでしょうか。次では、法人カードの市場ニーズについて詳しく解説していきます。

●中小企業の課題

中小企業の課題には、大きく以下の3つがあげられます。

1.資金繰り

資金繰りの管理ができていなかったり、売り上げに変動が生じたり、資金調達がうまくいかなかったりした場合、資金繰りが厳しくなることがあります。そうなると、必要な支払いができなくなるほか、支払い先からの信頼を損なうことにもつながりかねません。

2.人材確保、業務効率化

中小企業における従業員数は2009年をピークに減少を続けています。今や中小企業の人材不足は深刻化し、限られた人材でいかに業務効率化を図るかが喫緊の課題となっています。

3.決済周りのデジタル化

人材不足の影響もあり、近年デジタル化の優先度は高まっているものの、取り組めていない企業はまだ多く存在します。とくに決済周りの業務は、紙の書類が主流の企業も少なくありません。

●課題解決には法人カードが有効

上記の課題は、法人カードを活用することで解決できます。

1.支払いタイミングの延期

法人カードで利用した料金は、利用した月の翌月以降の支払いになります。そのため、支払いタイミングの延期により、資金繰りの改善を図ることができます。

2.デジタル化で業務の効率化につながる

会計システムと請求書管理システムに法人カードを自動連携することで、紙の書類によるやりとりや管理がなくなり、大幅な業務効率化につながります。領収書などもデータによる取り扱いに統一することで、管理がしやすくなるでしょう。

●法人カードを取り巻く外部環境

近年、法人カードの利用に影響を与えた外部環境として、「電子帳簿保存法の改正」「インボイス制度」があります。それぞれの影響について解説します。

1.電子帳簿保存法

電子帳簿保存法とは、税務関係帳簿書類のデータ保存を可能とする法律のことです。2022年1月にこの法律が改正され、電子データで受け取った領収書などの証憑は、電子データのまま保存しなければならなくなりました。

一方、紙で受け取った場合は紙のまま保存することが認められていますが、スキャナ保存で電子データとして保存し、原本を破棄することも可能です。

名刺管理サービスを展開するSansanが法人カードの管理業務に携わる1,000名のビジネスパーソンに行なった調査では、「電子帳簿保存法の観点で、法人カード利用時に発生する証憑の管理や保管に課題を感じていますか」との問いに対して、「はい」と答えたのは69.9%。具体的な課題に関しては、「社員から提出される証憑が紙か電子どちらで受領したかの確認」(72.1%)、「証憑が紙だった場合の保管・管理」(58.8%)、となっています。

▼参考資料
国税庁『電子帳簿等保存制度特設サイト』
Sansan『法人カード利用に関する実態調査』

2.インボイス制度

2023年10月1日から開始されたインボイス制度は、複数税率に対応した仕入税額控除の方式です。企業が消費税の仕入れ税額控除を適用するには、適確請求書の保存が必要です。

インボイスの施行によって、取引先が適確請求書発行事業者であるかどうかの確認作業に加え、これまで法人カードの利用明細で経費精算を行えた3万円未満の仕入れに対しても、証憑の回収・保管をしなければならなくなりました。

Sansanの同調査によれば、「インボイス制度の観点で、法人カード利用時に発生する証憑の管理や保管に課題を感じていますか」との問いに対して「はい」と答えた人は73.1%。具体的な課題については、「すべての証憑の回収」が68%、「証憑が適格請求書の要件を満たしているかの確認」が63.6%となっています。

▼参考資料
国税庁『インボイス制度とは』

これらの電子帳簿保存法・インボイス制度の施行に伴い、法人カードの証憑の取り扱いに課題を感じている担当者が多いことがわかります。これらの中小企業の課題に対応する電子帳簿保存法・インボイス制度に対応する法人カードが近年トレンドとなっています。

では、次の章で実際にどのような事例があるのかを見ていきましょう。

法人カードの事例

オフィスでほほ笑む男女の写真

事例として次に取り上げる3社は、いずれも電子帳簿保存法・インボイス制度に対応しており、スマートフォンによる証憑の回収対応や自動判定機能などが実装されています。また、法人カードと併せて経費精算管理システムなどを展開することで、利用状況や収支管理を円滑に行える仕組みがあります。

●freee

クラウド会計サービス『freee』で知られるfreeeは、個人事業主や1~20名の法人、20名〜/IPO準備の法人に対してカードを発行できます。とくに1~20名の法人、20名〜/IPO準備の法人を対象にした『freeeカード Unlimited』は、freee独自にカード発行の審査をするため、会社設立直後で審査に落ちてしまった方なども審査に通る可能性があります。利用限度額は最大1億円で、WEB上でカードごとに利用上限額や利用停止の設定ができ、利用状況はリアルタイムに管理者に通知されます。

▼参考資料
freee『freeeカード』

●UPSIDER

UPSIDERの『UPSIDERカード』は、「上場のための法人カード」として最大10億円の限度額と発行枚数無制限、年会費・発行手数料無料で使えます。不正利用への対策として、200以上のサービスから利用先を制限できるほか、取引ごとに利用期間や上限金額を設定することも可能です。不正利用時の補償や公認会計士のサポート体制なども整えられています。

▼参考資料
UPSIDER『UPSIDERカード』

●LayerX

LayerXの『バクラクビジネスカード』は、上限金額1億円以上の高額決済が可能で、初期費用・年会費・発行手数料無料で使用できます。利用用途ごとに上限金額を設定できるだけでなく、決済後すぐに決済内容や決済の成否について通知が届く仕組みも特長です。不正利用時の補償や、海外出張時の傷害保険もリアルカードの利用に付帯しています。

▼参考資料
LayerX『バクラクビジネスカード』

法人カード市場に参入するには

事業計画のイメージ写真

実際に法人カード市場に参入するには、どのような課題があるのでしょうか。

●ビジネスモデルの検討

法人カードは、「インターチェンジフィー」と呼ばれる手数料を主な収入源としていました。しかし、ポイント還元等で法人カード市場のプレイヤーの競争原理が働いた結果、カード単体での収益は見込めません。先に説明した法人カードの事例においても、経費精算アプリ等を対の事業として展開していることがわかります。

法人カード市場に参入する際には、前述の市場規模、想定ターゲット、ターゲットの抱える課題、競合企業などを押さえつつ、「どうすればほかの企業と差別化できるのか」を綿密に検討することが求められます。

●参入までの課題とは

法人カード市場への参入を検討するにあたり、ハードルは決して低くありません。

主に以下の3つの課題への対応が必要となるでしょう。

・金融ライセンスの取得
・ミッションクリティカル(業務上必要不可欠)な仕組みを支えられるシステムの構築
・会員データを安全に扱うためのサービス運用

●TISの支援内容

TISでは、決済サービスを立ち上げるお客様へ、事業のコンサルティングからシステムまで一貫したサービス提供を行っています。

クレジットカード基幹システム国内シェア50%、デビットカード基幹システム国内シェア86%と国際ブランドカード発行システムで高いシェアと実績を有し、安心安全な決済サービスの実現を支援します。

決済サービスの立ち上げの際は、ぜひお問い合わせください。

魅力的な法人カードの市場

近年の電子帳簿保存法やインボイス制度の施行により、中小企業の収支管理に関する課題が顕在化し、DX化の優先度はますます高まっています。

参入ハードルは決して低くありませんが、今後の成長性や規模を踏まえれば魅力的な市場と言えるでしょう。

ぜひ検討してみてください。

※この記事が参考になった!面白かった! と思った方は是非「シェア」ボタンを押してください。