キャッシュレス化が進む日本では、店舗におけるクレジットカード決済のセキュリティ強化が重要な課題となっています。中でも「EMV」と呼ばれるICチップによる決済方式は、不正利用の防止に効果的な国際標準の仕組みとして注目されています。
本コラムでは、EMVの意味や仕組み、導入メリット、対応端末の選び方などについて解説します。
1 EMVとは?意味や仕組み、特徴を理解しよう
1-1 EMVチップカードと磁気ストライプカードの違い
1-2 EMVチップの仕組みと特徴
1-2-1 EMV 3-Dセキュアとの違いと関係
1-2-2 他のセキュリティ基準(PCI DSSなど)との連携性
2 EMV対応が急速に進んだ理由・背景
3 EMV非対応によるリスク
3-1 カードブランド各社(Visa・Mastercardなど)の方針
4 EMV対応端末の種類と導入の流れ
4-1 EMV対応端末の種類と選び方
4-2 タッチ決済(非接触決済)との関係
4-3 導入までのステップと必要な準備
5 まとめ
1 EMVとは?意味や仕組み、特徴を理解しよう
EMVとは、世界の主要なカードブランドである「Europay(ユーロペイ)」「Mastercard(マスターカード)」「Visa(ビザ)」の頭文字を取ったもので、ICチップを搭載したクレジットカード決済の国際的なセキュリティ規格です。従来の磁気ストライプカードに比べて、不正コピーやスキミングへの耐性が高く、安全性の高い取引が可能です。
EMV規格は1990年代に策定され、現在ではJCBやAmerican Express(アメリカン・エキスプレス)など他の主要な国際ブランドもこの基準に準拠しています。日本国内でもセキュリティ強化の観点から導入が進んでおり、キャッシュレス対応店舗にとってEMVの理解と対応は必須といえます。
1-1 EMVチップカードと磁気ストライプカードの違い
EMVチップカードと磁気ストライプカードの最大の違いはセキュリティ性能です。磁気カードは一度情報を読み取られると容易に複製されるリスクがありますが、EMVチップカードは取引ごとに異なる暗号化データ(動的データ)を生成するため、不正な複製が極めて困難です。
また、読み取り方法にも違いがあります。磁気カードはスワイプ方式、EMVカードは差し込みやタッチによる読み取りが一般的です。こうした背景から、Mastercardは2024年以降、磁気ストライプカードの廃止を段階的に進める方針を発表しており、今後はセキュリティ性の高いチップカードやナンバーレスカードへの移行が加速するとみられます。
1-2 EMVチップの仕組みと特徴
EMVチップは、決済時に毎回異なる暗号化データを生成することで、不正利用を防止します。磁気ストライプのような固定データではなく、取引ごとに動的なデータを用いるため、スキミング等の手口が成立しにくくなります。
さらに、通信が不安定な環境でも端末とカード間で認証処理ができる「オフライン認証」機能を備えており、通信状況が悪くても安全に決済できます。PINコードとの組み合わせにより本人確認の精度が高まり、世界中の実店舗において安全な決済を実現しています。
1-2-1 EMV 3-Dセキュアとの違いと関係
EMVとEMV 3-Dセキュアは、それぞれ異なる用途のセキュリティ強化技術です。
EMVは実店舗での決済において、端末とICチップカード間の通信で不正利用を防ぎます。
一方、EMV 3-Dセキュアはオンライン決済における本人認証方式で、ワンタイムパスワードやSMS認証などを通じて、なりすましを防止します。
両者を併用することで、実店舗とオンラインの両面で高いセキュリティを実現できます。
1-2-2 他のセキュリティ基準(PCI DSSなど)との連携性
EMVだけでは不正対策は十分とは言えません。
EMVが端末側の不正対策を担うのに対し、PCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard)は、カード情報全体の保護を目的とした国際基準です。
PCI DSSでは、情報の暗号化、アクセス制限、ログ監視などが求められます。EMVとPCI DSSは役割が異なるため、両方を併用することで実店舗からオンライン環境まで一貫したセキュリティ体制を構築することが重要です。端末やシステム、ネットワークを含めた網羅的な対策により、カード情報漏えいや不正アクセスから顧客と事業者を守ることができます。
2 EMV対応が急速に進んだ理由・背景
EMV対応が加速した背景として、クレジットカードの偽造やなりすましなど、不正利用の急増があります。海外では2000年代初頭からEMVチップの導入が進み、アメリカやヨーロッパでは既に主流の決済方式となっています。
日本では2010年代以降、訪日外国人の対応や東京オリンピックを見据えた整備により、EMV導入が急速に進みました。
高まるセキュリティ意識と、世界水準のキャッシュレス環境の整備が求められる中、EMV対応はもはや選択肢ではなく「必須の対応」になっていると言えるでしょう。
3 EMV非対応によるリスク
EMVに未対応のままカード決済を続けると、不正利用時の損害を店舗側が負担する「ライアビリティシフト」のリスクがあります。その典型例が「チャージバック」です。
これは、クレジットカードの保有者が不正利用を訴えた場合、取引金額が返金され、その損失が店舗側に課される仕組みです。
さらに、セキュリティ意識の高い消費者からは信用を失い、顧客離れを招く恐れもあるため、EMV対応は店舗経営における信頼維持と損失回避のために不可欠な対応です。
3-1 カードブランド各社(Visa・Mastercardなど)の方針
VisaやMastercardをはじめとするクレジットカードの主要な国際ブランドは、EMV準拠をグローバルスタンダードとして位置づけ、「ライアビリティシフト」を適用しています。EMV非対応の店舗で発生した不正取引は、加盟店側が責任を負う可能性が高まります。国や業種によってはEMV対応が実質的に必須となっており、今後もこの流れは続くと見られます。
4 EMV対応端末の種類と導入の流れ
店舗側がEMV対応を進めるには、ICチップ決済に対応した端末の導入が不可欠です。ここでは、端末の種類や選び方、導入までの流れを解説します。
4-1 EMV対応端末の種類と選び方
EMV対応を進める際は、店舗の業態や規模に合わせて適切な端末を選ぶことが重要です。例えば、移動販売や小規模店舗では、スマートフォンと連携して使用できるモバイル決済端末が手軽でコストも抑えられます。一方、中〜大規模の店舗では、POSレジと一体化した端末を導入することで、会計処理の効率化や在庫管理との連携が可能になります。
端末の選定時は、導入コストや操作性、将来的な拡張性なども考慮し、業務フローに最適な端末を選びましょう。
4-2 タッチ決済(非接触決済)との関係
EMV対応端末はICチップによる読み取り機能が基本ですが、近年では多くの端末が非接触決済(NFC)にも対応しています。「Visaのタッチ決済」などはその代表例で、カードやスマートフォンを端末にかざすだけで、スピーディな支払いが可能です。これにより、レジでの待ち時間が短縮され、顧客満足度の向上や回転率アップにもつながります。
EMV端末を導入する際は、ICチップの読み取りと非接触決済の両方に対応しているものを選ぶのが理想的です。これは、店舗の利便性と競争力を高める上で、有効な選択肢となるでしょう。
4-3 導入までのステップと必要な準備
EMV対応端末の導入は、以下のステップで進めるのが一般的です。
- 情報収集・比較検討:目的や予算に合わせ、端末や提供事業者を調査
- 機器の選定・契約手続き:カードブランドや決済代行会社との契約・申請
- 端末の設置準備:ネット回線・電源など設置環境の確認・整備
- 端末の設置・動作確認:初期設定とテスト決済の実施
- スタッフ教育:操作研修とトラブル時の対応訓練
スムーズな導入のためには、事前準備を丁寧に行い、運用後のトラブルを最小限に抑える体制づくりが欠かせません。
5 まとめ
EMVは、実店舗におけるクレジットカード決済の安全性を高める国際標準であり、対応は必須です。これからキャッシュレス決済の対応を進める店舗にとって、信頼性とセキュリティの両立は重要なポイントと言えます。
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