現在、さまざまな業界から大きな注目を集めている「MaaS」。MaaSはMobility as a Serviceのことで、日本語に訳すと「サービスとしての移動」となります。鉄道やバス、タクシー、レンタカー、カーシェア、シェアサイクルなどを使った移動手段をICTによりシームレスに連携する事で、新たな価値を生み出す概念がMaaSです。
MaaSは、単に移動を便利にする手段ではありません。交通業界だけでなく、多くの業界に革新的な変化とビジネスチャンスをもたらす可能性を秘めています。MaaSによってどんな世界が生まれるのか、今回は最新の国内・海外の事例をはじめ、市場規模やMaaSを構成するサービス・技術まで紹介していきます。
●MaaSの市場規模は数兆円!?
日本におけるMaaSの市場規模は将来的に数兆円に達すると予想されています。なぜここまで大きく成長する見込みがあるのでしょうか。まずはMaaSの定義と概要について見ていきましょう。
MaaSに関する解釈や定義については業界や企業によっても異なりますが、国土交通省はMaaS関連データ検討会にて、MaaSを「スマホアプリにより、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービス」と定義づけています。
具体的にどのようなサービスがMaaSと呼ばれるのかについては、スウェーデンのチャルマース工科大学の研究者が、下記の5段階のレベルに分けて解説しています。
レベル0:統合なし
レベル0はこれまで通りの状況です。鉄道やバスは独立したサービスでありICTでの連携などは行われません。乗り継ぎなどは利用者自身が考えて計画することになります。
レベル1:情報の統合
この段階からMaaSと呼ばれるサービスになります。鉄道とバスなど別々の交通手段の情報をひとつのアプリなどで統合して調べることができる状態がレベル1です。乗換案内アプリや地図アプリなどが当てはまります。日本はすでにこの段階に足を踏み入れているといえます。
レベル2:予約と決済の統合
レベル1に加えて、同一のアプリ内で予約や決済まで行える状況がレベル2となります。たとえば地図アプリで目的地までのルートを調べて、そのまま鉄道やバスのチケットの決済が行えるようなサービスです。
レベル3:サービス提供の統合
鉄道、バス、タクシー、レンタカーといった交通機関のすべてを、ひとつの事業者が提供しているかのように利用できる状態がレベル3となります。特定区間内が乗り放題になるサブスクリプションサービスなどもこの段階といえます。
レベル4:政策の統合
政策レベルでMaaSを拡大・定着させることで、社会のあり方にまで影響を及ぼす段階です。MaaSの完成形ともいえる状態で、最終的な目標となります。
上記からもわかるように、高レベルなMaaSはもはや単なる移動手段の革新にとどまりません。その他あらゆる産業に影響を与えながら、人々の社会生活を根本から変えていく可能性を秘めています。MaaSが生み出す価値を考えれば、市場規模の成長予測も納得の数字といえるのではないでしょうか。
●MaaSはスマートシティの中核
AIやIoTといった先進技術の活用により、都市機能やサービスを効率化・高度化して社会課題を解決する取り組みをスマートシティと呼びます。たとえばネットワークカメラをAIで解析することにより治安を高め、センサーで人の流れを解析し都市開発に役立てるなどさまざまな試みが世界中で始まっています。
このスマートシティの中核を成すとして期待されているのがMaaSです。都市の発展において、人の移動はもっとも重要な役割を担う行為となります。
すでにMaaSにより、あらゆる交通手段が統合される社会が実現されつつあります。例えば、一つのアプリ内で目的地までの移動手段を調べて予約します。そのままアプリ内で決済を完了する事も可能ですし、サブスクリプションサービスであれば決済は必要ありません。鉄道に乗り、駅に到着し、そのままバスに乗って移動します。着いた先でシェアサイクルを借りて目的地を目指す事が可能になります。この間決済という行為が発生する事はありません。
すべての交通サービスがシームレスに接続されているため、毎回異なるアプリを立ち上げて検索や予約をする必要もありません。こうなると格段に移動がしやすくなり、訪れる人が増え都市は賑わいます。
MaaSにより複数の移動手段を使うハードルが下がると、シェアサイクルなど利用者自身がルートを決められる交通手段が活発に利用されることも考えられます。人々の移動範囲が拡大し、歩くには遠いけれど自転車なら走れる——いわゆる「ラストワンマイル」が埋まることで地域活性化につながる可能性も秘めています。
また、交通サービスが統合されることで、これまでサービスごとに断絶していた移動データもひとつにつながり、街づくりに大きく貢献できるようになります。スマートシティにおいてMaaSは欠かせない要素といえます。
ここまでMaaSの定義と概要についてお話してきました。次回のコラムでは国内外の事例、サービスの構成についてお話します。