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キャッシュレス決済のデータを活用する方法・メリット・施策例を解説

キャッシュレス決済データ

キャッシュレス決済は、支払いの効率化だけでなく、購買データを取得できる仕組みとしても注目されています。決済時に記録される取引情報は、利用傾向や需要の変化を把握するための手がかりとなり、マーケティング施策やサービス改善にも役立てることができます。ただし、決済データのみで顧客像を把握できるわけではなく、POS や会員情報など他のデータと組み合わせることで、より深い分析が可能になります。

本コラムでは、キャッシュレス決済で得られるデータの特徴や活用方法、得られるメリットについて、実務の視点から分かりやすく解説します。

目次
1 顧客データの収集・分析にキャッシュレス決済を利用する重要性
2 キャッシュレス決済の導入によって得られるデータとは
  2-1 顧客の属性データ
  2-2 購入チャネル・取引データ
  2-3 行動データ
3 キャッシュレス決済データを活用するメリット
  3-1 売上の構造変化を把握できる
  3-2 店舗運営を最適化するヒントが得られる
  3-3 施策の効果を客観的に振り返ることができる
  3-4 ID連携がある場合は、より高度な分析も可能
4 キャッシュレス決済データを活用した施策例
  4-1 売れ方の特徴を踏まえた販売計画の見直し
  4-2 閑散時間帯の活用と来店促進
  4-3 店舗・地域の違いを踏まえた品揃えの最適化
  4-4 施策の効果検証と次のアクション設計
  4-5 ID連携がある場合に可能となる、より精度の高い施策
5 決済データを活用する際に押さえたいポイント
  5-1 継続的に見ることで「変化の兆し」が分かる
  5-2 周辺データと組み合わせるほど、理解が深まる
  5-3 施策の振り返りでは、効果が数字で確認できる
6 点決済データをより活用しやすくするための仕組み
  6-1 POSやアプリなど販売データとの連携基盤
  6-2 会員IDやアプリと連携できる環境では、顧客軸の分析も可能に
  6-3 多様な決済手段をまとめて扱える「決済代行サービス」
  6-4 自社で決済サービスを持つという選択肢
7 キャッシュレス決済データ活用の成功事例
8 まとめ

1 顧客データの収集・分析にキャッシュレス決済を利用する重要性

キャッシュレス決済がもたらす最大の特徴は、「すべての取引がデジタル記録として残ること」です。現金決済の場合、売上の総額は把握できても、利用が集中する時間帯や曜日差、商品ごとの売れ行きなど、細かな傾向の把握には手作業の集計や追加のシステムが必要でした。

一方でキャッシュレス決済では、取引の発生したタイミング・金額・チャネルが自動的に蓄積され、継続的にデータを集めるだけで売れ方の特徴を数値で把握できます。例えば、以下のようなものが挙げられます。

  • 平日は夕方に売上が伸びるのか
  • 土日は家族利用が多いのか
  • 特定の商品がある地域でよく売れるのか
  • キャンペーン実施前後で売上がどう動いたか

こうした基本指標が、自動で記録されていきます。

また、一部のキャッシュレスサービスではアカウント作成時に本人確認(KYC)が行われ、属性情報が匿名化された形で提供される場合もあります。詳細な個人情報が加盟店に提供されることはありませんが、年代や性別といった大まかな属性を参考にすることで、売れ行きの背景をより精緻に読み取ることが可能です。
決済データ自体はシンプルですが、「運営を改善するための客観的な基礎情報」として非常に有用です。特に中小企業では、複雑な分析システムを導入しなくても、まずは決済データの可視化から着手できる点が大きなメリットです。

2 キャッシュレス決済の導入によって得られるデータとは

キャッシュレス決済では、大きく分けて次の3種類のデータを得ることが可能です。

  • 顧客の属性データ(匿名加工された年代・性別など)
  • 購入チャネル・取引データ(どこで・いくら使われたか)
  • 行動データ(時間帯・地域などの利用傾向)

それぞれのデータの特徴と活用方法について詳しく解説します。

2-1 顧客の属性データ

キャッシュレス決済では、利用者のアカウント情報と取引データが紐づけて管理されています。多くの決済サービスではアカウント作成時に本人確認(KYC)が行われるため、年代・性別などの属性情報が正確に整備されている点が特徴です。
加盟店に提供される際には、これらの個人情報は個人を特定できないよう匿名加工・統計化されますが、信頼性の高い属性分布を把握することができます。
主に以下のような活用が可能です。

  • 店舗ごとの年代・性別の利用傾向を把握する
  • エリア別に顧客層の違いを確認する
  • キャンペーン参加者の属性傾向を把握する

こうした属性データは、顧客層の特徴の把握や来店傾向をつかむための基礎データとして活用できます。

2-2 購入チャネル・取引データ

キャッシュレス決済では、取引日時、利用金額、店舗やECなどのチャネル、利用エリアといった情報が正確に記録されます。どのチャネルで売上が伸びているのか、どの店舗で利用が多いのかといった傾向を把握しやすくなるため、チャネル戦略や店舗運営の見直しに役立ちます。

なお、商品(SKU)単位の購入内容まで把握したい場合は、POSなど他のシステムと連携する必要があります。決済データそのものは「いつ・どこで・いくら使われたか」という取引の事実を補完する土台となります。

2-3 行動データ

キャッシュレス決済データからは、「いつ・どこで取引が行われたのか」といった、利用タイミングや店舗ごとの変動を読み取ることができます。平日の夕方に利用が集中しやすいのか、週末に特定エリアの店舗が伸びるのかといった、売上の波を捉えることで、スタッフ配置や販売計画の調整に役立てることができます。

ただし、来店の目的や購買の理由まで読み解くことは、決済データだけでは困難です。こうした行動の背景を理解するには、POS・会員ID・アプリログといった他データとの組み合わせが欠かせません。決済データは、これらのデータを補完し、全体の傾向を把握するための土台として活用されることが多くなっています。

3 キャッシュレス決済データを活用するメリット

決済データは、個人の詳細な行動を追跡するものではありませんが、「売れ方の変化」を読み取り、運営改善につなげる上で欠かせない基礎データです。
ここでは、決済データから読み取れる示唆の方向性を整理します。

3-1 売上の構造変化を把握できる

決済データを継続的に見ると、売上には必ず「構造」があることが分かります。
例えば、平日は夕方に利用が集中するのか、土日は昼前にピークが来るのか、あるいは特定の商品が季節によって大きく動くのか。こうした時間帯・曜日・季節による変動は、数字として積み上がったデータを確認することで初めて明確になります。
現場の感覚だけでは見落としがちな傾向も、取引データに基づいて振り返ることで把握しやすくなり、品揃えの調整や販促の方向性を考えるうえでの重要な材料となります。

3-2 店舗運営を最適化するヒントが得られる

決済データは、売上そのものだけでなく、店舗運営の改善ポイントを見つける手がかりにもなります。
例えば、特定の曜日の午後だけ来店が落ち込む、といった傾向が見えれば、その時間帯に合わせたキャンペーンやスタッフ配置の見直しが検討できます。
また、ピーク時間帯が明確になることで、準備のタイミングや在庫補充の体制を最適化できるなど、数字を根拠にした運営改善がしやすくなります。日常業務の“なんとなく”を整理し、効率化につなげるための基盤として役立つデータといえます。

3-3 施策の効果を客観的に振り返ることができる

キャンペーンを実施した場合、その効果を売上データで振り返ることで、どの程度の反応があったのかを客観的に確認できます。
例えば、期間中に売上がどれだけ変化したか、どの時間帯で反応が強かったか、また店舗ごとに差があったかなど、取引データに基づいた振り返りが可能です。

感覚値に頼った「うまくいった/いかなかった」ではなく、数値に基づいて改善点を特定できるため、次回施策の判断材料として活用できます。

3-4 ID連携がある場合は、より高度な分析も可能

決済データ単体では個人を特定する情報にはなりませんが、アプリや会員IDと連携できる場合は、分析の幅が大きく広がります。
来店間隔や購入頻度、よく購入するカテゴリーなどを把握できるため、顧客ごとの行動パターンを理解しやすくなります。
このように、決済データは「顧客理解の入口」として機能し、周辺データと組み合わせることでより精緻な分析へと発展させることが可能です。
決済データは 顧客理解の入口として活用でき、周辺データを組み合わせることで分析の幅がさらに広がります。

4 キャッシュレス決済データを活用した施策例

キャッシュレス決済で得られるデータは単体では限定的ですが、日々の取引が蓄積されたデータには、店舗運営や販売戦略の改善につながる多くの示唆が含まれています。

ここでは、決済データを実務に生かしやすい形で活用する代表的な施策を紹介します。

4-1 売れ方の特徴を踏まえた販売計画の見直し

決済データからは、時間帯・曜日ごとの売上の偏りや、季節ごとの動きなど、販売のリズムが読み取れます。
例えば、「平日の夕方に特定の商品が伸びる」「週末は家族利用が多く単価が上がる」といった傾向が見えれば、それに合わせて商品を追加したり、棚割りを調整したりすることで、販売機会を逃しにくい売場づくりにつなげられます。

特定の商品が急に売れ始めた場合も、早めに気づけるため、品切れの防止や追加発注の判断に役立ちます。

4-2 閑散時間帯の活用と来店促進

決済データにより、利用が少ない時間帯が判明すると、その時間帯に合わせた来店促進策を検討できます。
例えば、閑散時間帯限定の割引やテイクアウト需要を見越したセットメニューの強化、
スタッフの配置転換など、売上だけでなく運営効率にも効果がある施策につなげることが可能です。

決済データは「どの時間帯を強化すべきか」を明確に示すため、無駄な施策を減らし、効果の出やすい対策に集中しやすくなります。

4-3 店舗・地域の違いを踏まえた品揃えの最適化

複数店舗を展開している場合、決済データを比較することで、店舗ごとの特徴が浮き彫りになります。
ある店舗では軽食が伸び、別の店舗ではデザートが好調、といった差は、現場の感覚だけでは把握しづらいものです。
決済データを定期的に確認することで、「どの店舗に、どのカテゴリーの商品を厚く置くべきか」といった判断をより適切に行えるようになります。

地域性や立地の違いを反映したラインナップの調整は、顧客満足度の向上にもつながります。

4-4 施策の効果検証と次のアクション設計

決済データは施策の「前後比較」がしやすく、キャンペーンの効果測定に適しています。
例えば、クーポン配布期間中に売上がどの程度動いたか、特定商品のプロモーションに反応があったか、曜日別の変化が生まれたかといった点を、取引データの推移から客観的に把握できます。

結果が明確になることで、次の施策の方向性(継続する・改善する・やめる)が判断しやすくなり、施策の効率化や費用対効果の向上につながります。

4-5 ID連携がある場合に可能となる、より精度の高い施策

決済データ単体では顧客を識別できませんが、アプリや会員IDと連携する仕組みがある場合は、施策の精度をさらに高められます。
例としては、再訪までの期間をもとにした休眠顧客へのアプローチやよく買う商品カテゴリーに合わせたクーポン配信、来店頻度の高い顧客への特典強化などが挙げられます。
ID連携は「個人に最適化された施策」を実現するための前提であり、決済データはその基盤となる役割を果たします。

本コラムでは決済データ単体で可能な施策を中心に紹介していますが、TISでは、ID連携・会員基盤との統合によってデータ活用をより強化するアプローチに取り組んでいます。
ご興味のある方は是非お問い合わせください。

5 決済データを活用する際に押さえたいポイント

決済データは、日々の売上を客観的に把握するための確かな情報源ですが、効果的に活用するためには、いくつかの視点をあらかじめ理解しておくことが重要です。ここでは、過度に踏み込まず、データ活用の核心となるポイントだけを整理します。

5-1 継続的に見ることで「変化の兆し」が分かる

決済データは、単体の数字よりも「積み重ねて見たとき」に価値が生まれます。
時間帯・曜日・店舗ごとの売れ方の違い、季節による揺れ、イベント後の反応など、日々の運営の中では気づきにくい微妙な変化が浮かび上がります。

重要なのは、難しい分析をすることではなく、同じ指標を一定のリズムで追い続けること。
小さな変化を捉えられるようになると、改善の打ち手が自然と見えてきます。

5-2 周辺データと組み合わせるほど、理解が深まる

決済データは「顧客理解の入口」にあたります。
単体では匿名化されているため個人を特定できませんが、POS やアプリ、会員IDと連携することで、購買行動の背景が見える領域が増えていきます。

単純な売れ筋分析から、顧客の利用頻度や購入傾向の把握へと広げられるため、ID連携できる環境があるほど、活用の精度が高まります。

5-3 施策の振り返りでは、効果が数字で確認できる

決済データの大きな強みは、「施策前後の違いを、数字で比較できる」ことにあります。
売上の変化がどの時間帯で起きたのか、どの店舗に影響があったのか、どのカテゴリーに反応が出たのかといった情報を正確に捉えられます。

少しずつ施策を試し、決済データで変化を確かめていくことで、改善サイクルを自走させることができるようになります。

6 決済データをより活用しやすくするための仕組み

決済データだけでも売上把握や店舗運営に役立ちますが、周辺システムや自社サービスと組み合わせることで、活用の幅はさらに広がります。ここでは、決済データを“より使えるデータ”に変えるための基本的な仕組みを紹介します。

6-1 POSやアプリなど販売データとの連携基盤

決済データを POS や EC、商品マスタなどの販売データと組み合わせると、点在していた情報がつながり、次のような内容が把握しやすくなります。

  • 商品別の売上傾向
  • 曜日・時間帯ごとの需要
  • 店舗ごとの差異

特に「決済 × 販売データ」の組み合わせは、店舗運営や販促施策を改善していくうえで欠かせない基盤となります。

6-2 会員IDやアプリと連携できる環境では、顧客軸の分析も可能に

決済データ単体では個人を特定しない形で提供されますが、会員IDやアプリと連携できる環境がある場合、顧客ごとの行動に近い視点で分析を広げることができます。具体的に、把握しやすくなる内容の例は以下です。

  • 再来店までの期間
  • よく購入するカテゴリー
  • 来店頻度や購入金額の傾向

決済データはあくまで入口ですが、周辺データと掛け合わせることで、顧客理解の精度を大きく高められます。

6-3 多様な決済手段をまとめて扱える「決済代行サービス」

多くの決済手段を導入するほどデータの幅は広がりますが、個別に契約すると運用が煩雑になりがちです。決済代行サービスを利用すれば、複数のキャッシュレス手段をまとめて導入でき、データも一元的に扱いやすくなります。

店舗としては「どの手段がどの程度使われているか」といったまとめ情報を確認でき、データ活用の土台づくりが効率化されます。

6-4 自社で決済サービスを持つという選択肢

より柔軟にデータを活用したい場合、企業が自社ブランドの決済サービス(自社Payや自社カードなど)を持つ方法もあります。外部ブランドよりもデータ連携の自由度が高まるため、分析の粒度を細かくしたり、会員施策とデータを統合したりしやすくなります。

7 キャッシュレス決済データ活用の成功事例

キャッシュレス決済のデータ活用に成功した実際の企業の事例を、以下の表にまとめました。

会社名 事例URL
株式会社ファミリーマート https://www.sbbit.jp/article/fj/73455
鹿児島市交通局 https://markezine.jp/article/detail/45051
メディケア生命保険株式会社 https://markezine.jp/article/detail/44522

まとめ

キャッシュレス決済で得られるデータは、売上構造の把握や店舗運営の改善など、日々のビジネス判断を支える基礎情報として活用できます。
決済データ単体で把握できる範囲は限られますが、POS・会員ID・アプリなど周辺データと組み合わせることで、分析の精度を高め、施策改善の循環をつくることができます。

キャッシュレス化が進む中で、こうした「現場データを継続的に活かせる仕組みづくり」が、企業にとって重要なテーマになりつつあります。

TISは、決済基盤の構築支援に加え、データ連携・可視化・分析環境の整備など、企業のデータ活用を段階的にサポートするソリューションをご提供しています。
キャッシュレス決済の導入やデータ活用に課題をお持ちの際は、ぜひご相談ください。