2024年8月15日、株式会社フィナンシェとTISによる共催イベント「web3 Wave 企業成長の新潮流」をオフライン限定で開催しました。本レポートではイベントの様子を前後編の2回に分けてお届けいたします。後編となる今回は、国内のweb3ビジネス専門家による、web3および暗号資産、Crypto市場の最新動向をテーマとしたトークセッションのレビューをご紹介します。
今回のトークセッションでは、国内外のweb3、暗号資産/Crypto市場※1の動向、web3の社会実装と地方創生へのアプローチ、さらにマスアダプション※2を実現するための戦略について焦点を当てました。国内のWeb2.0企業がweb3の波に乗り遅れずに新たなビジネスチャンスを効果的に掴む方法に関して、専門家による洞察と多角的な視点から議論が行われました。
※1 Crypto市場:暗号資産、DeFi(分散型金融)、NFT(非代替性トークン)、スマートコントラクト、ブロックチェーンのプロジェクトなどを包括する市場
※2 マスアダプション:ある製品や技術が広範囲にわたって一般消費者に受け入れられ、普及すること
1.国内外のweb3、暗号資産市場の動向
1-1.国内と海外のweb3、暗号資産の動向をどのように見ているか
1-2.web3事業の開発を進める日本企業の熱量、温度感をどう感じているか
1-3.海外と国内でweb3の技術面の違いはあるか
2.web3の社会実装と地方創生へのアプローチ
2-1.ブロックチェーン技術を使った地方創生の取り組みはどう進むのか
2-2.ステーブルコインは日本円の決済手段として広がるのか
2-3.コミュニティトークン、トークナイゼーションの価値をどう考えているか
3.国内Web2.0企業に向けたマスアダプションの挑戦
3-1.web3ビジネス参入への障壁、法務監査・会計・財務の課題とは
3-2.ユーザーがブロックチェーンビジネスに触れるハードルが解消される兆しは見えてきたか
3-3.ブロックチェーンがユーザーに届いた時に、マーケティングとして何が必要か
4.最後に
■パネリスト
<講演者>
TIS株式会社(https://www.tis.co.jp)
執行役員
ソーシャルイノベーション事業部長
中村 健
<講演者>
株式会社フィナンシェ(https://www.corp.financie.jp)
代表取締役CEO
國光 宏尚氏
<講演者>
Progmat, Inc.(https//progmat.co.jp)
代表取締役
齊藤 達哉氏
<講演者>
アマゾンウェブサービスジャパン合同会社(https://aws.amazon.com)
シニアブロックチェーンアーキテクト
中武 優樹氏
<講演者>
アクセンチュア株式会社(https://www.accenture.com/jp)
Lead of Innovation & web3
唐澤 鵬翔氏
<講演者>
長島・大野・常松法律事務所(https://www.noandt.com)
弁護士
清水 音輝氏
<講演者>
J.フロント リテイリング株式会社(https://www.j-front-retailing.com)
デジタル戦略統括部 グループデジタル推進部専任部長
デジタルコンテンツ開発担当
洞本 宗和氏
1.国内外のweb3、暗号資産市場の動向
1-1.国内と海外のweb3、暗号資産の動向をどのように見ているか
國光氏 ブロックチェーンのゲーム関連や、web3に特化したgumi Cryptos Capital(グミクリプトスキャピタル)に投資している立場から見ると、残念ながら日本国内には暗号資産のプレイヤーはもういなくなってしまったと感じています。FTXストック※3が大きく下落したタイミングで投資が止まり、ここ2、3年の円安でオペレーションコストも上昇して、日本で暗号資産に積極的な企業は減少しました。一方で、海外ではビットコイン自体が過去最高値を更新するなど、暗号資産のマーケットや投資環境は完全に回復してきています。
※3 FTXストック:世界最大級の仮想通貨取引所のひとつであるFTX取引所が発行するネイティブトークン
1-2.web3事業の開発を進める日本企業の熱量、温度感をどう感じているか
唐澤氏 web3のマーケットには、さまざまな観点があると思います。資金調達やスタートアップの状況は厳しい面もありますが、エンタープライズにとってはむしろチャンスだと捉えています。日本企業の役員に対してワークショップを行うと、ほとんどの企業は「勉強になった」との感想を持つにとどまり、実際にアクションを起こすのは3割程度です。また、本格的な資金やリソース投入まで意思決定できるのは1割程度に過ぎません。現在は、以前からweb3の検討を進めてきた企業にとって、web3ビジネスに参入する良いタイミングといえるでしょう。
また、NTT社が「株式会社NTT Digital (NTTデジタル)」という会社を立ち上げて、「web3 Jam」という共創プロジェクトの取り組みを開始しました。これはブロックチェーンを大きなCRM※4として捉える試みです。このプロジェクトの面白い点は、参加企業はコミュニティ内の他企業のデータに、その企業の許諾があればアクセスできることです。これにより、従来のマーケティングに比べてリーチが広がり、企業間の連携が強化されます。「web3 Jam」のコミュニティには、すでに70社近くが参加しており、これは企業がweb3に対して何か行動を起こす必要がある時期に差し掛かっていることが背景にあると考えられます。ここでweb3に本気で取り組む企業は成功すると思いますし、この機会を逃さずに、取り組むことが求められています。
※4 CRM:Customer Relationship Management 顧客関係管理/企業が顧客との関係を構築・強化するための戦略や技術、システム
洞本氏 J.フロント リテイリングでも、役員向けのweb3勉強会や、NFTの発行を実施してきましたが、NFTはブランディングや販促宣伝には寄与しているものの、それが事業になるのかといえば、まだ難しいと感じています。他には、フィナンシェさんのプラットフォームを利用した地方創生への取り組みも進めていますが、web3で何をなすべきか、その答えはまだ見えていません。「web3 Jam」には、我々も参加していますが、他の企業の方々と「web3で何ができるのか」を考える機会として、期待しています。
1-3.海外と国内でweb3の技術面の違いはあるか
中武氏 海外と国内では、プロダクトによってユースケースや使用されるweb3の技術が異なります。国内外の企業を問わず、ブロックチェーンの技術だけあれば何かサービスが成り立つと勘違いされている方も多くいますが、やはりどんなサービスであっても技術の根本的なノウハウは必要であり、従来のWeb2.0の技術やスタッフも必要不可欠です。我々もWeb2.0の技術の必要性については丁寧に説明しています。また、web3の技術において、日本のエンジニアと海外のエンジニアのスキルに差はありませんが、web3は英語表示が主流なので、情報をいかに速くキャッチアップするかが、課題だと思います。
2.web3の社会実装と地方創生へのアプローチ
2-1.ブロックチェーン技術を使った地方創生の取り組みはどう進むのか
中村 ブロックチェーン技術を使った取り組みの中には、使われなくなったプロジェクトも散見されますが、裏を返せば、ユースケースがそれだけ増えてきたともいえます。TISでも、Web2.0とweb3の混合型といえるステーブルコインのようなデジタル地域通貨の実証実験を自治体と実施したことがあります。このケースでは、Web2.0とweb3をどう連携させるかを自治体と5年間話し合いながら、社会実装を進めました。しかし、デジタル地域通貨をweb3で実施する必要性や、そのメリットが十分に活かされていたかという観点から見れば、社会実装としてはまだ不十分であったと感じています。別のケースとして、MaaSの実証実験があります。これは、スマートフォンの経路検索画面から、そのままチケットが買える仕組みで、一緒に周辺施設のチケットをお得に購入することもできます。しかし、その決済システムの裏で、交通機関や施設にチケット代を分配するという負荷の高い業務があります。この負担をスマートコントラクト※5で軽減できれば、浮いたコストをweb3テクノロジーを活用してチケット購入者に還元する施策も検討できます。
こうしたプロジェクトやトークナイゼーションを支える「流動性」や「小口化」は、web3のテクノロジーの中でも特にフォーカスされるブロックチェーンの特性だと思います。
※5 スマートコントラクト:ブロックチェーン上で実行される自己実行型の契約で、特定の条件が満たされると自動的に契約内容が実行される仕組み
2-2.ステーブルコインは日本円の決済手段として広がるのか
齊藤氏 金融機関はweb3自体というより新事業のテーマとして「今、何が注目されているのか」という視点で見ています。私が銀行に在籍していた数年前から、トークナイゼーションやブロックチェーンは、有望なテーマでした。
金融領域のトークナイゼーションによる潜在市場は大きく、この2、3年で国内だけでも2,600億円規模の市場ができています。現時点での主要プロダクトは不動産のトークン化であるため、必然的にマーケットサイズは大きくなり、この市場は世界的に見ても日本が先行しています。また、ステーブルコインはすでにこの市場の仕組みの一部として捉えられています。
金融システムの一部では、一般ユーザーに見えない部分で、いつの間にかシステムがブロックチェーンに置き換わり、トークン化が進むことが予想されます。決済文脈でいえばステーブルコインです。しかし、金融システムの裏側で大きくなることはあっても、暗号資産ユーザー以外の個人が普段生活する中で直接ステーブルコインを目にする機会はそれほど多くないかもしれません。
國光氏 ステーブルコインによる国際間送金のメリットは、従来の国際間送金と比べて、コストが安く、送金スピードが速いことです。仮にユーザー数1億人をマスアダプションの定義とするのであれば、ステーブルコインを使う人は世界で1億人を超えていると思われますので、すでにマスアダプションしているといえます。
2-3.コミュニティトークン、トークナイゼーションの価値をどう考えているか
國光氏 今の仕組みで足りているものをあえてブロックチェーンでやる意味はなく、今の仕組みでは不便な点を変えるからこそ、そこに価値が生まれます。例えばNFTを利用することで、銀行にはできなかったホテルの宿泊権の小口化ができるようになり、それをさまざまな業者に販売することができます。トークナイゼーションによる権利の小口化で、これまで資金が得られなかったところへもアプローチしやすくなり、そこに大きなビジネスチャンスがあります。
唐澤氏 既存の金融機関は、価値が評価できないものに対しては資金を貸すことができません。例えば、テナントが入居し、人のトラフィックがある駅前の商業ビルには高い価値がありますが、そのビルが築60年だとすると、当該の金融機関では担保価値がつかないケースがほとんどです。このように、既存の手法では、評価対象の持つポテンシャルを評価しきれないことがあります。web3やトークナイゼーションは、これまでの価値基準では評価できなかったものを価値化する手段となります。
國光氏 トークナイゼーションの可能性の一つは、所有権と収益権を分けることができる点です。通常、株を発行して資金を集めると、会社の所有権も株主に移りますが、これは経営者にとって必ずしも好ましいことではありません。一方で、株主の中には会社の経営には関与せず、収益分配を求める人もいます。株式はこの所有権と収益権が一体化しており、分けることができません。しかし、トークナイゼーションを活用することで、所有権を手放さずに収益権のみを譲渡することが可能になり、新たな資金調達の手段として活用される可能性があります。
3.国内Web2.0企業に向けたマスアダプションの挑戦
3-1.web3ビジネス参入への障壁、法務監査・会計・財務の課題とは
清水氏 企業のweb3ビジネス参入にはさまざまな課題がありますが、どのような課題に取り組むとしても、関係者間のコミュニケーションが重要になります。例えば、トークンビジネスを行う場合、ミント※6やバーン※7などのweb3独特の課題に取り組む必要がありますが、システムやセキュリティに関する論点に加えて法務・会計・財務の論点も検討する必要があります。トークンビジネスは、分野を跨いだ横断的な検討が求められるため、部署間の相互理解が重要になります。そして、web3ビジネスを成功させるためには、部署間で丁寧に意思疎通を図った上でプロジェクトを進めることも重要になっています。
※6 ミント(Mint):ブロックチェーン上で新しいトークンやNFTを発行すること
※7 バーン(Burn):当該トークンを何人も移転できない状態にして供給量を減少させること
齊藤氏 キャッシュフローを生むアセットのトークナイゼーションの本質は、ブロックチェーン云々よりもストラクチャードファイナンス※8の新しい形態にあると捉えるべきです。ストラクチャードファイナンスは横断的なビジネスなので、法務・会計・税務のすべてを理解した上で、社内の力学を把握し、関係部署の利害調整を行えるような人がいないと、うまく纏まりません。これを自社だけで行うのはかなり難しいため、専門家に依頼することになりますが、やはりスタンス(立場や方針)は社内で決定しなければなりません。トークン化の場合、従来の論点に加えてブロックチェーン等の専門性も必要となるため、社内チームの一員として中に入り、一緒に事業を作れる専門家の存在が重要と考えます。
※8 ストラクチャードファイナンス:標準的な融資や資金調達の方法ではなく、特定のニーズやリスクに対応してカスタマイズされた複雑な金融手法
3-2.ユーザーがブロックチェーンビジネスに触れるハードルが解消される兆しは見えてきたか
中武氏 今は全く見えていない状況です。秘密鍵を使った署名やウォレットのUI/UXについて、各企業も努力していますが、それをどう使うか具体的なユースケースがあまり出てきておりません。ユースケースが増えてくると、これらの技術が活用されていく傾向があるので、もう少しユースケースが出てくれば、ユーザーとの接点もいろいろと広がっていくのではないかと考えています。
國光氏 ブロックチェーンビジネスにおけるマスアダプションの成功例として、メルカリのメルコインが挙げられると思います。メルコインのユーザー数、つまりビットコインを持っている人は220万人で、コインチェックやビットフライヤーと変わらない規模になっています。メルコインのマスアダプションが進んだのは、メルペイのKYC※9を使えたこともありますが、仮想通貨やコインレット※10を意識しなくても、勝手にビットコインが貯まるシステムによるところが大きいと思います。気が付いたら仮想通貨を持っていた。そこから仮想通貨に興味を持ってもらい、今後も仮想通貨に投資したいと思わせるステップを提供することが、web3ビジネスや仮想通貨では重要です。
今後、ユーザーの間で人気が高まるアプリケーションのひとつは、間違いなくミームトークンだと思います。ミームトークン※11の価値はコミュニティの活動や感情に大きく依存します。ミームトークンはアイデアや概念、スタイル、行動、表現をテーマにしたトークンで、絵画などのNFTと違いそれ自体に特別な価値はありませんが、暗号資産として人気があります。その理由はシンプルで分かりやすいからです。自分の好きなスポーツチームやアーティストに紐づいたミームトークンは、コミュニティも広がりやすく、持っていたいと思わせる魅力があります。web3の話題はトランザクションスピードや機能の話になりがちですが、それだけではなく、ミームトークンのような新しい体験や感覚をもっと重視すべきだと思います。
※9 KYC:金融機関や企業が顧客の身元を確認し、適切な顧客情報を収集するためのプロセス
※10 コインレット:仮想通貨を管理するためのデジタルウォレットの一種
※11 ミームトークン:インターネットミームや文化的現象をテーマにした暗号資産で、その価値がコミュニティの活動や感情に大きく依存する暗号資産
3-3.ブロックチェーンがユーザーに届いた時に、マーケティングとして何が必要か
洞本氏 私がNFTを利用する際には、そのNFTのプロジェクトやコミュニティを知らない人にもNFTを届けたいと考えています。しかし、NFTを知らない人にNFTの価値を伝えても、なかなか理解してもらえないのが現状です。中国ではAlipayなどのスマホ決済が広く普及していますが、Alipayの中の”元”の価値は誰も保証していません。しかし、誰もがどの店舗でもAlipayを利用できるようになると、Alipayを”元”に戻すという考え自体がなくなります。NFTや他の暗号資産が一般の人々にとって使いやすいサービスになるためには、Alipayような”普及”が必要なのかもしれません。
齊藤氏 すでに2,600億円を超えたセキュリティトークンはブロックチェーンを活用したプロダクトですが、実際に購入している方の多くは、クリプトネイティブな若者ではなく、証券会社に口座を持つ投資家です。セキュリティトークンは金融商品であるため、適当な説明で売買すると、金融商品取引法に違反してしまいます。そのため、証券会社は分かりにくいブロックチェーンの仕組みを含めてしっかりと説明し、それを理解してもらえる方にしか販売をしません。その意味では、一番届きづらい層に最も広く早くトークンを届けている事例といえます。
ブロックチェーンに直接触れることができるユーザーを地道に増やす方法と、メルコインやセキュリティトークンのように業者の裏側でブロックチェーンを浸透させるアプローチは、恐らくどちらも必要で、これをうまく両輪で進めていくことが重要ではないかと考えています。
4.最後に
中村 プロジェクトやシステムにweb3を実装する場合、我々のようなSIerは、Web2.0とweb3が連続性を持っていると考えています。大規模なプロジェクトを進める方々は、スタートアップ企業の素晴らしいweb3プロダクトを見出し、それを自社のシステムに組み込むことを検討します。しかし、スタートアップ企業にはそのweb3プロダクトに特化した人材が多いため、Web2.0とweb3のシステムやサービスをスムーズに接続するには、Web2.0スタイルの開発を行いながらweb3を理解しているTISの役割が必要になると考えています。
TISは決済分野で強みを持ち、長年にわたる金融系のセキュリティ診断の経験やノウハウがあります。実際にそれを評価いただき、スマートコントラクトに関する監査の依頼などもいただいています。web3ビジネスでは、Web2.0とweb3の両方を理解していることで、より大きな社会実装のマスアダプションが可能になりますので、これからもTISの強みを市場にしっかりとお伝えしていきたいと思います。
前編では、両社の事業への取り組み、web3パートナーとの共創による戦略やビジョンについてご紹介しています。
>>前編はこちら
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