コラム Column

使ってもらう、をデザインする「意味的UX」とは

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こんにちは、UXデザイナーの加藤です。
今年の2022年4月に新設されたDXクリエイティブデザイン部でデザインマネージャーを務めています。

第2回目となる今回のコラムではUXという概念をもう少し掘り下げ、私たちが大切にしている「意味的UX」という考え方についてお話しします。

第1回目のコラム

TISが考えるUI/UX
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●「意味的UX」とは

第1回目のコラムでも書きましたが、一般的にUX(ユーザーエクスペリエンス)とは「ユーザーが得られる体験」を表し、サービスやプロダクトを通じて得られる使いやすさや、楽しさといったことを指すことが多いと思います。

ですがこれは「使ってもらえる」ということが前提として語られており、「そもそも使ってもらえるか」という視点が抜けていることに、私たちは疑問を感じていました。

そこで生み出されたのが「意味的UX」という考え方です。

ユーザーにはユーザーになる手前の段階「生活者(プレユーザー)」というフェーズがあり、その生活者(プレユーザー)は「サービスやプロダクトを使う意味」を感じて、はじめて手に取ることでユーザーとなります。

プレユーザーからユーザーへの図

行動変容という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれませんが、行動変容(生活者からユーザーになってもらう、習慣や行動を変えてもらう)には、行動変容を起こすための意味や動機が必要になり、その行動変容を起こす意味や動機のデザインが意味的UXというわけです。

使い続けたくなるような嬉しさや楽しさはもちろんのこと、「そもそも使ってもらえるか」という問いに対するデザインが重要であり、ユーザーが得られる体験のなかには、サービスやプロダクトを生活に取り入れる意味が含まれている、と私たちは考えています。

これらを式に表すと以下のようになります。

【私たちが考えるUX(意味的UX)】
ユーザーが得られる体験 = 使ってみたいという気持ち + 使い続けたくなるような嬉しさや楽しさ

ちなみに「使いやすさ・分かりやすさ」といったインターフェイスそのものの体験や使用性については「機能的UX」と定義し、意味的UXを支える、あるいは引き出す「道具としてのクオリティ」と捉え、UXとUIが正しい関係性となるよう意識しています。

※UXとUIの関係性については第1回目のコラムで取り上げています。

TISが考えるUI/UX
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●「意味的UX」のデザイン事例とアプローチの紹介

アプローチ

以前、ある企業様との協業プロジェクトに参画し、海外で実施されるPoCのデザイン責任者を務めたことがあります。プロジェクトの中身としては「エコ活動に馴染みのない生活者にアプリを提供し、エコ活動をしてもらう」という非常にチャレンジングなものでしたが、アプリを利用したユーザーに行動変容が見られ、PoCは無事成功となりました。

そのとき「そもそも使ってもらえるか」を考える上で重要な要素となったのが、「経済的な豊かさ」と「国民性」です。

従来の習慣にない行動を促そうとする今回のようなケースの場合、ポイントなどの金銭的な報酬を与えるという発想になりがちですが、本プロジェクトのPoCに参加するユーザーは経済的に豊かであったため、金銭的な報酬では習慣を変えるモチベーションとはならないことが分かっていました。

そこで着目したのが、国民性です。

国民に共通する精神的な特色として、国や家族の未来に対し貢献したいという高次の成長欲求を持っていることが、大規模な生活者調査から見えてきました。

そこで「エコ活動=未来づくり、サスティナビリティへの貢献」という意味付けをし、ミッション感を加えて世界観を造り、「それならば使ってみよう」という気持ちを引き出すデザインを目指しました。

また内発的動機付けを促す理論「自己決定理論(社会心理学 エドワード・デシ&ライアン・リチャード 2000)」を活用し、自らの有能性を感じたいという欲求や自律性、社会との関係性に対する欲求を刺激する仕組みをアプリ上で構築、使い続けたくなるような嬉しさのデザインにもトライしました。

具体的には、エコ活動の結果を「見える化」するだけでなく、遊びの要素を加え、目標を達成するごとに情報的報酬(簡単に言えば、褒める・感謝を伝える)を返すというものです。「見える化」だけでは生活者にとっての嬉しさはありませんし、金銭的報酬を頼りにしてしまうと原資の負担によるビジネス上の課題を抱えることになるので、エコ活動をポジティブに捉え習慣化してもらうことが重要だと考えました。

コロナ禍ということもあり、現地での使われ方を観察したり、ユーザーの生の声を聞くといったことは難しく、おそらくまだまだ改善すべき点はあったかもしれません。しかし前述の通りPoCは成功し、生活者をユーザーに変える「意味的UX」のデザインが実現できたことをとても嬉しく思っています。

●さいごに

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UXという言葉の定義は広くさまざまで、色々なところで多様な解釈がされていますが、
「人々を幸せにすること」という点では共通しており、そこがデザインの本質だと感じています。

これからも生活者の視点に立ち、より良い暮らしのための優れた代替案の提案であることを忘れず、温かいデザインを目指していきたいと思います。最後まで読んで頂きありがとうございました。

私たちと一緒に働いてみたい方、どんな活動をしているのか知りたい方は以下も併せて確認してみて下さい。

DXクリエイティブデザイン部の紹介ページ

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