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金融庁のマネロン対策ガイドラインを解説!最新の改正ポイントとリスク軽減のための対応とは

金融犯罪への対応は、現代社会における金融機関や企業にとって重要な課題です。特に、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策は国際的にも注目を集める分野であり、日本の金融庁は「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を制定しています。
本記事では、ガイドラインの背景や具体的な内容、最新の改正ポイントについて詳しく解説するとともに、リスク軽減のための具体的な対応策を紹介します。

目次
1 マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策の重要性とガイドラインの背景
2 金融庁の「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」とは
  2-1 リスクベースアプローチの重要性
  2-2 ガイドラインに基づくリスク軽減のための基本事項
3 ガイドラインの具体的な対応策
  3-1 顧客確認(KYC)の強化方法
  3-2 疑念のある取引のモニタリングと報告体制の整備
  3-3 リスク評価と内部監査の実施
4 ガイドライン改正に伴う最新の対応方法
  4-1 ガイドライン改正ポイント
  4-2 見直しに伴う具体的な対応期限の設定
  4-3 ガイドラインに準拠した実務的な対応と次のアクション
5 まとめ

1 マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策の重要性とガイドラインの背景

マネー・ローンダリングとは、犯罪などの不正行為で得た資金を隠し、合法的なものに見せかける行為を指します。この目的は、不正資金の出所を隠し、捜査機関から逃れることにあります。テロ資金供与は、犯罪目的での資金調達や支援行為を指します。マネー・ローンダリングの世界総額は、GDPの約2〜5%と推定され、世界経済や社会に深刻な影響を与えます。
そのため、マネー・ローンダリングやテロ資金供与を防止する取り組み(AML/CFT)は、犯罪組織の資金源を遮断し、犯罪抑止の観点から不可欠なものとなっています。
「FATF(Financial Action Task Force/金融活動作業部会)」は、国際的なマネー・ローンダリング対策の基準を定める国際機関です。FATFが策定した「40の勧告」は、200以上の国・地域で適用され、金融犯罪抑止の重要な枠組みとなっています。
FATF規制強化が進む中、日本でもAML/CFT対策が求められてきました。この流れを受けて、金融庁は各金融機関にリスクベースアプローチを求め、犯罪防止を強化するために「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を制定しました。リスクベースアプローチは、金融機関が自らマネー・ローンダリングやテロ資金供与のリスクを特定・評価し、適切な防止措置を取ることで実効的なリスク管理を行う手法です。
このガイドラインの目的は、金融犯罪の抑止と、健全な金融市場の維持にあります。

2 金融庁の「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」とは

金融庁の「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」は、各金融機関がマネー・ローンダリングAML/CFTを強化し、国際基準を満たすことを目的としています。
ガイドラインは以下の主要ポイントに基づいて構成されています。

  • リスクベースアプローチ(リスク評価と管理)
  • 顧客確認(KYC:Know Your Customer)の強化
  • 疑わしい取引の報告(STR)
  • 社内管理体制の整備

金融庁は、このガイドラインを通じて、金融機関に対して顧客管理、取引モニタリング、定期的なリスク評価、内部監査の実施を求めています。

2-1 リスクベースアプローチの重要性

リスクベースアプローチ(RBA)は、AML/CFTを効果的かつ効率的に実施するための手法です。国際的に標準化されたアプローチでもあり、各金融機関が自らの特性やリスクに応じて柔軟な対策を取ることを可能にします。
近年、マネー・ローンダリングやテロ資金供与の手法は多様化・高度化しており、従来の画一的なセキュリティ対策だけでは十分に対応しきれない場合があります。
そこで、RBAでは以下のプロセスを通じて、効果的なリスク管理を実現します。
RBAの主な手順は以下の通りです。

  • リスクの特定

    取引や顧客に関する潜在的なリスクを洗い出します

  • リスクの評価

    特定されたリスクを分析し、重要度や緊急性を判断します。

  • リスクの低減措置新

    評価結果に基づき、最もリスクの高い分野にリソースを集中させ、効果的な防止策を講じます。

2-2 ガイドラインに基づくリスク軽減のための基本事項

金融庁のガイドラインは、マネー・ローンダリングのリスクを軽減するために、具体的な対応を求めています。以下の基本事項が重要なポイントです。

  • 顧客確認(KYC)の強化

    KYCは、取引開始時に顧客の身元や取引目的を確認する手続きです。高リスク顧客には追加確認を行い、モニタリングを徹底的に行います。

  • 疑わしい取引のモニタリングと報告(STR:Suspicious Transaction Report)

    日常業務の中で不審な取引を発見した場合、迅速に内部管理部門や金融庁へ報告する必要があります。AI解析ツールを活用して取引パターンを分析し、異常な取引を早期に検知します。

  • リスク評価と内部監査の実施リスク

    定期的なリスク評価により潜在的なリスクを洗い出し、内部監査で対応の適切性を確認します。

  • 社内体制の整備と従業員の研修

    コンプライアンス部門を中心としたガバナンス体制を整備し、全従業員への定期的な教育研修を実施することで、AML/CFTへの意識向上を図ります。

3 ガイドラインの具体的な対応策

金融庁のガイドラインに基づく具体策として、顧客確認(KYC)の強化やモニタリング体制の整備、リスク評価と監査体制の強化が重要です。先ほど触れた内容を、さらに詳しく解説します。

3-1 顧客確認(KYC)の強化方法

KYCは、リスクを軽減するために欠かせない取り組みです。取引開始時には、顧客の氏名、住所、取引目的などの情報を取得し、公的証明書を確認・保管します。法人顧客の場合は、代表者の身元確認も必要です。
さらに、顧客をリスクレベルに応じて低・中・高リスクに分類し、高リスク顧客(外国の政府要人(外国PEPs))には、より厳格な確認とモニタリングを行います。一方、低リスク顧客には手続きを簡略化することも可能です。
加えて、AIやデータ解析ツールを活用して、顧客の取引状況を継続的にモニタリングし、不審な取引やリスクの変化に即座に対応できる体制を整えることが重要です。

3-2 疑念のある取引のモニタリングと報告体制の整備

疑わしい取引を防ぐために、AIを活用した監視システムを導入し、通常の取引パターンから逸脱した疑わしい取引を迅速に検出します。疑わしい取引の例として、不自然に高額な送金、特定の国との頻繁な取引、通常とは異なる時間帯の取引などが挙げられます。
疑わしい取引を特定した際には、担当部署へ報告し、必要に応じて上級管理職の判断を仰ぎます。
その後、法律に基づき「疑わしい取引報告(STR)」として金融庁へ正確な情報を提出し、追加情報の提供にも対応できる体制を整えます。

3-3 リスク評価と内部監査の実施

金融機関は、内部環境や市場状況の変化を踏まえ、定期的にリスク評価を実施し、新たなリスクを特定します。このリスク評価では、顧客ポートフォリオ全体の分析、国際規制や地政学的リスクの評価、取引履歴の傾向把握などの情報を参考にします。
リスク評価の結果を基に、独立した内部監査部門がAML/CFT対策の有効性を検証し、問題点や改善点を特定・対応します。
さらに、内部監査とコンプライアンス部門が連携し、リスク管理戦略を策定・実行することで、組織全体のリスク管理体制を強化します。他部署との情報共有を促進することも、リスク軽減に効果的です。

4 ガイドライン改正に伴う最新の対応方法

2021年に改正された金融庁の「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」は、国際基準へ対応や内部統制の強化を目的としており、金融機関に対する対策がより実効的なものとなるように求められています。
ここでは、改正ポイントや具体的な対応策、今後の取り組みについて解説します。

4-1 ガイドライン改正ポイント

2021年の改正は、国際的なAML/CFT基準の強化やFATFによる日本への指摘を受けて実施されました。背景には国内における金融犯罪の手法が高度化・多様化していることがあります。
この改正では、以下のポイントが注目されています。

  • RBAの強化

    高リスク取引や新たな取引形態に対応するためのリスク評価基準の詳細化

  • 暗号資産への対応強化

    取引監視や暗号資産取引所への監査基準の厳格化

  • 内部統制とコンプライアンス体制の強化

    フィンテック関連企業や金融機関全体への規制適用

  • テクノロジーの活用促進

    AI・ビッグデータの導入推奨、サイバーセキュリティ対策の強化

これらにより金融機関のAML/CFT対応が高度化・効率化されています。

4-2 見直しに伴う具体的な対応期限の設定

2021年の改正では、金融機関に対して2024年3月までに対応を完了することが求められました。この期限までにリスク評価基準の整備やモニタリング体制の強化を行う必要がありました。金融庁の報告によると、2024年6月時点で、ガイドライン対応の完了率は99%に達しており、多くの金融機関で体制整備が進められています。

4-3 ガイドラインを踏まえたさらなる対応と次のアクション

現在、政府は「マネロン・テロ資金供与対策に関する行動計画(2024-2026年度)」を策定し、政府全体で取り組みを進めています。
金融機関は引き続き、RBAのさらなる徹底や顧客管理態勢の強化に加え、インターネットバンキングの不正送金や金融サービスの不正利用対策、国民を詐欺から守るための総合対策にも力を入れることが求められるでしょう。そのためには、金融庁や関係省庁と連携を強め、最新のリスク情報や対策動向などの情報共有を行うことが大切です。
また、必要に応じてガイドラインの更新や対応期限の明確化も検討されています。

5 まとめ

金融庁の「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」は、金融機関に求められるAML/CFTを明確に示しています。体制の強化や課題解決を目指す金融機関には、TISの「AML/CFT統合サービス」がおすすめです。最先端の技術と専門知識に即して金融機関のマネー・ローンダリング対策に関わる業務を包括的にサポートします。まずはお気軽にお問い合わせください。

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