コラム Column

日本で最もキャッシュレスが進んでいる場所にあったキャッシュレスホール

セキュリティホールという言葉があります。コンピュータのソフトウェアやシステムなどにおける情報セキュリティ上の欠陥のことです。
欠陥ではありませんが、「なぜここだけ現金決済だけなの?」という場所をキャッシュレスホールと名付けてみました。

国内最強の非接触IC電子マネー

筆者が毎日必ず使っている非接触IC電子マネーがあります。言わずと知れた交通系電子マネーSuicaです。都内に勤務しているので、通勤には欠かせません。駅ナカだけでなく、コンビニでも利用できますし、社内の自動販売機やオフィス向けプチコンビニでも利用できます。

先日京都に旅行に行ったのですが、京都のJRはもちろん、地下鉄、バスなどですべてSuicaが利用でき、その便利さを改めて実感いたしました。国内で最強の非接触IC電子マネーと言えば、Suicaをはじめとした交通系電子マネーだと個人的には思っています。

Suicaが無ければここまで電子マネーは普及しなかった

非接触IC電子マネーと言えば、他にも有力なサービスがあります。楽天Edy、nanaco、WAONなどがその代表的な電子マネーで、これらのサービスも国内で広く普及しています。WAONだけみても2016年に年間取扱高が2兆円(*1)を超えています。日本は世界で最も早く非接触IC電子マネーが普及した国と言われていますが、その起爆剤となったのが、Suicaであったことは間違いありません。

非接触ICカードによる乗車券や定期券は通勤で鉄道やバスを利用する消費者が求めていたものです。筆者が高校生の時には、駅の改札に駅員さんが立っていて、定期券を見せるだけで通過することができました。

しかし、世の中に自動改札機が普及することで何が起こったかというと、定期入れから定期券を取り出し、自動改札機に放り込み、通り抜ける時に取り出し、再び定期入れに戻すという手間が必要になりました。それまでは駅員さんに見せるだけでよかったわけですから、利用者にとってサービスレベルの低下になったと言ってもよいでしょう。

しかし、Suicaがこの状況を一変させました。もはや定期入れからカードを出す必要はなく、自動改札機のICカードリーダーにタッチするだけで、改札を通り抜けることができるようになったわけです。こんな便利なものに人々が反応しないはずはありません。このSuicaの爆発的な普及をきっかけに、ソニーのFeliCaをベースにした電子マネーが国内に浸透して今日に至っています。

 (*1)電子決済総覧2017-2018 (株式会社カード・ウェーブ)より

ここでSuicaが使えないのはどうなのか

さて、ここからが本題になるのですが、筆者はJR湘南新宿ラインを通勤で利用しておりまして、ごく希にグリーン車にのることがあります。ご存知の方も多いと思いますが、JR東日本のグリーン車両には各座席の天井にSuicaのリーダーがずらりと設置されております。まさにSuicaの本家本元JR東日本のグリーン車は総本山という趣きなのであります。

Suicaグリーン券を購入し、座席天井にあるリーダーにSuicaをかざしますとランプが赤から緑に変わるので、それを確認して着席します。乗務員さんはひとりひとり検札する必要はなく、座席天井のランプの色をチェックするだけです。Suicaという非接触ICカードをうまく業務効率に活かした事例だと思います。

グリーン車では乗務員さんによる軽食や飲み物の社内販売があります。乗車前に飲み物を買い忘れたときなどは、本当に便利なのです。ある日のことです。

筆者:「すいません。お茶ありますか?」
乗務員さん:「はい、ございます。XXX円になります」
筆者:「それではこのSuicaでお願いします」
乗務員さん:「申し訳ありません。現金のみになります。」
筆者:「え?ちょ、ちょっと待ってください。」
慌てて現金で支払いました。

鉄道関係の施設では必ずどこでも利用できるSuicaが唯一使えない場所がなんとグリーン車の中にあったというわけです。キャッシュレス社会を目指している日本の中で最もキャッシュレスが進んでいると思われる首都圏の鉄道関連施設。その中でも数少ないキャッシュレスの穴「キャッシュレスホール」のひとつかもしれません。

このキャッシュレスホールは絶滅危惧種

グリーン車の社内販売で現金払いのみなのは、おそらくビジネス上の理由があってのことだろうと思われます。いずれにしても、一部新幹線等では社内販売でSuicaが対応しているので、そう遠くないうちにこのキャッシュレスホールは塞がれてしまうことでしょう。 ということで、このグリーン車の社内販売を「キャッシュレスホールの絶滅危惧種」に認定させていただきたいと思います。

=========================================== (2019年5月28日更新) 東日本旅客鉄道株式会社は、首都圏の普通列車グリーン車全線の車内販売に交通系電子マネー決済サービスを導入することを2019年5月28日に発表しました。 5月29日から・横須賀線(湘南新宿ラインを除く)の総武快速線(総武本線・成田線・内房線・外房線直通含む)、6月5日から東海道線、宇都宮線、高崎線(上越線・両毛線直通含む)、湘南新宿ライン、上野東京ラインでスタートします。

※残念ながら絶滅してしまいました。

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