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FinTech時代の新潮流 デジタルバンクについて

デジタルバンク

現在まで、「決済・預金・融資・資産運用」など、さまざまな金融サービスを独占してきた銀行。今、その存在意義と在り方に大きな変革が起きようとしています。AIやIoT、ビッグデータなど、昨今はデジタル技術の進歩・活用による生活者の利便性向上・企業の提供価値の変化が、デジタルトランスフォーメーション(DX)として国を挙げて推し進められています。

金融業界ではFinTechと呼ばれる新しい金融サービスが登場し、その影響は銀行の従来のビジネスモデルに危機を与えるほどです。日本経済を支えてきたメガバンクも、このデジタル化の波に対応した新しい銀行「デジタルバンク」への移行に頭を悩ませています。

今回は、既存の銀行がデジタル時代を勝ち抜くためのデジタルバンク化について、変化のポイントやFinTechの影響、事例を含め解説していきます。

●デジタルバンクとは

デジタルバンク2

デジタルバンクとは、従来の支店網を活用した顧客との対面式金融サービスから、デジタル技術を活用した新しいサービス形態の構築とビジネスモデル創出を実現した銀行をいいます。具体的には、決済・預金・融資・資産運用といった銀行のサービスがすべてオンライン上で完結してしまうビジネスモデルが挙げられます。銀行振り込みやローンの借り入れ相談など、わざわざ支店に出向き対面でサービスを受けていた顧客も、デジタルバンクでは場所を選ばずに遠隔からサービスを受けられます。

ここでは、デジタルバンクの詳しい特徴やポイントを知る前に、銀行のデジタル化が求められる背景を紹介します。

背景①:労働力不足とテクノロジーの進化

少子高齢化を背景とした労働力不足が、あらゆる業界で叫ばれています。今後、限られた人員で効率よく業務を進めるには、デジタル技術の活用が欠かせません。

一方、今まで人がこなしていた業務を補うように、近年のデジタル技術は目まぐるしい発展を遂げています。中でもIoTやAI、ビッグデータには大きな期待が寄せられています。モノのインターネット化を実現するIoTは、これまで意図して行っていた情報収集の枠を超え、無作為な情報をリアルタイムに自動収集。総務省が発表した「令和元年版情報通信白書」によれば、2020年代には世界で約450億台のIoT機器が設置される予定です。銀行のIoT活用には、融資におけるリスクマネジメントが期待されています。IoTを通して取得される情報をもとに、借り手の返済能力や銀行の利益率を適切にした与信額計算が可能に。銀行は借り手のニーズに応じた融資額・金利を柔軟に設定できるようになるのです。

さらに融資対象の資産がIoT化することで、資産の稼働状況や故障・トラブル状況を取得し、売却価格も計算した担保管理も可能になります。人やモノの状態、周辺環境に関する情報は、今後さらに膨大なデータとなるでしょう。そうしたIoTによって収集された「ビッグデータ」をAIが分析・解析することで、上記の与信額計算や担保管理といった、顧客ニーズを適切に把握した形でサービス化できるのです。こうした情報収集とデータマーケティングによる新たな価値・ビジネスモデルの創出が、既存銀行のあり方を大きく変えます。デジタルバンクは到来しつつあるデジタル時代の先駆けとなる銀行の概念でもあるのです。

背景②:FinTech企業の台頭とサービスの多様化

 FinTech(フィンテック)とは、Finance(金融)とTechnology(技術)をかけ合わせた造語で、上述したIoTやAIといった先端技術により生まれた革新的な金融サービスを意味する概念です。FinTechが一気に拡大したきっかけは、2008年にアメリカで発生したリーマン・ショックだといわれています。アメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザーズが破綻したことをきっかけに、優秀な人材が金融業界から流出しました。その人材の一部の人々がIT業界へ流入することで、「金融×IT技術」をテーマにした多くのベンチャー企業が生まれ、金融のテクノロジー化が進んだのです。

FinTech企業の台頭により、これまで銀行が担っていた多くの業務を代替するサービスが誕生しています。その分、銀行が担う役割は縮小し、競争が激化しました。そのため、銀行は既存サービスやビジネスモデルを見直し、デジタル技術を積極的に活用したデジタルバンクへの変化が求められているのです。

●FinTechが代替する銀行業務とは

Fintech

デジタルバンク化が求められる銀行の背景を、FinTechによるサービスの代替を切り口に説明しましたが、具体的にはどのような業務・サービスがデジタル化するのでしょうか。デジタル化が進まない既存銀行が危機に瀕していることに変わりはありませんが、FinTechが担う銀行の役割も、裏を返せばデジタルバンクに求められる要件となります。

預金・決済サービス

これまでは現金によって取引されていた預金や決済も、キャッシュレス化の流れが後押しとなり、多くのサービス・企業が立ち上がっています。近年注目を集めているPayPay、LINE Pay、楽天Payなどの「○○Pay」がこの預金・決済分野を担うサービスとして登場しました。QRコード決済やバーコード決済とも呼ばれ、スマートフォンアプリから簡単に決済できることが特徴です。またこういった決済サービスの中には、送金機能を備えているものもあります。同じアプリを使えば個人間での送金ができるので、利用者資金がサービス内に滞留し、預金同様の機能を有しているとも言えます。

融資・ローン

銀行が行う融資やローンも、テクノロジーによるイノベーションが起きています。融資ではクラウドファンディングと呼ばれるインターネットを通じて誰もが資金調達を行えるサービスが登場しました。自身が実現したいビジネスについての説明ページを作成すれば、その内容に共感した人や支持したい人から支援を受けることが出来ます。ローンでは、特に住宅ローンを中心にFinTechの波が押し寄せています。住宅ローンの比較検討や支払いシミュレーション、金利情報をもとにした金融機関の乗り換え提案などのサービスが登場。また融資には審査が伴いますが、これをAIとビッグデータを用いて公平にスコア化するサービスも拡大しています。今後はさらに大量のデータ収集・分析が活発になり、従来の銀行が有していた与信ノウハウの代替が進むことが推測されます。

●デジタルバンクの特徴とポイント

FinTechのサービスは多岐にわたり、今後さらなる市場拡大も予想される中で、デジタルバンクはどのようなサービスを担っていくのでしょうか。デジタルバンクの特徴とポイントを紹介します。

データの収集と活用

デジタルバンクの役割として、まずはオンライン上でのサービス展開が挙げられます。デジタルバンクを通じて顧客情報(例:決済データ)などのデータ取得を推進し、収集したデータを活用することで、データビジネスの展開が可能になります。こうした顧客情報を活用したデジタルバンクのひとつが「情報銀行」です。自社サービスを利用している個々人の購買データや行動データを収集・保管し、本人同意の下、活用したい第三者事業者に提供します。そこで生まれるビジネスモデルは2つ。

1つは、提供したデータをもとにした、第三者事業者による個人へ直接的なサービス提供。情報銀行の役割はサービス仲介となり、収益源は仲介料となります。
2つめは、提供したデータをもとにした、第三者事業者による新商品の開発・サービス展開です。情報銀行はデータを販売したことになり、収益源は販売手数料となります。

どちらのビジネスモデルも、情報銀行は企業と個人をつなぐ立場に位置付けられます。何れにせよ、情報銀行には膨大な情報の収集と蓄積が求められるのです。

顧客起点のサービス展開

従来、銀行は全国の支店を通した銀行起点でのサービス展開をしていましたが、FinTech企業の台頭を背景に、顧客は銀行以外の他事業者も比較しながら選択することが可能になりました。そのため、今後銀行は顧客ニーズを先読みした顧客起点のサービス展開が必須の課題となるでしょう。データの収集・蓄積・活用による、コンサルティングやビジネスマッチングといったサービスがデジタルバンクに求められる要件といえます。

チャネルの拡大

上記で説明した2つのポイントに関連する部分ではありますが、顧客情報の収集とニーズの把握には、これまでよりも多くの顧客と接点を持つためのチャネルの拡大が欠かせません。中でもオンライン上で完結するサービスやアプリの活用は、顧客の利便性向上につながります。チャネル拡大の必要性については、銀行への収益につながる顧客属性からも伺えます。1990年代後半〜2000年初頭に生まれた「Z世代」は、今後の日本経済を担う消費者グループです。彼らはSNSやスマートフォンを使いこなす「ソーシャルネイティブ」とも呼ばれています。生まれながらデジタルとの距離が近い彼らへのデジタルバンクを通したアプローチ(チャネル展開)は、銀行のさらなる顧客拡大につながるでしょう。

●デジタルバンクの事例

デジタルバンク

ここまで銀行とFinTechの関係、デジタルバンクのポイントを紹介してきましたが、具体的にはどのようなサービス、取り組みが始まっているのでしょうか。世界と日本のデジタルバンク事例を紹介します。

■世界のデジタルバンク

ここまで銀行とFinTechの関係、デジタルバンクのポイントを紹介してきましたが、具体的にはどのようなサービス、取り組みが始まっているのでしょうか。世界と日本のデジタルバンク事例を紹介します。

■世界のデジタルバンク

銀行のデジタル化は、世界の事例が先行しています。ここでは、デジタルバンクにおいて世界トップを走るシンガポールのDBSと、急成長中のイギリスを例に挙げ紹介します。

世界一のDBS銀行(シンガポール)

シンガポールの3大銀行の一つであるDBS銀行。2016年に金融専門誌「ユーロマネー」で「最高のデジタルバンク」に選ばれ、2019年には二度目の受賞を果たしました。これまでの取り組みには、申し込みから口座開設までをモバイルで完結するサービスの展開、クレジットカードの即時承認、決済システム・会計ソフトの開発、ネットバンキング・プラットフォームの提供が挙げられます。積極的なデジタルサービスの展開や、異業種とのAPI連携が、世界一のデジタルバンクを実現したのです。

急成長中、イギリスのデジタルバンク

イギリスの銀行はテクノロジー導入が遅れているため、スマートフォンなどの利用が一般的となっている若年層にとっては、使いづらいサービスとなっていました。しかし近年では銀行のデジタル化が進み、爆発的な普及と成長を遂げています。そこで先行するイギリスの事例から、イギリス初のデジタルバンク「Atom Bank」を紹介します。Atom Bankは口座開設からクレジットカード・デビットカードの発行手続き、住宅ローン、融資まで全てのサービスをモバイルアプリで完結できる環境を構築しました。顔認証や音声認証といった生体認証技術を最初に導入した銀行としても大変注目を浴びています。

■日本のデジタルバンク

最後に、日本における銀行のデジタル化への取り組みをご紹介します。

三菱UFJ銀行

三菱東京UFJでは2015年に「MUFGデジタルアクセラレータ」を設立し、スタートアップアクセラレータ・プログラムを実施しています。同プログラムはでは、金融サービスに変革をもたらす起業家・ベンチャー企業とともに、AIやブロックチェーンなどのデジタル技術を用いて革新的なビジネスの立ち上げを目指しています。異業種との事業プランのブラッシュアップやプロトタイプの構築支援を繰り返した、オープンイノベーションによる銀行・金融のデジタル化に日々取り組んでいます。

参考記事:MUFG Digitalアクセラレータ

みずほ銀行

みずほ銀行では、2016年にソフトバンクとともにFinTech企業「株式会社J.Score」を共同設立しています。また、2017年にはAIを活用した個人向け融資サービス「AIスコア・レンディング」を開始。みずほ銀行の審査ノウハウとソフトバンクのAI技術、そして両者が保有するビッグデータの活用といった、強みの融合によって生まれたサービスといえます。24時間、場所を選ばずにスマホやパソコンから自身の信用力をスコア化でき、個別化された適正な条件を確認できるのです。顧客が自身の情報を提供すればするほど、より最適な信頼性や可能性をスコアとてAIが提示します。企業にとっては貴重な顧客情報を収集できるため、顧客起点の新たなサービスに活用できるのです。

参考記事:株式会社J.Score

三井住友銀行

三井住友銀行では、最新テクノロジーを活用したデジタライゼーション(デジタル化・デジタル革命)を中期経営計画としています。具体的にはキャッシュレスの推進・関連サービスの提供や、上述した「情報銀行」を目指したデータ活用によるビジネスモデルの変革です。そのため、ベンチャー企業を含むパートナー企業の持つ技術やデータ、蓄積されたノウハウを融合させたオープンイノベーションを推進しています。2018年には、データ分析・マーケティング事業、開発支援を行う「ブレインセル株式会社」をYahoo! JAPANと共に新設。AIの活用や次世代決済プラットフォームの構築など、新領域へのチャレンジを加速させています。

参考記事:デジタルで切り拓く金融の未来

●まとめ

昨今、各企業にて起きているデジタルトランスフォーメーション(DX)の波は、金融業界に FinTechという形で影響を与えています。中でも、今回紹介したデジタルバンクは、今後の金融業界のあり方を大きく変える可能性があります。世界のデジタルバンクでは、銀行自らが新たなイノベーションの開発に勤しんでいることがわかりますが、日本のデジタルバンクの取り組みとしては、他企業との連携が目立ちます。すでに多くの支店や従業員を抱える日本のメガバンクが、システム構造や組織構造を刷新するには困難を極める事は想像に難くありません。しかし各行のオープンイノベーションへの姿勢からも、今後のデジタル時代を勝ち抜くためには、デジタル技術の活用や新規ビジネスモデルの確立が求められます。

キャッシュレス決済の普及やオープンAPIによる他企業との連携など、情報収集を意識したデジタルマーケティングの推進は、今後金融業界に限定しない異業種との連携につながります。もはやデジタル化は必須の課題となり、今後は他企業といかに新たなビジネスモデルを創出できるかが、DX時代を勝ち抜く鍵になるかもしれません。

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