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POS+(ポスタス)代表本田氏が語る「POSサービス」の視点で考える店舗のDX化

top‐ポスタス本田氏と鈴木

日本の人口が減少し、飲食・小売の領域では慢性的な労働力不足に陥っています。パーソル総合研究所の調べ(※1)では2030年には644万人の労働力不足になると予測しています。一方で、人口の減少は顧客の数が少なくなることも意味しており、店舗は労働の代替となる新しい仕組みやリピート率・顧客単価を向上させるための施策を求めています。

そこで、今回は「クラウド型モバイルPOSレジ POS+(ポスタス、以下:POS+)」でPOSサービスの価値を変えたポスタス株式会社の本田興一氏に、POSサービスの視点から考えた飲食店の「店舗DX」についてお話を伺いました。POSを中心とした新たな施策とは何か? 深刻な労働力不足をどう解消するのか?小売のDX化に取り組む私(TIS 鈴木剛)が、店舗のDX化を深堀りします。
※1:https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/spe/roudou2030/

本田氏

ポスタス株式会社
代表取締役社長
本田 興一氏
1973年生まれ/東京都出身、早稲田大学大学院商学研究科卒。外資系ERPベンダーでのコンサルティング業務を経て、2003年に株式会社インテリジェンス(現社名:パーソルキャリア株式会社)へ入社。同社およびグループ会社にて企画・営業・開発などの責任者を歴任した後、クラウド型モバイルPOSレジ「POS+」のサービス立ち上げを行う。2013年5月よりPOS+のサービス提供を開始。2019年12月にポスタス株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。

 

鈴木

TIS株式会社
DXビジネスユニット DX営業企画ユニット
DXペイメントコンサルティング部 フェロー
鈴木 剛
1996年、株式会社東邦銀行入社。預金/為替、窓口、融資を経験。2002年、ソフトバンクファイナンス株式会社(現SBIHD)入社。決済代行サービスの営業、企画を担当。その後、同グループの住信SBIネット銀行株式会社で営業/企画を経験。2008年、楽天グループ株式会社入社。楽天初の外部ECサイトへのサービスに従事。2016年、株式会社インテリジェンスビジネスソリューションズ(現パーソルP&T)入社。タブレットPOSに関連した金融サービスを企画、アライアンスを担当。2022年、TIS株式会社入社。決済関連ビジネスに従事。

目次
1.世界最高レベルのサービスをDX化で昇華させる
  -日本には”おもてなし”に代表される世界で最も優れたサービス業がある-
2.労働供給ではなく労働代替の仕組みを「店舗DX」でつくる
  -労働を代替できるオペレーションを考える-
3.POSを中心に展開する、革新的な店舗サービスとソリューション
  -POSは「店舗DX」の一丁目一番地-
4.「店舗DX」の目的は
  -POS+にできること、POS+がすべきこと-
  -日本の胃袋は小さくなっている-
  -ITの仕組みはどこまでいっても手段でしかなく、目的にはならない-
5.引き算でレジのない世界へ
  -サービスのブラックボックス化を目指す-
6.今回のまとめ

1.世界最高レベルのサービスをDX化で昇華させる

-日本には”おもてなし”に代表される世界で最も優れたサービス業がある-

鈴木
本日はよろしくお願いいたします。本田さんはなぜPOSサービスに携わろうと思ったのでしょうか?

本田
POS+を立ち上げてちょうど10年になりますが、その前は、パーソルプロセスアンドテクノロジーというところでIT事業に携わっていました。当時、2010年から2011年はスマートフォンがデバイスとして個人に行き渡り、企業がタブレットをビジネスに使い始めた頃です。今後はモバイルデバイスがビジネスの中心で使われるようになるのは自明であり、このままSIとしてwebアプリを作るだけではその先の展開が見えてこない。そこで新しいサービスを考える上で念頭に置いたのが、クラウド、モバイル、データ、この3つでした。それを軸に考え、次のビジネスとしてシフトしたのがPOSです。データがあって、モバイルデバイスが利用できる可能性があって、クラウドでサービスを提供できる。

鈴木
新しいビジネスにPOSを選んだ理由は他にもありますか?

本田
POSという領域で見た時、飲食、小売、美容は日本の店舗の67%を占めているにもかかわらず非常にアナログ感が強く、デジタル化がまったく進んでいませんでした。伸び代がとてもあると感じたのです。その為、POS事業の潜在的なニーズはものすごく高いと思いました。しかし、以前所属していた会社はPOSについてのノウハウもなければナレッジもなかったので、私がPOS事業に参入したくても社内稟議が通るわけもありません。だからPOSサービスのコンセプトメイクとモックアプリを作って、勝手にスタートさせました(笑)

photo-本田氏-会話1

本田
POS+を立ち上げた背景として、日本の飲食業のサービスが世界で最も優れていることも大きかったです。ミシュランガイドでも星を持つ飲食店の数は日本が世界一だそうです。安くて美味しくて、サービスレベルが高い日本の飲食店は世界に誇れるものだと思います。しかし先ほども言いましたが、飲食店はPOS視点で見るとアナログ感でいっぱいです。だから日本の優れた飲食店のサービスをデジタル化して、POSサービスに埋め込み、日本や日本以外のお店にも使ってもらいたいと考えていました。

2.労働供給ではなく労働代替の仕組みを「店舗DX」でつくる

-労働を代替できるオペレーションを考える-

鈴木
ここ数年、お店の方と話す機会があると、必ずと言っていいほど”人(人材)が集まらない”という話題になります。こうした状況をどうお考えですか?

本田
日本の労働人口が約6,500万人として、2030年にはその1割が減少すると言われています。その中でも特に飲食・小売の労働力不足は深刻になると考えられています。かねてから外国人労働者で労働力不足を補うという話がありますが、それでは補充しきれないほど労働力不足は深刻です。今は時給1,500円でも人が集まらないという話も聞きますね。

そうなると、お店は人がいなくても回せる仕組みを考えざるを得ません。店舗運営のデジタル化へのシフトは、もう世の中の流れとして変えられないところまで来ていると思います。今はギグワーカーのように、面接がなく、エントリー即決定、即日給与払いの雇用でお店のスタッフを補充している状況ですが、やはりそうした方にすべてのオペレーションを任せることは難しく、一定の、固定の労働力は必要です。この固定の労働力は、人が行わなければならない部分と、テクノロジーで賄える部分に分けられます。テクノロジーが担う部分を明確にして、それが賄えない部分をギグワーカーなどで補充する方向にしていかないと、お店は回らなくなってしまう。POS+のサービスは、この労働力不足を労働供給ではなく労働代替の仕組みをつくることで解消します。POSを中心としたソリューションにより、店舗オペレーションが大幅に効率化・省力化され、今まで4人で回していたフロアを1人で回すようなことも可能になりました。

カフェ

3.POSを中心に展開する、革新的な店舗サービスとソリューション

-POSは「店舗DX」の一丁目一番地-

鈴木
確かに店舗オペレーションの効率化・省力化は「店舗DX」の大きな目的の一つと言えます。POSはその中でどんな役割を果たすとお考えでしょうか?

photo-本田氏と鈴木-会話2

本田
私は、POSはお店の一部にすぎませんが、お店のサービスの一丁目一番地であると考えています。POSの周りにはさまざまなサービスが足され、それが広がり、POS+のソリューションになります。POSがあると何がいいのかと言えば、POSはデータ収集装置として非常に優秀です。現金でもキャッシュレスでも、決済はすべてPOSを通ります。お客様の情報もそこを通ります。そしてそれがサービスのキーになるのです。POS自体がお客様の利便性や満足度を上げるわけではありません。お客様にマッチしたサービスを提供できる仕組みをつくり、お客様に適切なタイミングでプロモーションを届けるためにPOSが必要なのです。この2つは顧客満足度を上げるための効果があり、POSは黒子として顧客満足度を上げるお手伝いをしています。

[クラウド型モバイルPOSレジ POS+によるソリューションの一例]
POS+では店舗オペレーションがクラウドですべて統合管理され、お店の収益・費用・利益もリアルタイムで確認できます。これらをすべて提供するPOSサービスは他にはなく、POS+の強みのひとつになっています。

鈴木
POS+を利用することで、お店はどのような効果を得られますか?

本田
飲食店のPL(損益計算)では材料費と人件費が売上の60%、営業利益は5%と言われています。コストサイドからのアプローチでは、材料費と人件費をそれぞれ2.5%下げることができれば、営業利益は倍の10%になります。売り上げサイドからのアプローチでは、従来の顧客単価で設定された営業利益を追加注文で大きく上げることを目指します。PL(損益計算)の人件費や家賃などの販管費は一定なので、追加注文分は粗利がそのまま営業利益に上乗せされます。POS+のサービスにはお客様の滞在時間や注文履歴をリアルタイムで管理する機能があり、それを利用すればお客様の注文画面から追加注文をプッシュするようなオペレーションも可能です。私たちは飲食・小売・美容それぞれに特化したPOSサービスを展開しているため、このような施策にもスムーズに対応することができるのです。

効果図

鈴木
店舗オペレーションではどのような効果が期待できますか?

本田
ひとつ、大手ハンバーガーチェーンのケースをご紹介します。

このお店では店内の注文や支払いは券売機やセルフレジで対応し、外からのオーダーやテイクアウトの注文予約にはモバイルオーダーで対応しています。これにより注文や会計という業務がすべてお客様に委ねられることになります。調理の方も10時00分にイートインでバーガー10個の注文があり、10時15分にテイクアウトでバーガー20個が予約されていると、「10時00分から10時15分の間にパティを30枚焼いてください」と、裏側でフードロスのない調理指示がなされます。商品の提供も呼び出しモニターを利用して行われ、配膳業務が削減されます。注文も、調理も、配膳も効率化・省力化されることで、人件費と原材料費がぐっと下がります。このお店ではそれを材料費に還元して、より美味しいものを提供できるようになりました。お店のスタッフも「注文を取る」「会計をする」「配膳する」といった業務がなくなり、少ない人数でお店を回せるようになります。このような少し未来の店舗をお店と一緒につくることが、我々のビジネスです。

鈴木
これが先ほどの「労働代替の仕組みの提供」につながるのですね。他にも面白い事例があればお聞かせいただけますか。

本田
「店舗DX」とは少し違いますが、ひとつ素晴らしい試みがあります。Gigi株式会社の今井さんという有名な音楽プロデューサーの方が、東日本大震災の時に音楽でできることには限界がある、衣食住に近いところの支援をしたいということで、子ども食堂を企画されました。これは支援者や協賛者、法人・個人から寄付を募り、それを一旦プールしておきます。スマートフォンで近くの子ども食堂を検索するとデジタルチケットが発行され、その寄付を使って食事が付与されます。日本の子供7人に1人が隠れ貧困といわれる現在、その子供たちに無償で食事が提供され、地域貢献にもなり、お店に費用の負担もありません。これを事業として行った場合、食事代には費用の4割程度しかかけられないと言われています。しかし、この子ども食堂の運用費用は全体の約1割程度で、寄付の9割を子供たちの食事代にまわせるそうです。この子ども食堂の仕組みはPOS+のサービスとも親和性が高く、私たちも協賛させていただいています。

こどもごちめし

引用元:https://kodomo-gochimeshi.org/

鈴木
子ども食堂のオペレーションが省力化され、より多くの費用が食事に使えるわけですね。確かにこれもひとつの「店舗DX」と言えそうですね。

本田

この取り組みは貧困の解消を支援するSDGsの観点や、メニューコントロールでフードロス削減に貢献できるCSRの観点からも有益な取り組みだと思います。さらにそこで働くスタッフの皆さんも地域に貢献している実感を持て、暖かい気持ちになれる。この効果は絶大で、この取り組みに賛同する多くの飲食店が参加しています。

4.「店舗DX」の目的は

-POS+にできること、POS+がすべきこと-

鈴木
本田さんは飲食店のDXをPOSの視点からどのように捉えていますか?

本田
POSはお店においてはワンオブゼム(one of them)でしかありません。実際のお店では、人、物、金、情報にまつわるもの全てを運営しないといけない。1店舗なら店長が社長で、店の経営も、採用も、人の育成も、給与もすべて対応する。でもそれが、100店舗になり、200店舗になり、1000店舗になるとそれを管理する管理部門ができる。でもお店で何が必要かと言えば、やはり人、物、金、情報、全部なんです。だから私たちはそのすべてを、POSを通して提供する枠組みを用意して、そこにPOS+のサービスを一つひとつ置いていくという考え方で店舗のDXを進めています。

photo-本田氏と鈴木-会話3

鈴木
お店はモバイルというキーワードを重視していますか?

本田
モバイルだからどうだということはないと思います。そもそもどこのお店も、変わること自体を嫌います。それは大きな法人でも一緒です。面倒臭いし、何かその先でお客様に迷惑おかけしても困るので、基本的に現状を変えたくないのです。だから、モバイルであろうと何であろうと、変わることについて強く反対する人はいます。だからお店もそこは強い意思を持って変えるしかありません。そのために重要なことは、目的が何かを理解してもらうことです。お客様のリピートが見込めるとか、売り上げが上がるとか、コストが下がることに期待できないと目的としては弱く、抵抗も大きくなります。だからこそDXがどんな目的の達成につながるかを私たちがしっかり説明していくことが必要になります。

-日本の胃袋は小さくなっている-

本田
これからの日本は間違いなく人口が減っていきます。日本の胃袋は小さくなっているんです。だから日本の飲食業は、インバウンド需要を除けばお客様が減っていくことが前提になります。食べる胃袋が小さくなるので、当然お店に来るお客様の数も減ります。そうなるとお店はお客様のリピート率を上げ、食事の顧客単価も上げなければいけません。そのためには顧客満足度を上げることが必要で、CRMの重要度も高まってくると思います。

-ITの仕組みはどこまでいっても手段でしかなく、目的にはならない-

鈴木
顧客満足度を上げてリピート率を高めるには、お店はどんなシステムやツールを入れるべきでしょうか?

本田
結局、ITの仕組みはどこまでいってもツールや手段でしかなく、目的にはなりません。お店の目的は、お客様に満足してもらい、サービスを喜んでもらうことで、お店に何度も来店いただくことです。その目的を達成するためのツールとしてPOS+をはじめとするITサービスがあります。ツールを入れるだけでは、売り上げが上がったり、コストが下がったりということにはつながりません。お客様にITサービスをツールとして正しく使ってもらうことが重要です。そしてツールを使うのはお客様です。だからこそ、そのツールをお客様にわかりやすく、使いやすいと思っていただけるようにすることが私たちの役目だと考えています。POS+のサービスに触れていただくことでお店に笑顔が広がり、来店するお客様がお店のファンになる。POS+はそれを間接的にお手伝いしていきたいと考えています。

鈴木
お客様が使いたいキャッシュレス決済を自由に選んで使ってもらうことを目的とすれば、決済端末はそのためのツールだといえます。POS+と三井住友カードさんがPOSと決済端末を一緒にしたことで、マルチキャッシュレスが浸透し、お店でもスタンダードになりました。

端末機

5.引き算でレジのない世界へ

-サービスのブラックボックス化を目指す-

鈴木
お店に対する次のステップとして何か考えていることはありますか?

本田
我々はいつまでもお店の伴走者であり、店舗運営を近くで支えながらお役に立つ関係で、そこは変わらないと思います。お店のオーナーがやりたいことを、お店のスタッフにストレスがかからないよう、必要なサービスをどう適合させていくかを考えていきます。ここでひとつ意識していることは、ソフトウェアとかハードウェアとか、いろいろなものを「引き算」で見えなくしていくことを目指すということです。サービスをどんどんブラックボックス化していくようなイメージです。端的に言えば、使う人のハードルをできる限りなくしたい。デバイスレス、レジのない世界がわかりやすい例だと思いますが、それをどう実現していくかはこれからの課題です。

鈴木
今回お話を伺う中で、本田さんの店舗DXに対する考えや目指すところに少なからず共感を得ました。また、子ども食堂のお話も人に対しての想いを大事にされていることが伝わり、それがビジネスのスタンスにも現れているのだと感じました。

TISは金融機関向けサービスや基盤システムでの実績やノウハウがありますので、これを元に小売業界向けに提供できるサービスを強化していきたいと思っています。例えば人材の確保であれば、決済アプローチから給料のデジタル払いなどもご提案できるかもしれません。TISとポスタスさんの間にビジネスとしてのつながりはまだありませんが、近い将来、何かアライアンスを組むことができたなら素晴らしいことだと思います。

photo-本田氏と鈴木-会話4

6.今回のまとめ

✓POSサービスを効果的に利用すれば、世界に誇る日本の飲食サービスのDX化が可能になる
✓これからの飲食店は、労働を代替できるオペレーションを考えることが必要
✓店舗DX化を成功させるためにもPOSから得られたデータをどう活用するかが重要になってくる

取材日:2024年1月17日

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