スマートフォンをかざすだけで支払いが完了するNFC決済(非接触型決済)は、コロナ禍を背景としたキャッシュレス需要の高まりとともに、多くの企業・店舗で普及しています。
店舗がNFC決済を導入することは、どのようなメリットがあるのでしょうか。
本コラムではNFC決済の種類や、店舗が導入するメリット、注意点などを分かりやすく解説します。
1 NFC決済(非接触型決済)とは
2 代表的なNFC規格の種類
2-1 Type-A
2-2 Type-B
2-3 Type-F(FeliCa)
3 NFCを利用した決済サービスの例
3-1 Apple Pay
3-2 Google Pay
3-3 おサイフケータイ
3-4 Suica(スイカ)
3-5 楽天Edy
3-6 nanaco(ナナコ)
3-7 WAON(ワオン)
3-8 iD(アイディー)
3-9 クレジットカードのタッチ決済
4 NFC決済に対応するメリット
4-1 決済時間の短縮による回転率の向上
4-2 顧客の拡大・離脱防止
4-3 データの蓄積
4-4 決済のセキュリティ向上
4-5 業務効率化・スタッフの負担軽減
5 NFC決済の導入方法
5-1 NFC決済事業者との直接契約
5-2 決済代行サービスの利用
6 NFC決済を導入する際の注意点
6-1 セキュリティ面の配慮が求められる
6-2 システム障害・トラブルが発生するリスクがある
6-3 できるだけ多くの決済方法に対応する必要がある
7 NFCの将来性
8 まとめ
1 NFC決済(非接触型決済)とは
NFC決済とは、近距離無線通信(Near Field Communication:NFC)技術を利用した非接触型の決済方式です。
NFC専用の読み取り端末にカードやスマートフォンなどをかざすだけで支払いが完了します。Suicaなどの交通系ICカードや、Apple Payなどのモバイル決済、クレジットカードのタッチ決済などに活用されています。
NFCは数センチ程度の至近距離でしか通信できない仕組みになっているため、通信中に第三者が割り込むリスクが低く、安全性が高い点が特徴です。また決済が短時間で完了するため、スピーディでストレスのない決済体験を実現できるというメリットもあります。
NFC決済は、近年ではキャッシュレス化の加速により、小規模店舗や飲食店などでも導入が広がっています。日本だけでなく世界中で普及している決済方法です。
2 代表的なNFC規格の種類
NFC決済の代表的な規格には、次の3種類があり、それぞれ用途や採用されているサービスが異なります。
名称 | 規格 | サービス例 |
---|---|---|
Type-A | ISO14443 Type A |
|
Type-B | ISO14443 Type B |
|
Type-F(FeliCa) | ISO/IEC 18092 |
|
ここでは、上記の表で示した内容をさらに詳しく解説します。
2-1 Type-A
Type-Aは、他の規格と比べて比較的安価に導入できるなどのメリットから、非接触ICカードの「MIFARE(マイフェア)カード」など、世界的に広く採用されています。国際カードブランドのタッチ決済は、一般的に本規格と次項で紹介する「Type-B」をベースにしているため、インバウンド需要の高いエリアでは必須となる規格です。
【使用サービス例】
- MIFAREカード
- taspo(タスポ)
- クレジットカードのタッチ決済
2-2 Type-B
Type-Bは、パスポートなどセキュリティ要件の高い分野で世界的に用いられています。日本ではマイナンバーカードや運転免許証にも使われている規格です。
【使用サービス例】
- パスポート
- 運転免許証
- マイナンバーカード
- クレジットカードのタッチ決済
2-3 Type-F(FeliCa)
Type-Fは、日本の主要な電子マネーで活用されているNFC規格で、「FeliCa」とも呼ばれます。
【使用サービス例】
- スマホ決済(Apple Pay・おサイフケータイなど)
- Suica(スイカ)
- 楽天Edy(エディ)
- nanaco(ナナコ)
- WAON(ワオン)
- iD(アイディー)
3 NFCを利用した決済サービスの例
NFCを使用した決済サービスとして代表的なのは以下のサービスです。
- Apple Pay
- Google Pay
- おサイフケータイ
- Suica(スイカ)
- 楽天Edy(エディ)
- nanaco(ナナコ)
- WAON(ワオン)
- iD(アイディー)
- クレジットカードのタッチ決済
それぞれどのような決済サービスなのか、概要を以下に解説します。
3-1 Apple Pay
Apple Payは、クレジットカード・電子マネーなどの決済方法を統合し、iPhoneなどApple製品のNFC通信によって決済できるようにするサービスです。
Apple Payを利用すると、ユーザーはクレジットカードなど登録したカードを持ち歩く必要がなくなり、代わりにiPhoneなどを使って決済できるようになります。例えばレジで使用する際、ユーザーは「Visaカードで」など、通常と同じように使いたい決済方法を伝えることで利用することが可能です。
Apple PayとSuicaを連携させると、iPhoneなどを通常のSuicaカードと同じようにかざして改札を通過したり、チャージしたりできます。
3-2 Google Pay
Google Payは、Apple Payと同様にクレジットカード・電子マネーなどの決済方法を統合して、Android端末のNFC通信で決済できるようにするサービスです。
Androidでは、次に紹介する「おサイフケータイ」というサービスでも電子マネー決済を端末に登録できますが、登録できる決済方法の範囲などが異なります。Google Payはクレジットカードを登録でき、おサイフケータイよりも幅広い決済方法で利用可能です。
3-3 おサイフケータイ
おサイフケータイも、Android端末に電子マネー決済を登録できるサービスです。Android端末でモバイルSuicaを使用する際などに使用します。
Google Payとの違いはクレジットカードの登録ができない点と、単体での利用は不可で「モバイルSuicaアプリ」など電子マネーごとに専用のアプリを使用する必要がある点です。
3-4 Suica(スイカ)
SuicaはJR東日本の前払い式電子マネーです。Type-F(FeliCa)のNFCによって決済・チャージが行われています。
前述のApple Payやおサイフケータイと連携させることで、スマートフォンでSuica決済ができるようになります。
駅の改札だけでなく、コンビニ・スーパーなど幅広い店舗で使えるため、日常的な決済方法として使用する人が多い決済方法です。
3-5 楽天Edy
楽天Edyは、楽天グループの前払い式電子マネーです。クレジットカードとして人気の高い「楽天カード」に楽天Edyの機能を付けることで、クレジットカード払いと電子マネーを1つのカードにまとめることができます。
QRコード決済の「楽天ペイ」アプリや、Google Payと連携させることでスマホでも決済できます。
チャージ・支払いの際に「楽天ポイント」がたまるなど、ポイント制度が充実していて人気の高い電子マネーです。
3-6 nanaco(ナナコ)
nanacoは、セブン&アイグループの前払い式電子マネーです。こちらもクレジット一体型のカードがあります。Apple PayやAndroid用のモバイルアプリと連携させればスマホでの決済も可能です。
セブン&アイグループの店舗をはじめ使えるお店が多く、効率的にポイントが溜まるなどのメリットから、多くのユーザーが利用しています。
3-7 WAON(ワオン)
WAONは、イオングループの前払い式電子マネーです。前述のApple PayやGoogle Payと連携させることでスマートフォンでも決済できます。
イオンの店舗だけでなくコンビニ・ドラッグストア・飲食チェーンなど利用できる店舗が多く、多くのユーザーが日常的に利用しています。
3-8 iD(アイディー)
iDは、NTTドコモが運営する電子マネー決済です。こちらもWAONなどの電子マネーと同様に、Apple PayやGoogle Payと連携させることでスマートフォンでの決済ができます。
次の3つの支払いタイプがあり、支払い方法としてもクレジットカード・QRコード決済などさまざまな決済方法を選べます。
- ポストペイ型:後払い式。クレジットカード代金と一緒に請求される。
- プリペイド型:事前チャージ式。
- デビット型:口座の残高から即時に引き落とされる。
3-9 クレジットカードのタッチ決済
クレジットカードの差し込みなどが不要で、非接触で決済できる「タッチ決済」でもNFC通信が利用されています。NFCの規格は、国際的に普及している「NFC Type A/B」です。
VISA・Mastercard・JCBなど主要な国際ブランドのクレジットカードで利用でき、決済をスピーディに完了できるなど利便性の高さから普及が進んでいます。
店舗でタッチ決済を導入するには、タッチ決済対応マークの付いたNFC端末を用意する必要があります。
4 NFC決済に対応するメリット
店舗・企業がNFC決済を導入することで、主に次の5つのメリットが期待できます。
- 決済時間の短縮による回転率の向上
- 顧客の拡大・離脱防止
- データの蓄積
- 決済のセキュリティ向上
- 業務効率化・スタッフの負担軽減
それぞれ詳しく見ていきましょう。
4-1 決済時間の短縮による回転率の向上
NFC決済は端末にかざしてすぐに取引が完了するため、レジなどの決済時間を短縮でき、回転率の向上につながります。
特にファストフード店などの回転率が重要な業態では、決済時間短縮が売上増加に直結します。
また、スーパー・コンビニなどレジ待ちが発生しやすい店舗でも、待ち時間の削減は利用者のストレス軽減につながり、顧客満足度向上が期待できます。
4-2 顧客の拡大・離脱防止
NFC決済に対応への対応により決済手段の選択肢を広げることで、来店動機を高め、顧客層の拡大や離脱防止につながります。
キャッシュレス化が進む中、決済方法が限られた店舗は敬遠されやすく、特に若年層や訪日客は財布を持たずに外出するケースも多いため、対応の有無が来店判断に影響する可能性があります。
また、非接触という特性は衛生面を重視する利用者や、感染症対策が重要な医療機関などでも需要が見込まれます。これらのニーズに応えることで、来店数の増加やリピート率向上が期待できます。
4-3 データの蓄積
NFC決済は決済内容を電子データとして記録でき、POSなどと連携することで購買履歴をリアルタイムで蓄積することが可能です。
蓄積したデータは、時間帯別の売り上げや購入商品の組み合わせを可視化するなど、顧客傾向の分析などに活用できます。
ECサイトとデータ連携することで、実店舗とオンラインストアの垣根を超え、同一ユーザーの購買行動を分析するといった、チャネルを横断した分析も可能です。
大規模なシステムを持たない中小店舗においても、NFC決済などキャッシュレス決済によってデータ蓄積を行うことで、データドリブンな経営を行うことが可能になります。
4-4 決済のセキュリティ向上
NFC決済を導入することで、決済プロセスの安全性向上にもつながります。
キャッシュレス決済は便利ですが、不正使用のリスクが伴う点がデメリットです。例えば人気の高いQRコード決済は、店頭のQRコードをすり替える「ステッカー詐欺」や、「決済完了画面の偽造」などさまざまな不正使用のリスクが伴います。
NFC決済においても不正使用のリスクはゼロではありませんが、通信を暗号化でき、数センチ以内の近距離通信という特性から、安全性の高い決済手段として注目されています。
4-5 業務効率化・スタッフの負担軽減
NFC決済を導入すると複数のキャッシュレス決済に対応できるため、現金の取扱量を減らし、業務効率化やスタッフの負担軽減につながります。
開店前の釣銭準備や、閉店後のレジ締めといった現金管理に費やす時間が短縮され、スタッフは接客など他の業務にリソースを充てられます。
業務負荷を軽減できることで「スタッフの定着」や「採用コスト削減」といった、人事面での効果も期待できます。
5 NFC決済の導入方法
NFC決済を導入する方法は、大きく分けて以下の2つです。
- NFC決済事業者との直接契約
- 決済代行サービスの利用
それぞれのメリット・デメリットを以下に詳しく解説します。
5-1 NFC決済事業者との直接契約
電子マネー事業者などのNFC決済事業者と個別に契約する方法です。
個別に交渉でき、間に入る仲介業者が少ないため、手数料などの条件を直接交渉でき、コストを抑えやすい点がメリットです。
ただし直接契約の場合、複数のNFC決済に対応するためには多くの手間がかかります。NFC決済の種類を増やすごとに新たな決済事業者と契約する必要があり、契約・管理に多くの手間がかかる点がデメリットです。
顧客ニーズに応えるには、できるだけ多くのNFC決済を導入する必要がありますが、特に小規模な店舗においては、直接契約での導入は現実的ではないといえます。
5-2 決済代行サービスの利用
もう1つの方法は、NFC決済に対応した決済代行サービスを利用する方法です。
決済代行サービスとは、さまざまな決済手段の導入・契約・管理を一括で代行するサービスです。
決済代行サービスを利用すると、複数の決済事業者との契約・入金管理・端末提供・サポートなどを代行会社が一元的に提供します。そのため店舗側では、決済事業者ごとに個別に契約などの対応をする必要がありません。
また決済代行サービスではNFC決済を含む複数の決済方法を処理できる「マルチ決済端末」を提供していることが多く、1台で複数の決済手段に対応できます。
特に小規模な事業者や初めてキャッシュレス導入を検討する店舗にとって、コスト面・運用面の負担が少ない導入方法として人気があります。
参考:決済代行サービスとは?その仕組みや導入メリット、選び方のポイントを解説
6 NFC決済を導入する際の注意点
NFC決済を導入する際には以下の3点に注意し、適切な対策を取っておくことが大切です。
- セキュリティ面の配慮が求められる
- システム障害・トラブルが発生するリスクがある
- できるだけ多くの決済方法に対応する必要がある
それぞれ以下に詳しく解説します。
6-1 セキュリティ面の配慮が求められる
NFC決済は、仕組み上セキュリティ性が高いとはいえ、セキュリティ面の配慮が不要というわけではありません。
例えば決済端末を使用する店舗のWi-Fiなど、ネットワーク環境のセキュリティ管理を徹底する必要があります。使用するWi-Fiルーターには、WPA3などセキュリティ性の高い暗号化方式が採用されたものを選び、セキュリティ面に不安のある古い機種などを使用しないことが重要です。
NFC決済でクレジットカードの会員情報を扱う場合には、「PCI DSS」と呼ばれる国際的なセキュリティ基準への対応も求められます。
参考:【今さら聞けない】誰でもわかる PCI DSSの要件と対応方法
6-2 システム障害・トラブルが発生するリスクがある
NFC決済などキャッシュレス決済全般には、システムに障害・トラブルが発生するリスクが伴います。
決済機器の操作ミスなど店舗側が原因のトラブルが発生しないように、スタッフの教育やサポートの体制を整備する必要があります。
店舗側に落ち度がなくても、決済事業者側のサーバーなどでシステム障害が発生する可能性もあるため、トラブルを完全に防ぐことはできません。障害が発生した際に備えて、スタッフ向けにトラブルシューティングのマニュアルを用意するなどして、迅速な対応ができる体制を整えましょう。
6-3 できるだけ多くの決済方法に対応する必要がある
利用者の幅広いニーズに応えるには、NFCだけでなくQRコード決済など、できるだけ幅広い決済手段を提供する必要があります。
本コラムの「代表的なNFC規格の種類」で解説した通り、国内のNFC決済の多くは「Type-F」ですが、インバウンド層のニーズを満たすには「Type-A/B」のNFC決済にも対応する必要があります。
前述の「決済代行サービス」を利用するなどして、できるだけ多くの決済方法を一括で導入するのがおすすめです。
7 NFCの将来性
NFC通信は決済だけでなく幅広いシーン・用途で活用されています。例えば以下のような用途です。
利用シーン | 詳細 |
---|---|
マイナンバーカード | マイナンバーカードのICチップ情報の読み取りの際にNFC通信を活用。 |
端末のペアリング | スマートフォンとワイヤレスイヤホンなどのペアリングでNFC通信を活用。 |
電子チケット | 紙のチケットなしでスマートフォンをかざすだけでチェックインできる電子チケットでの活用。 |
ゲーム機 | Nintendo Swichのコントローラーで、キャラクターなどを読み込む「amiibo」の読み取りにNFC通信を活用。 |
このように決済にとどまらない幅広い分野で活用されており、今後も新たなビジネス・サービスへの活用が検討されていくことが予想されます。
企業は商品・サービス開発を検討していく上での一要素として、NFCのメリット・デメリットを十分に把握しておくことが大切です。
8 まとめ
NFC決済は、スピーディに決済が完了し、セキュリティ面で優れているなどのメリットから人気の高い決済手段です。
NFC決済を導入することで、回転率の向上や、顧客層の拡大、顧客データの蓄積など、売り上げの安定・向上につながる多くのメリットにつながります。未導入の店舗においては、決済代行サービスを利用するなどしてNFC決済の導入を検討することをおすすめします。
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