コラム Column

アジア諸国と日本の決済市場の徹底比較

 

 2020年現在、日本ではPayPayやLINE Payに対応する飲食店、小売店などが増加し、キャッシュレス決済が身近になってきています。
本コラムでは日本と、アジア諸国(主に中国や韓国)のキャッシュレス決済事情についてわかりやすく解説します。

現金主義が多い?日本のキャッシュレス決済事情

冒頭でお伝えした通り、日本のキャッシュレス決済の利用率は2019年時点で約29%と、海外の先進国と比べて比べて非常に低い値となっています。

2020年現在の最新データはまだ発表されていませんが、日本のスーパーマーケットや飲食店では、多くの人が現金で決済しているのを目にします。また、日本では個人商店などを中心に、現金決済のみとなっていることも多く、キャッシュレス決済を選択できないというケースもあります。最近はPayPayやLINE Payに対応している個人商店も増えてきてはいますが、利用者はまだまだ少ない状況です。その一方で、同じアジアでも中国では約60%、韓国では約90%と高い水準でキャッシュレス決済が進んでいます。
同じアジアの国でなぜここまで差があるのでしょうか?その理由を考えてみようと思います。

日本のキャッシュレス化が大きく遅れている要因 その1:治安の良さ

中国は盗難、偽札問題を背景に、キャッシュレス化が進んだとされています。屋台などの路面店でも盗難被害やアルバイトに現金を持ち逃げされるケースが少なくないようです。
現金決済はそういった危険が伴うため、キャッシュレス決済にした方が安全という考え方が浸透しました。中国では、偽札の危険があるため「現金決済不可」とするお店もあるほどです。

一方、日本では偽札の心配をする人はほとんどいません全く流通していないとは言い切れませんが、日本国内で見つかっている偽札は年間で1000~2000枚前後 となっており、遭遇することは極めてまれです(2019年の国内の紙幣の流通枚数は年間で171億枚 )。
窃盗、ひったくりなどの事件は日本でも多数起こっていますが、それでも私たちが「安心して現金を持ち歩けない」と感じるほどではありません。
偽札が流通せず、盗難の心配も少ない日本では、現金決済に対する問題があまりなく、キャッシュレス決済が普及しにくくなっています。

日本のキャッシュレス化が大きく遅れている要因 その2:手数料の違い

日本のキャッシュレス化が遅れている大きな要因の一つとして挙げられるのは、「日本はクレジットカードの加盟店への手数料が高い」ということです。

日本のクレジットカードの加盟店への手数料は、約3~5%となっています。この手数料がネックとなっているため、クレジットカード払いに対応していない小売店や飲食店がまだまだ数多く存在します。

中国で爆発的に普及した銀聯(ぎんれん)カードの中国内の手数料は約0.5%で、日本のクレジットカードの6~10分の1程度の手数料です。

銀聯カードは韓国でも普及しており、銀聯カードが両国のキャッシュレス社会を作ったと考えられます。実際キャッシュレス決済の割合が非常に高い韓国の決済方法はクレジットカードが主流です。

キャッシュレス決済が進んでいる国ではどのようなサービスが利用されている?

では実際にキャッシュレス決済が進んでいる中国や韓国では、どのようなサービスが利用されているのでしょうか。各国で主流となっているサービス、アプリをご紹介します。

中国で使われているキャッシュレス決済

中国で圧倒的に利用されているキャッシュレス決済は上述した銀聯カードです。UnionPayとも表記されます。

銀聯カードの加盟店は全世界に5,600万店以上となっており、VISA、Master、American Express、DINERS、JCBに次ぐ世界的カードブランドとして地位を確立しつつあります。

銀聯カードの発行枚数は中国だけで70億枚以上とされており、発行枚数としてはVISAやMasterカードをしのぎます。中国からの観光客が多い日本でもUnionPayの表記がある店舗はよく見かけます。

銀聯カードはクレジットカードだけでなく、銀行口座のキャッシュカードとしても発行されており、その多くはデビットカード利用となっています。

スマホを利用した決済手段として中国国内で利用されているのは、日本でも知る人が多いアリババのグループ会社が提供している「Alipay(アリペイ)」と、中国発のメッセージアプリ、WeChat(ウィーチャット)に搭載されている「WeChat Pay」です。

Alipayは全世界で利用者数が10億人を突破し、中国のキャッシュレス決済の主流となっています。最近では、日本でも利用できる店舗が増えてきました。

WeChat Payは中国で利用されているメッセージアプリ(WeChat)に組み込まれている決済サービスで、QRコード決済サービスとしてはAlipayに次いで2位となっています。

大量のユーザーを抱えるWeChatにはWeChat Payの他にも配車サービス、チケットの予約、ゲームなどさまざまなミニプログラムを追加することが可能なスーパーアプリ(※1)です。決済だけではなく、さまざまなアプリが紐づいた便利な仕組みになっており、ユーザーはマイミニプログラム(お気に入り)を登録しておくことができます。都度別のアプリを立ち上げることなく、必要なものがWeChatの中に用意されているので、一大経済圏が出来上がっています。

※1 日常生活のさまざまなシーンで利用できる機能をもつ統合的なスマートフォンのアプリ

 

韓国で使われているキャッシュレス決済

韓国のキャッシュレス決済は上述した銀聯カードを始めとするクレジットカードの決済が主流となっています。韓国では全体の消費のうち実に75%がクレジットカード支払いとなっています(2017年時点)。 
ここまでクレジットカードが普及したのは、韓国政府が実施したクレジットカード利用促進策によるものと考えられます。

 

 

クレジットカード利用促進策の具体的な政策は以下の3つです。

  • 年間クレジットカード利用額の20%の所得控除(上限30万円)
  • 宝くじの権利付与(1,000円以上利用で毎月行われる当選金1億8千万円の宝くじ参加権の付与)
  • 店舗でのクレジットカード取り扱い義務付け(年商240万円以上の店舗が対象)

これによって韓国は1999年から2002年の3年間でクレジットカード発行枚数は2.7倍、クレジットカード利用金額は6.9倍に急増したとされています。

クレジットカード以外では電車やバスなどの交通機関で利用できる「T-moneyカード」が利用されています。日本のSuicaのようなカードで、「韓国旅行の際に持っておくと便利」と旅行雑誌などでも紹介されています。Suicaと同様、スマホでT-moneyが使える「モバイルT-money」も徐々に普及し始めています。

韓国のスマホ決済、QRコード決済は2018年12月からソウル市の政策によって開始された「Zero Pay」が急速に普及しつつあります。
韓国ではクレジットカードの利用が主流ですが、小規模な事業者にとってクレジットカードの手数料の負担は決して小さいものではありません。約60万人の小規模事業者を救済するために、ソウル市は決済手数料が掛からない「Zero Payサービス」を開始しました。
Zero Payは加盟した事業者の手数料を0に、利用する消費者には40%の所得控除を受けられるというメリットがあります。これによってZero Payは加盟店、消費者ともに急速に増加しています。

まとめ

中国では防犯上の理由で、韓国はクレジットカード促進策によって、インドは高額紙幣の廃止によってキャッシュレスが急速に進みました。

日本はまだまだキャッシュレス決済が普及しづらい状況ですが、日本でも現金を扱わないことで現金管理のコスト削減を実現する店舗が出現したり、キャッシュレスと紐づく新たなサービスが続々と誕生しています。また、コロナ禍で現金を使いたくないという人も増加しており、これを機にキャッシュレス決済の利用が増加することが予想されます。

消費者還元キャンペーンは終了してしまいましたが、今後もキャッシュレス化の流れに注目していきましょう。

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