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ビジネスにブロックチェーンを活用する方法‐基礎から事例について徹底解説

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はじめまして、TIS Web3ビジネス企画部の村上です。
私が所属するWeb3ビジネス企画部では、Web3やブロックチェーンに関連するビジネスやテクノロジーの調査・研究や、さまざまな業界の企業とWeb3関連ビジネスの共創に取り組んでいます。

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ブロックチェーンという言葉自体は今では広く知られるようになりました。しかし、実際のビジネスにおいてどのようにブロックチェーンが活用されているのか、まだあまり知られていないように感じます。本コラムでは「企業によるブロックチェーン活用」に焦点を当て、企業はなぜブロックチェーンに注目し、どのようにビジネスに活用しているのか、ブロックチェーンのエンタープライズ活用の歩みとその魅力をお伝えしていきます。

1.ブロックチェーンとは

ブロックチェーンイメージ画像

ブロックチェーンとは、世界初の仮想通貨(暗号資産)であるビットコインを支える仕組みとして発明されたテクノロジーであり、「分散型台帳技術(DLT:Distributed Ledger Technology)」と呼ばれる技術の一つです。一般的なシステムでは管理者によりデータや台帳が中央集権的に管理されるのに対し、分散型台帳技術では、複数の参加者がネットワーク上で同じ台帳を保有して、合意形成しながら全ての台帳情報を更新する分散化された仕組みとなっています。ブロックチェーンはビットコインの普及により広く知られるようになりましたが、現在では仮想通貨だけにとどまらず、金融・流通・製造など多くの企業がこのテクノロジーに注目し、ビジネスに取り入れようと進めています。

現在は多くの企業がブロックチェーンに注目し、積極的に導入を検討しています。これはブロックチェーンがさまざまな業界での活用の可能性を秘めていることを意味します。特にBtoB領域においてブロックチェーンの活用は以下の点でメリットをもたらします。

取引の迅速化と効率化

ブロックチェーンを利用することで「デジタルデータに原本性(本人が作成したものであり、改ざんされないこと)を与える」ことが可能になります。
ビジネスの契約や取引において、「データの原本性」や「取引内容に含まれるデータの正しさ」を証明することは非常に重要です。これまで私達は、この証明を行うために、信頼できる第三者機関に仲介を依頼してきました。
例えば、送金をする場合には銀行から送金し、輸出入を行うなら商社、財務状況を証明しようとするなら監査法人を間に入れて取引を行います。第三者機関を仲介することで安全な取引や情報共有を実現できますが、その反面、追加でのコストと時間がかかります。もし、新しいビジネスのために、ゼロから信頼できる第三者機関を立ち上げ・維持するとなると、さらに莫大なコストと時間が必要になります。
しかし、ブロックチェーンをビジネスで活用することで、「第三者を介することなく新しいビジネスモデルの創出」や、「企業間の確実なデータの共有や取引による業務効率化」を計ることが可能になりました。

2.ブロックチェーンの分類

 企業でのブロックチェーン活用の詳しい話をする前にブロックチェーンの分類について説明します。
ブロックチェーンには、不特定多数の誰でもが参加可能なパーミッションレス型の「パブリックブロックチェーン」と、事前に承認された特定参加者のみが参加可能なパーミッション型の「プライベートブロックチェーン」と「コンソーシアムブロックチェーン」の3種類があります。

①パブリックブロックチェーン

パブリックブロックチェーンは、ビットコインなど多くの仮想通貨基盤として使われているブロックチェーンであり、代表的なプラットフォームとしてはBitcoinやEthereumがあります。その特徴は、管理者が存在しない自律的な仕組みであること、不特定多数の誰でもが参加可能なこと、ブロックチェーン上の取引やデータはすべてが公開されるという高い透明性が挙げられます。
管理者不在でも自律的に動き続けるために参加者は一定のルールに従って合意形成を行う必要があり、そのため性能は比較的低い傾向があります。

②プライベートブロックチェーンとコンソーシアムブロックチェーン

プライベートブロックチェーンおよびコンソーシアムブロックチェーンは、企業でのビジネス活用の基盤として多く使われるブロックチェーンで、代表的なプラットフォームとしてはCordaやHyperledger Fabricがあります。その特徴としては、特定の管理者が存在して管理者に承認された参加者のみで構成されるため、パブリックブロックチェーンと比較するとオープンではなくなる反面で、合意形成が容易で高い性能を出すことが可能です。
プライベートブロックチェーンとコンソーシアムブロックチェーンの違いは、単一企業内での管理・利用なのか、複数の企業が集まりコンソーシアム(共同事業体)を形成して共同で管理・利用するのかの違いです。

    パブリック プライベート コンソーシアム
管理者 なし 単一企業・組織 複数組織・企業
参加者 自由(制限なし)
不特定多数の参加者
許可制
企業等の身元が信頼できる組織同士で構成
目的 非中央集権で自律的に稼働するネットワークの実現 単一組織内での確実なデータの共有や取引の実現 コンソーシアム内での確実なデータの共有や取引の実現
性能 比較的低い 比較的高い
プライバシー 取引内容や取引関係者が外部にもオープンに公開 取引内容や取引関係者は参加者間でのみ公開
代表的なプラットフォーム Bitcoin、Ethereum Corda、Hyperledger、Fabric、Quorum

3.企業のブロックチェーン活用の変化

それでは、実際に企業でのブロックチェーン活用はどのように進んできたのでしょうか?
企業の仮想通貨以外のブロックチェーン利用は、2018年頃から注目され始め、欧米を中心に金融・流通・製造なさまざまな業界で実証実験が始まりました。実証実験の多くは、企業が単独で取り組むのではなく、複数の企業が集まりコンソーシアム(共同事業体)を形成しての共同実験が行われました。

実証実験の結果、ビットコインなど仮想通貨基盤のブロックチェーン(パブリックブロックチェーン)をそのまま企業が活用すると、不都合な点が明らかになりました。
例えば、性能面では企業間取引に求める処理性能がないことや、プライバシー面ではコンソーシアム以外にも取引内容や取引関係者が公開されてしまうといった問題です。
これらの問題に対応するため、企業での利用に特化した新しい種類のブロックチェーン「コンソーシアムブロックチェーン」が、開発されました。

企業が主導する多くのブロックチェーンプロジェクトでは、コンソーシアム型ブロックチェーンが採用されています。そしてコンソーシアム型ブロックチェーンは、エンタープライズブロックチェーンとも呼ばれるようになりました。
つまり、多くの企業にとってのブロックチェーン活用は、ビットコインが実現したような「だれでも参加できる完全に非中央集権で自律的な仕組み」を求めたのではなく、「許可された企業間での業務効率化」を目指して検討が進んでいきました。

4.企業のブロックチェーン活用例(事例)

ここからは、企業間でコンソーシアム型ブロックチェーン(エンタープライズブロックチェーン)を活用した代表的な事例をいくつかご紹介します。
これからご紹介する取り組みのポイントは業務効率化です。多くの事例は「ブロックチェーン無しでも従来の技術や運用で実現できていました。
ですが、ブロックチェーンを利用することで「仲介する第三者機関」や「確認のための業務」を省略することができ、コストや時間を削減しています。

■サプライチェーン

サプライチェーン図

サプライチェーンは、企業のブロックチェーン活用の代表的な事例の一つです。
その中でもモノのトレーサビリティは、食料品から自動車までさまざまな取り組みが行われています。

トレーサビリティとは、「そのモノが、いつ、どこで、誰によって作られたのか」を追跡するため、作業履歴や移動履歴を可視化することです。
現代のサプライチェーンはグローバルにさまざまな関係者が存在して非常に複雑なため、自社製品の原材料や流通過程のトレーサビリティを実現しようとしても、自社のみでは当然完結せず、サプライチェーンの上流・下流の多くの会社を巻き込んで実現する必要がありました。
そこで、サプライチェーンに関連する複数社でコンソーシアムを形成して、ブロックチェーンを活用することでトレーサビリティを実現したのです。
ここでのブロックチェーンを採用したポイントは、コンソーシアム参加各社が持ち寄ったデータを企業間で確実かつ効率的に共有するために利用しています。

トレーサビリティの実現により、食品や医薬品などの安全性を高めるだけでなく、紛争鉱物への取引規制への対応や、資源のリサイクル管理などさまざまな取り組みが行われています。

活用事例

■Akliteia(アクリティア):本物だけを消費者にお届けする新しい偽造防止ソリューション

Akliteiaは旭化成株式会社とTIS株式会社が共同で提供するサービスです。偽造防止ラベル、真贋判定デバイス、ブロックチェーンの3要素で構成されており、「真正性の担保」と「原本性の担保」の両方を実現したプラットフォームです。サプライチェーンの各拠点で製品真正品であるかどうか判定ができ、ブロックチェーンを利用することで偽造品の発生状況をサプライチェーン全体で確実に共有することが可能です。これにより、サプライチェーンのどの段階で偽造品が多く混入されたかなど、被害実態の定量的な把握・可視化が行えるようになります。

web3に関する詳しい資料はこちらから
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【関連ニュースリリース】
□旭化成とTIS、偽造防止デジタルプラットフォーム「Akliteia®」を構築
https://www.tis.co.jp/news/2022/tis_news/20221018_1.html

□偽造防止デジタルプラットフォーム「Akliteia®」食品偽装対策への活用を開始
https://www.tis.co.jp/news/2023/tis_news/20230420_1.html

■IBM Food Trust:流通経路の透明性と食の安全を守る

IBM Food Trustは、IBMが提供する食品サプライチェーンのトレーサビリティサービスです。サプライチェーンに関連各所(生産者や製造業者、流通業者、小売業者)での製品情報をブロックチェーンに記録し、関係者間で共有します。
特定の食品の安全に問題が発生した場合には、これまでは可能性のある製品すべてを廃棄したり、消費者から敬遠されることが多数発生していましたが、IBM Food Trust利用することで、どの製品が影響を受けたのかを可視化でき安全な商品のみを販売することができます。

■バックオフィス業務

バックオフィス図

もう一つのブロックチェーン活用の代表的な事例として、会社間取引におけるバックオフィス業務の効率化があります。
企業間取引での受発注などは会社間で同じ取引内容であるにも関わらず、コミュニケーションのズレ等が原因で取引相手と異なった取引内容が保管されてしまうという問題があります。
それを防ぐためには、取引後に各社がバックオフィス業務として確認作業を行うのですが、取引量に比例して時間もコストもかかります。その典型的な例は、膨大な紙の契約書を人海戦術で処理するような業務です。

商習慣として残っている背景には、書類に署名・捺印して正・副をお互い持ち合うことで原本として取り扱えることです。
そのため、単純に契約書をPDFで電子化するだけでは、簡単にコピーができ、書き換えられてしまうため紙が持つ原本性が損なわれてしまいます。
そこで、紙をデジタル化する際に、「デジタルデータに原本性をあたえる」ことができるブロックチェーンを使うことによって、紙の契約書がもつ特性を担保したまま情報を電子化し、業務スピードを飛躍的に向上させることができます。

商習慣として紙書類が多く残っていた貿易などの業務では、ブロックチェーンを活用した取り組みが多数行われています。

活用事例

■BunkerNote:船舶向け燃焼受発注を一元管理

BunkerNoteは、豊田通商が提供する船舶関連業界向けのクラウドサービスで船舶燃料や納品、請求情報などをブロックチェーン情報を使って効率的に管理ができるサービスです。従来は紙で管理していたやり取りを、ブロックチェーンを利用することで紙本来がもっていた「透明性」「原本性」「耐改ざん性」が確保されたまま、業務スピードが向上されます。またこのサービスによって納入情報の手間やヒューマンエラー、書類の処理や整合性の確認といった人的コストなども軽減されます。

【関連ニュースリリース】
□TIS、ブロックチェーン技術を活用した豊田通商の船舶向け燃料受発注を一元管理する業界初のクラウドサービス「BunkerNote」の構築を支援
https://www.tis.co.jp/news/2021/tis_news/20210729_1.html

5.企業のブロックチェーン活用とDX

DX

企業がブロックチェーンに注目し、ビジネスでの活用を模索し始めてから数年が経過しようとしています。
その中で、本日ご紹介したような「トレーサビリティ」や「バックオフィス業務改善」などの企業によるブロックチェーン活用のユースケースは、 昨今話題のWeb3.0やNFTなどと比べると、地味(実質的)且つ、ブロックチェーンが世界を変えるというようなユースケースではありませんが、着実に社会の中への実装段階にきています。

また、企業のブロックチェーン活用により、企業間データ共有が加速することでDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現にも寄与していきます。
これまで紙で管理されてたものや、デジタル化されていても自社のみで管理されていた情報が、ブロックチェーンにより会社間で共有され活用され始めています。

例えばサプライチェーンで考えると、会社間でのデータ共有を実現した結果として、
・商品の購入時に、原材料から販売店までの一貫したトレーサビリティが確認できる
・在庫適正化によって商品の安定した供給を受けることができる
など、これまで1社単独では実現できなかった新しい価値を顧客に提供する取り組みもすでに始まっています。

6.さいごに

直近では、企業がNFTなどを活用してweb3に取り組むことを発表しており、今回のコラムで紹介したこれまでのブロックチェーン活用とは異なった方向での検討も始まっています。
一方で、企業がブロックチェーンやweb3を活用した事業の検討を開始した時に「どのように活用して、構築、運用していくべきなのか」お困りの方も多いのではないでしょうか。これまでITで社会基盤を支えてきた私たちTISは、多くの歴史ある企業にとってブロックチェーン活用やweb3への対応が容易ではないことをよく理解しています。
TISは、お客様が目指すビジョンの実現に向けて、いかにしてweb3の融合を果たしていくかが重要だと考え、お客様に寄り添ったビジネス企画からシステム開発、社内知識の底上げ、教育まで、ご要望に合わせたトータルプロデュースでご支援を提供していきます。

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