コラム Column

MaaSからスマートシティ化への取り組み~札幌型観光MaaSのレコメンドとデータ利活用~

2022年7月6日(水)、TISインテックグループは『TIS INTEC Group BUSINESS SUMMIT 2022 ITで、社会の願い叶えよう。』をオンラインで開催し、「持続可能なデジタル社会」の実現に向け、TISインテックグループの先進技術・ノウハウを駆使したサービスや取り組みをご紹介しました。

本コラムでは4回にわたり、4つのセッションをレポートとしてまとめていきます。
1.「スーパーアプリ最新動向~多様化するサービス連携とそのねらい~
2.「MaaSからスマートシティ化への取り組み~札幌型観光MaaSのレコメンドとデータ利活用~」
3.「Fintech時代を勝ち抜くBaaS×AI~すべての会社はFintech企業になる~」
4.「デジタル口座で実現する金融包摂への対応~急速に広がるBNPL(後払い決済)と決済のトレンド~」

今回は2.「MaaSからスマートシティ化への取り組み~札幌型観光MaaSのレコメンドとデータ利活用~」についてです。

公共交通機関、タクシー、カーシェアなどのさまざまな交通手段をシームレスに繋ぐため、TISは「MaaSプラットフォームサービス」を提供しています。
ユーザーが求めている観光スポット情報と公共交通機関を使った最適な移動方法・旅程をレコメンド、移動課題を解消する観光型MaaSとして、一般社団法人さっぽろイノベーションラボが提供する「札Navi(サツナビ)」に携わり、立ち上げ段階から事業企画、開発支援など事業全般を担当しています。
本講演では、「札Navi」を事例として、地域の社会課題解決に向けたスマートシティ化への取り組みや将来構想などをご紹介します。

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講演者プロフィール

TIS株式会社
DXビジネスユニット DX営業ユニット兼DX企画ユニット
DXペイメントコンサルティング部兼DXR&D部 フェロー 畑 秀行
詳細はコチラ
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1.取組みエリア(事例)

TISは地域社会が抱える社会課題に対して、社会課題起点・顧客起点からの提供価値創造に注力しています。本題の北海道の取り組みについてご紹介する前に、それ以外の地域で進めている取り組みについて3例ほど、簡単にご紹介します。
1つ目は沖縄全域で展開する沖縄MaaSの取り組みです。交通、観光、商業施設など60以上の多様な事業者の方々に参画いただき、沖縄県内のモノレール・バス・フェリーなどの交通手段や観光施設、商業施設などのさまざまなチケットをスマホひとつで購入できるサービスを展開しています。
2つ目はTISのMaaSプラットフォームが提供する「交通系電子チケットサービス」です。このサービスは、会津Samurai.MaaS、茨城MaaS、北いわてMaaS等に採用され、全地域の電子チケットの券種合計数は550券種となりました。地域の交通事業者等との連携によりサービスの充実と利用者の利便性向上を目指しています。
3つ目は、会津若松市での取り組みです。ここでは、住民がサービスを利用する場面で必須となる「決済」に注目し、住民一人ひとりが持つID(属性情報)と決済機能を紐づけながらさまざまな生活サービスを連携し、そこから生まれる購買行動情報を地域に還元する「ID決済プラットフォーム」を提供しています。サービスを通して生まれる購買行動情報を自治体、地域の事業者に還元することで、更なる新しいサービスを持続可能にする取り組みを推進しています。

TISは「課題解決力」だけではなく「課題発見力」を重視しており、自治体や各省庁とも連携を図りながら社内外のパートナー企業と共にデザイン力を発揮します。さらに、「UX観点の新サービス」「MaaS」「ID決済・地域通貨」という3つの観点で集積されたデータに対して「データ利活用プラットフォーム」を活用し、課題発見力を駆使したアプローチを進めています。
社会課題起点顧客起点

2.北海道での活動状況

●北海道の特徴と社会課題

北海道は人口が約530万人と多く、広大な土地のため空港が14施設も設置されており、国内外問わず観光地として人気の場所です。一方で「課題先進地域」とも言われており、他の地域に先駆けて課題が顕在化しています。
特に、「距離」の問題は過疎化に伴って大きな社会課題とされ、他府県に比べると道路距離が長く、インフラ整備に莫大なコストが必要となります。さらに、人口減少や高齢化の進行によって、「医療」「介護」「交通」など生活関連サービスの維持提供が限界の状況にあります。そこで、ハード・ソフトの両面で地域住民の「生活サービス維持」に向けたさらなる取り組みが必要とされています。

●お金もデータも地産地消

北海道の2大資源である「観光」と「食」に関するビジネス領域において、TISがノウハウ・実績を持つキャッシュレス、ID決済を含めたデータ連携プラットフォームを利用して、地域の仕組みやサービスをより良く循環させながら、お金もデータも地産地消していくエコシステムを構想しています。
TISが提供するのは、エコシステムに必要不可欠な「地域決済プラットフォーム」と「地域マーケティング」の2つのエンジンです。個人の収入や法人の売上が増えることによって自治体により多くの税金が納められる状態を作り上げ、「お金」も「データ」も地元に還元されるという地産地消の循環を目指しています。
地産地消の循環

●取り組み事例

①ボールパーク開業前PoC
2023年ボールパークが開業しますが、最寄り駅からの距離(1.5km/徒歩20分)が問題視されており、バスは大変な混雑が予想されています。そこで出来るだけ多くの方に徒歩で移動してもらうため、ファンが楽しく歩きたくなる仕掛けの実証を現球場である札幌ドームで実施しました。当日は、TISの健康活動サポートアプリ「ASTARI」※で歩数に応じたマイルを付与し、当日の参加人数や参加者の総歩数を球場内の大型ビジョンに掲示して参加意欲を醸成しました。さらに、道中に謎解きの看板を掲示することによって、デジタルとリアルを融合した新しい体験価値を提供しました。

ボールパークPoC
      
※「ASTARI」とは・・・健康志向を持つユーザーと、そのユーザーをカスタマーとして持つ小売・流通・メーカーなどの「ASTARI参画企業」を“つなげる”サービス。「ASTARI」アプリには、ユーザーのヘルスケア情報(歩数、体重、食事)を管理する機能や、歩数に応じた「ASTARIマイル」付与機能があり、ユーザーは獲得した「ASTARIマイル」に応じて「ASTARI参画企業」が発行するクーポンに交換することができる。一方の「ASTARI参画企業」は、ユーザーの許諾を得たさまざまなデータを分析することができ、趣味嗜好から想像する新たなペルソナ像の想定や、個々のユーザーに合わせたone to oneマーケティングにより、ユーザーに最適なタイミングで最適な商品・サービスをレコメンドできる。

②すすきのデジタルパス
TISでは紙のプレミアム付き商品券事業へのDX化支援を行っており、「札Navi」の仕組みの中で、すすきのエリアの飲食店で使える「すすきのデジタルパス」というプレミアム付きデジタル飲食券を発売しました。(まん延防止発令により発売中止)
紙の商品券の場合、一度印刷すると実施期間などの変更が難しいですが、デジタルでは不測の事態が起きても柔軟な変更対応が可能というメリットがあります。

3.札Naviとは

●札幌の特徴

「札Navi」のサービスエリアである札幌市は、年間約5mもの降雪がありながら190万人を超える人口を有する自然と都市が共存する世界に類を見ない都市です。札幌が好きな理由としては、街並みが分かりやすいことなどが挙げられており、定住意欲度が高く、病院数が多いという特徴があります。一方で、全国平均を下回る健康寿命、政令市比較で低位である市民所得の改善が課題になっています。2030年には札幌新幹線が開業予定であり、2030年冬季オリンピックの招致に向けて再開発が進んでいます。

●札Navi展開の背景と目的

「札Navi」は一般社団法人さっぽろイノベーションラボ「MaaS部会」が中心となって展開したWEBアプリで、TISはMaaS部会の部会長として本サービスの事務局運営を担当しました。本サービスを展開した背景は、札幌を訪れたことがある観光客に対して札幌市がアンケートを実施したアンケート結果から、公共交通機関の乗り継ぎが不便で分かりにくいという観光客が市内の移動に関して最も不満を持っている課題が一因です。
これらの課題を解決するため、ユーザーが求めている観光スポット情報と公共交通機関を使った最適な移動方法・旅程をレコメンドすることで、観光シーンにおける移動課題を解消、市内観光における円滑な移動を支援するサービスとして「札Navi」が開発されました。
さらに、最終目的地を案内するだけではなく、道中の立ち寄りスポット情報として、トイレ、おむつ交換所、公衆Wi-Fiなどの情報の追加・拡充も実施しました。

札Navi

●札Naviの現状アセット

「札Navi」は、利用者が簡単なインプット情報を入力すると、その方にあったコンテンツをレコメンドするシンプルな仕組みになっています。本サービスは観光客向けであり、アプリではダウンロードのハードルが高いため、ウェブブラウザ上でのサービス提供となりました。主なサービスは最終目的地のレコメンデーション、旅程作成、ユーザー管理機能、電子チケット・非対面決済の4つになります。

●札Naviの特徴

①観光周遊促進、リピーターの獲得
②各種チケットの提供、精算業務
③立ち寄りスポット機能の提供
④ウェルネスを軸とした情報検索:SDGs実現に貢献
⑤データ流通の促進、データ更新を前提とした継続的な取り組み

●札Navi画面イメージ

レコメンド機能

立ち寄りスポット

チケット購入

路面電車チケット利用方法

●札Naviの今後の活動

「札Navi」はこれまで観光客向けにサービス展開をしてきましたが、住民ユーザーの獲得を目指し、2022年7月から札幌市内300店舗以上で使用できるデジタル値引クーポン「ふりっぱーデジタルクーポンwith札ナビ」を提供予定です。

4. 今後の展開について

●観光MaaSから生活アプリへ(スマートシティの取り組み)

札幌型観光MaaSとしての取り組みから、生活アプリとして地元住民である生活者にとってなくてはならない存在になれるよう、価値提供を図っていきます。現時点で「交通」、「観光」の領域で活動を始めていますが、動的データベースも積極的に活用しながら新たな付加価値の創造を目指します。

●札Navi注力テーマ

この取り組みの中で最も注力しているテーマが、ウェルネスを軸としたレコメンド・行動変容です。費用や所要時間などの経済的視点だけでなく、健康や環境への貢献といったウェルネス視点での経路計画・目的地検索を「札Navi」に実装予定です。検索結果に移動手段による消費カロリー数やCo2排出量が表示されることで、行動パターンや交通ルートを変えるといった行動変容を促すことを目指します。

●札Naviにおけるデータ利活用

データ利活用の観点では、DATA-SMART CITY SAPPOROとの連携がキーになると考えています。地元企業と行政が一体となり、「サービスドリブン」でデータ利活用を展開し、「タウンマーケティング」施策を可視化することで、政策目的やゴールの明確化を図ります。

●行政版OMO(Online Merges with Offline)(*)

TISは「タウンマーケティング」の視点を持った、リアルとデジタルを融合させた「行政版OMO」の実践を提言しています。地域住民とのエンゲージメントを高め、今住んでいる方には住み続けてもらう価値提供を、ビジターの方には住むように訪れていただける体験価値を提供し、住民満足度、住民定着率の向上を目指します。住民とのエンゲージメント向上を図ることで、地域のブランド力向上と行政運営の効率化の実現が可能です。
*行政版OMO・・・オンラインとオフラインを統合していくマーケティングの手法を行政に向けて提供していくこと。

最終的には、サービス提供により蓄積されたデータを利活用することで、新たなサービスが持続的に創出され、雇用の維持・拡大に繋がるような地域経済の好循環サイクルを確立していきます。

最後に
TISの「MaaSプラットフォーム」に関して、講演で使用した詳しい資料をご用意しています。
本記事には書ききれなかった情報もありますので、
興味を持っていただけましたら、是非下のボタンからお問い合わせください。

※講演資料
DL資料

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