ECサイトの拡大やコロナ禍による非接触に対するニーズなどもあり、ここ数年の間で国内のキャッシュレス化は大きく加速した。そうした中、消費者に選ばれるよう、決済機能を自社のサービスに組み込みサービスの利便性を高めようとする企業の動きが加速している。しかし、金融とはまったく関係のない非金融事業者にとって、金融サービスを自社に組み込むのはハードルが高い。この問題を乗り越え、競争力を高める方法はあるのか。
消費者に利用体験を向上させる重要なポイント
ここ数年、あらゆる事業者から“○○ペイ”といった決済サービスが登場し、小売店や飲食店、ECサイトなどで決済サービスへの対応が進むなど、国内のキャッシュレス化は大きく加速した。あらゆるシーンで現金なしの決済が可能となっただけでなく、商品選択から購入までWeb上で完結するサービスなども広がる中で、決済など利便性は、顧客体験(CX)を向上させる重要なポイントになる。
こうした社会の流れも影響し、金融機能を自社の既存サービスに組み込もうとする「エンベデッドファイナンス(組込型金融)」の動きが活発になってきている。たとえば、自社の専用スマホアプリに決済機能を組み込んだり、自社独自のプリペイドカードやクレジットカードを発行し、顧客体験向上を図ろうとしたりする動きなどがそうだ。
このように、自社のビジネスの新たな武器として金融機能を組み込もうとする企業が増えているものの、いざ取り組んでみると、そのハードルの高さからつまずく企業も少なくない。特にこれまで金融との関係が薄かった非金融事業者にとっては何から手を付けたら良いのかも分からないという課題もある。
たとえば、「決済機能を組み込むために社内のシステムはどう改修すれば良いのか」「決済機能を組み込むにはどのような方法があるのか」「どれくらいのコストがかかるのか、そもそもビジネスとして収支は合うのか」など、懸念材料も多い。
ここからは、こうした課題を乗り越え、非金融事業者が金融機能を組み込む“ある方法”を事例とともに解説する。
業界も注目する、甲南チケットの新サービスやfreeeの法人カード
非金融事業者が金融機能を組み込む方法はさまざまある。その中でも自社加盟店を持たないケースや、自社加盟店以外の幅広い店舗で決済が利用できる利便性をユーザーに提供したい場合、Visa、MasterCard、JCBなどの国際ブランドネットワークを活用するのが効果的な手段である。そういった背景から、現在注目されているのは国際ブランドプリペイドの発行だ。金券ショップ事業を展開する甲南チケットも国際ブランドプリペイド発行する1社だ。
現在、チケットや商品券は電子化が加速している。主力商品である新幹線の回数券も廃止になり、金券ショップで扱う商材は年々減っているのが実態だ。また、同社のビジネスは、その場かぎりの”ワンショットビジネス”であり、顧客との関係性も薄い。
こうした現状を打破する新たな打ち手として同社が開発を目指したのが、ブランドプリペイドカードとスマホアプリを活用した新たなサービスだった。これにより、買い取った金額をカードにチャージすると同時に、顧客との双方向の関係構築を目指したのである。
こうして同社は、2022年11月、新サービス「SELL&PAY(セルペイ)」をリリース。同社はもちろん、変革が求められている金券業界全体にとっても、その動向が注目されるサービスとなっている。
「現金依存」から脱却、甲南チケットが挑んだ金券ショップDX
国際ブランドネットワークを活用し、自社のノウハウを組み合わせて新しいクレジットカードを作り出した企業もある。その1社がクラウド会計ソフトで知られるfreeeだ。
同社は「freeeカード Unlimited」という法人向けカードを提供しているが、これは一般的なクレジットカードよりも高い限度額(約10倍)を実現した中小企業やスタートアップをターゲットとしたビジネスカードだ。
freeeには、会計ソフトを通じて企業の会計情報が集まる。その情報を使えば、同社が独自の与信判断をすることで、より高い融資限度額を実現できる。
クラウド会計と連携した一般的な法人カードの約10倍の限度額のビジネスカードで、スモールビジネスを強力に支援!
このように国際ブランドネットワークを活用し、自社のサービスへ金融機能を組み込んだ2社だが、カード発行や決済システムの開発ノウハウは十分ではなかったという。どのようにして、サービスを実現したのだろうか。
自社のアプリやサイトでVisa、MasterCard、JCBのプリペイドカード発行を実現
金融機関やフィンテック系のベンチャー、さらにはこれまで金融とはあまり関係のなかった企業に対して、さまざまな決済の機能をサービスとして提供しているのが、TISの「PAYCIERGE(ペイシェルジュ)」だ。TIS DXビジネスユニット ペイメントサービスユニット ペイメントサービス第1部長の尾之内紀久夫氏は、次のように説明する。
「クレジットカードやデビッドカードの発行、QRコード決済、スマートフォンのタッチ決済など、さまざまな決済サービスを、その裏側のシステムも含めてご提供するのがPAYCIERGEです」(尾之内氏)
なお、TISは国内デビットカードの約80%、クレジットカードは約50%のシェアを誇る決済市場に強いITベンダーとして知られる(注1)。その同社が、これまで培ってきたさまざまな決済のノウハウや仕組み、システムをパッケージ化し、金融に詳しくない企業にも使いやすい形で提供するのがPAYCIERGEだ。
注1:国内のデビットカードの取扱金融機関ベースで約80%を占める。また、クレジット取扱高主要25社のうち、基幹システムの開発実績が約50%を占める。
そして、PAYCIERGEの中でも、今回、特に注目したいのが甲南チケット・freeeの国際ブランドのカード発行を可能にした「API型ブランドブリペイドプロセッシングサービス」である。DXビジネスユニット DX営業ユニット ペイメントサービス営業部 シニアアソシエイトの井手優太朗氏は、次のように説明する。
「これは、Visa、MasterCard、JCBのプリペイドカード(注2)を発行するために必要なシステムを、一括提供するサービスです。従来、こうした国際ブランドのプリペイドカードを発行するには、カード会社とのやりとり、システム構築も含めて非常にハードルが高かったのですが、本サービスにより、APIを使うだけでプリペイドカード発行に必要なシステムを構築することが可能になります」(井手氏)
注2:現金をチャージし、チャージした範囲内で利用できるカードのこと。Visa、MasterCard、JCBのシステムで決済可能で、クレジットカードほど発行に必要な審査が厳しくないので、手軽に利用できる決済手段として導入する企業が増えている。
なお、「API型」とうたっているのは、カード発行に必要な機能をAPIとして提供しているからだ。これにより、利用企業は自社のECサイトやスマホアプリのUI/UXに融合した形で、決済機能を組み込むことができる。
複数口座やデジタル給与払いへの対応など多彩なオプション機能も用意
そもそも、「API型ブランドブリペイドプロセッシングサービス」を利用せず、自前でカードを発行しようとすると、どれほど大変なのだろうか。
「まず、国際ブランドの仕様を理解したうえで要件を定義し、システムを構築する必要があります。しかも、仕様は毎年、変更され、内容によってはシステムに手を入れる必要があります。このため、常にアンテナを張って対応しなければならず、専門知識を持った専門の部署が必要になるでしょう」(尾之内氏)
しかし、「API型ブランドブリペイドプロセッシングサービス」を活用すれば、こうした作業、手間、コストはすべてTIS側が吸収してくれる。
また、自前で発行するためには、カード発行に必要な印刷会社とのやりとりも必要になる。しかし、「API型ブランドブリペイドプロセッシングサービス」を使えば、印刷会社のシステムとつなぐAPIが提供されるため、最小限の負荷でカード印刷が可能になる。
さらに、「API型ブランドブリペイドプロセッシングサービス」には、豊富なオプション機能が用意されている。
「たとえば、1つのカードにつき複数の口座を作ることができます。これにより、目的別口座の使い分けができます。また、最近話題となっているデジタル給与払い用の口座も作れます。これにより、プリペイドカードに直接給与をチャージすることができます」(井手氏)
さらにTISでは、コールセンター業務のBPOにも対応している。プリペイドカードに関する各種問い合わせをTISに任せられるので、企業はサポート業務にリソースを割く必要がなくなる。
冒頭に述べたキャッシュレス化の動きは、今後も続く。それにともなって、自社の製品やサービスに決済をはじめとする金融機能を取り込み、新たな価値を生み出そうとする企業は着実に増えるだろう。
TISが提供するPAYCIERGE、そして「API型ブランドブリペイドプロセッシングサービス」は、こうしたチャレンジングな企業を後押しする強力な援軍となるだろう。「挑戦したいが、決済のことはよく分からない」という企業は、ぜひTISにご相談いただきたい。
※本コラムは2023年9月11日にFinTech Journalで掲載された内容を転載しています。
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