FinTech(フィンテック)とは金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせてできた造語です。米国ではFinTechという言葉自体、2000年代前から使われており、日本でも昨今多く目にするようになりました。最近ではFinTech企業の躍進や規制緩和(銀行法、資金決算法、割賦販売法など)により、金融事業者だけではなく、非金融事業者に対しても金融製品を取り込んだ幅広いビジネスチャンスを手にすることが可能になってきています。その中で注目されているのが「Embedded Finance(エンベデベッド金融)」と呼ばれる取り組みです。
Embeddedとは、日本語で「埋め込まれた」を意味します。具体的にどのような概念で、どんなメリットが存在し、どれほどのインパクトを社会にもたらすものなのでしょうか。本記事では、具体的な事例と併せて解説していきます。
1.Embedded Finance(エンベデッド金融)とは
2.Embedded Financeが注目される理由とその利点
2-1.Embedded Finance注目の理由:APIエコノミー
2-2.Embedded Financeの利点
3.Embedded Financeの導入事例(ブランド)
3-1.Uber
3-2.Spotify
3-3.Grab
3-4メルカリ
4.Embedded Financeに関する今後の動向
5.まとめ
1.Embedded Finance(エンベデッド金融)とは
Embedded Financeとは、日本語で「埋込型金融、プラグイン金融」と訳され、主に非金融事業者が自社サービスに金融機能を組み込んで提供することを示します。
分かりやすい「決済」を例にとって説明すると、決済自体サービスの主役になることはありません。しかし、ほとんどのサービスに決済はつきものです。例えば何かのECサービスを運営する場合、単純に商品一覧を掲載するだけでは取引をシームレスに行えるとはいえません。最後にユーザーが欲しい商品を購入し、決済(支払い手続き)を完了することで初めてECサービスとしてユーザーフレンドリーに機能しているといえるのです。
更に決済にはクレジット決済以外にもさまざまな方法があり、決済機能を自社で開発しようとすると、膨大な時間とコスト、技術などに詳しい有識者などが必要になり、簡単に進めることはできません。しかし、昨今のテクノロジーの進化によって、簡単にサービスへと組み込むことができるようになりました。
このように、従来金融領域でサービス展開していないプレイヤー(非金融事業者)が、ユーザーへの提供サービスの一環として金融機能を組み込んで提供することを、Embedded Financeと言います。これにより今までの事業領域よりも幅広い分野で商品やサービスの提供が可能になります。
2.Embedded Financeが注目される理由とその利点
次に、Embedded Financeが注目されている理由とその利点について、それぞれお伝えします。
2-1.Embedded Finance注目の理由:APIエコノミー
Embedded Financeを実現する上で欠かせない技術が「API」です。APIとは「Application Programming Interface」の略で、ソフトウェア同士をつなげる技術のことを示します。
世の中にはさまざまなITサービスがありますが、多くのサービスは「外部サービスを効率的に活用」し、構築しています。たとえば地図表示を考えてみると、地図データをゼロから作り上げようとした場合、まさに膨大なコストと時間が必要となります。一方で、たとえばGoogleが提供するGoogleマップはAPIを公開しているので、Googleマップの情報をそのまま自社サービスへと連携して活用できます。
レストラン予約アプリなどで店舗のアクセス情報を表示すると、そのままGoogleマップと連携した地図が表示された、という経験をされた方も多いのではないでしょうか。これはまさに、API連携による機能だと言えます。
このようなAPI連携は、1社だけがAPI公開をしているだけではなかなか有機的に機能しませんが、100社…1000社と増えていくことで、より機能開発の選択肢が広がることになります。後述するUberなどは、まさにAPI連携を前提としたAPIエコノミーによって実現したサービスだと言えるでしょう。
このようなAPIエコノミーの拡大が金融領域にも波及していき、結果としてEmbedded Financeを後押ししている状況だと言えます。
2-2.Embedded Financeの利点
Embedded Financeの利点を考える上で、まずは以下3つのプレイヤーについて理解する必要があります。
●ライセンスホルダー(License Holder):金融機能の提供ライセンスをもつ存在
●ブランド(Brand):顧客接点をもつ存在
●イネーブラー(Enabler):ライセンスホルダーとブランドの間に入ってシステム的な連結をする存在
ライセンスホルダーとは、いわゆる従来型の金融機関を示します。金融庁より免許・許可・登録等を受けている業者として、金融機能の提供を行っています。一方でブランドとは、非金融サービス提供者として多くの顧客との接点をもつ存在です。そしてイネーブラーは、その両者をつなぐ存在となります。
ライセンスホルダーにとっては、Embedded Financeが実現することによって、自社金融サービスをAPI経由で提供できる顧客窓口が増える可能性が高まります。
一方でブランドにとっては、金融機能をサービスに組み込むことで顧客満足度が高まり、自社サービスへのリテンション率も向上することが期待されます。
もちろん、そのような連携が多ければ多いほど、イネーブラーとしても嬉しいわけです。
このように、プレイヤーそれぞれのメリットが大きく、かつAPIエコノミーのようなエコシステムが拡張しているからこそ、Embedded Financeは大きく注目されていると言えます。
3.Embedded Financeの導入事例(ブランド)
ここからは、具体的にEmbedded Financeを導入したブランドの事例について見ていきましょう。ここでも主に決済中心とした事例を紹介します。
3-1.Uber
配車アプリとしてグローバルにサービス展開する「Uber」では、事前にクレジットカードなどの設定を済ませておくことで、タクシー乗車利用時の支払手続きを不要にします。
これを可能にしているのが、同アプリへの決済機能の組み込みです。Uberでは、Paypalやその子会社であるBraintree、Apple Payに代表される「グローバルな決済ゲートウェイ」群をイネーブラーとしてそれぞれAPI連携させることで、迅速に決済機能を実装しました。
3-2.Shopify
オンラインストアプラットフォームの「Shopify」では、「Shopify Balance」と呼ばれる、Shopify上の銀行口座を開設する機能を提供しています。一般的にオンラインストアを運営する場合は、既に開設している銀行口座等を登録して連携する必要があるのですが、このShopify Balanceの実装によって、ユーザーとなるショップ運営者はわざわざそのために銀行口座を開設することなく、入金や支払といったショップとしての資金管理を行うことができるようになりました。
金融機能の連携は、ユーザー企業の工数削減はもちろん、エンドユーザーである消費者にもメリットがあります。通常ECサイト等で決済を行う場合、外部の決済サービスサイトに移行しアカウント情報を入力する必要があります。こうした手間は、消費者が商品をカートに入れても購買せずに離脱する「カゴ落ち」を招きます。一方Shopifyを活用したオンラインストアでは、サイト内で決済が完了するため、消費者の購買機会を逃しません。
これを可能にしているのが、既存の銀行とShopifyによるAPI連携です。間にStripeと呼ばれるオンライン決済SaaSのイネーブラーを介することで、Shopifyが口座という金融機能を提供できるようになったわけです。Shopifyは顧客基盤が堅固となるだけでなく、金融関連収益も得ています。
3-3.Grab
東南アジア8か国でサービス展開している配車アプリ「Grab」。2019年時点でアプリダウンロード数が1億5200万を越えており多くのユーザーが利用しています。
その急成長を支えるのが、同社が提供する、「GrabPay」と呼ばれるモバイル決済アプリです。GrabPayでは、主にECで使えるオンライン決済と、POS × QRコードで行うオフライン決済が組み合わされており、2018年7月に同社から発表された「GrabPlatform」上で、さまざまな事業と連携しています。
現在は配車に限らず、通勤や昼食、食材の配達から日々の買い物まで、主に東南アジアにおける日々の決済に欠かせないスーパーアプリとして機能しています。
3-4.メルカリ
日本でフリマアプリとして「メルカリ」はとても有名です。
同社が面白い点は、アプリ内でモノを売って稼いだお金を、そのままアプリ内でモノの購入に充当できるということです。つまり、不要なモノを売り、必要なものを買うという一連の流れを決済含め、この1つのアプリ内で完結できるということです。また、「決済」に加えて「与信」のサービスにも力を入れています。後払いが可能な「メルペイスマート払い」は翌月にまとめて清算する「一括払い」と月々に分けて支払う「定額払い」を展開し、幅広いユーザーに使いやすいプラットフォームを提供しているというのも成功している1つの要因かもしれません。
このように他にもさまざまな事例が世の中の多く存在していますが、金融事業をどこまで自社で対応し、どこからライセンスホルダーの力を借りるかという点もそれぞれの戦略に合わせて考えていく必要があります。
4.Embedded Financeに関する今後の動向
このように、Embedded Financeを取り込むことでさまざまな企業が幅広くサービスを展開することができるようになります。新しいサービスからデータを取得することができればそのデータを分析し、サービス改善や他サービスに発展させることもできます。
非金融事業者が金融の事業領域に参入することで、今までの常識が常識ではなくなることもあるかもしれません。
例えばスウェーデンのKlarnaやオーストラリアのAfterPayといったサービスでは、ユーザーが融資を申請して、リアルタイムに審査が実施され、審査に通ればすぐに融資を受けることができる仕組みも提供開始されています。これまで銀行の窓口に行って融資手続きを行わなければならなかったことを考えると、圧倒的なUX改善を実現していると言えるでしょう。もちろん、日本で展開をする場合は割賦販売法や犯罪収益移転防止法などの各種規制に考慮した展開をする必要があるわけですが、実現した暁には非常に有用な仕組みになることが想像されます。
このように、Embedded Financeがもたらすインパクトは、サービス提供者のみならずサービスの受け手である私たちにとっても、大きなものになることが分かります。ユーザーの想像力が拡張されれば、それだけ新しいイノベーションが生まれるきっかけにもなるので、Embedded Financeには大きな可能性が広がっていると言えるでしょう。
5.まとめ
Embedded Financeは金融業界のみならず、さまざまな業界を巻き込んだ大きなインパクトを与えることができます。自社サービスの中に金融機能を取り入れることでユーザーにとって便利で楽しいサービスを提供できる可能性が広がります。Embedded Financeに興味のある方は、是非TISまで気軽にご相談ください。
※この記事が参考になった!面白かった! と思った方は是非「シェア」ボタンを押してください。