コラム Column

デジタル×地域課題への取組み「北海道DX」について

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こんにちは、畑です。

今回は前回のコラム(「デジタル×地方創生」の取組みについて)に続き、地域におけるさまざまな課題に対してどのように向き合い、私たちTISがどのような価値提供を実践しようとしているか、具体的なPoC事例などを交えてご紹介します。
皆さまもご承知のとおり、地域ごとに抱える課題や優先順位は異なります。統一的な地域行政向けのプラットフォーム提供のような話が出てきては、結果として地域ごとの課題を吸収する難しさの壁にぶつかるなど、個々の地域課題を解決していくハードルを感じていると思います。
政府は「デジタル田園都市国家構想」として、「地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていくことで、世界とつながるデジタル田園都市国家構想の実現(*1)を掲げ、地方・地域からの取組みにも注力しています。TISが取り組む福島県会津若松市のスマートシティ推進の取り組み状況については岸田首相自ら視察されるなど、メディアに取り上げられる機会が多くなりました。

今回のコラムでは、特に北海道札幌での行政や地域住民向けDXとしての取り組みについてご紹介します。

また、本記事の後半では共に札幌を拠点にして活動しているメンバーである牟田から“札幌での取り組み「札Naviとは」”の章を説明してもらいます。
読者の皆さまの地域におけるDXの取り組み検討の一助になれば幸いです。

(*1)引用元 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digital_denen/index.htmlp>

1.地域住民の移動手段における課題とは

今回のコラムで対象地域としている北海道および札幌について、少し基礎的情報からご紹介したいと思います。

<北海道の特徴について>
・人口は約530万人、都道府県順位8位
・空港は道内14施設
・面積は本州に次ぐ第2位
・全国住みたい街ランキング調査では、毎年上位に札幌・函館などランクイン
・政令指定都市人口別で札幌は4位(横浜、大阪、名古屋、札幌、福岡)
・観光入込客数は5千万人、全国1位(外国人2百万)
・温泉地2百以上、全国1位
・Made in Japanより、Hokkaidoブランドの方が東南アジアには知名度が高く、人気の場所

※すべて2022年3月 TIS調べ

北海道はなんと言っても他府県と比較して面積が広く、14の空港があります。
一方で他府県と同じ状況にあるのは、人口が都市部(北海道の場合は札幌)に集中しており、都市部以外の移動手段は自家用車かバスが主体で、電車(地下鉄)での通勤・通学利用はほとんどありません。
国土交通省もこの点を課題としています。「ラストワンマイル(*2)」だけではなく「ファーストワンマイル(*3)」を重視し、地域交通を枝葉に例え、地域経済を維持する上で地域の移動手段を見直すことは、最も重要な取組みであると再定義しています。【図1】参照

(*2)最終目的地の最寄り駅などから最終目的地までの距離の移動のこと。
(*3)自宅などから最終目的地までの移動において、交通機関の乗り換えなど最初のタッチポイントまでの移動のこと。

【図1】地域のコミュティで支える「葉の交通」 国交省発表資料をもとにTISにてイメージ化
図1-葉の交通

また、我々が活動拠点としている札幌においては、これだけ雪降る場所に人口200万人が暮らしていることは世界的にみても珍しいことです。東京では数センチの降雪で都市交通機能がマヒする状態になることは皆さんご周知の通りです。一方札幌では過去の経験から得たシステム・運用面含めて豪雪の中でも移動できる素晴らしい都市交通網が整っています。
しかしながら、札幌においては路線バス網が市内の隅々まで走っていますが、実際のところ住んでいる住民でもどの路線がどこまで行けるか分からないほど複雑なものになっています。地域住民が分かっていないのですから、観光客のようなビジター・ビギナーにとって路線バスの活用難易度は高くなります。

2.地域の課題に対する取組み事例紹介

ここでは北海道内におけるTISの具体的な取組み事例を2つご紹介します。
一つ目は、地価上昇率が国内トップレベルの北広島市に建設中である「ボールパーク」に関する課題解決。
二つ目は、北海道の二大資源でもある「観光」と「食」における観光需要回復支援策としてのプレミアム付きデジタル商品券「デジタルパス」事業となります。

<ボールパーク開業前PoC>
北広島市は札幌市に隣接する人口約6万人(2022年3月時点TIS調べ)が住む街です。日本ハムファイターズが構築準備中の「ボールパーク」を2023年にオープン予定ですが、構想段階の想定では、開業まもなくは最寄り駅であるJR北広島駅から約1.5キロを徒歩で約20分歩くか、バスなどで移動する必要がありました。ここで課題としてあげられたのが「開業時の駅とボールパーク間の移動」です。来場ピーク時に合わせて必要バス台数を配置すると、ピークアウトしたあとの運用維持コストの問題や、一斉に来場する際に体が不自由な方など本当にバスに乗りたい人たちが乗れない可能性があります。
そこで「徒歩で移動することが、ユーザーにとって価値となる仕組み」が提供できるサービスをUI/UXを通してデザインする必要がありました。開業前に実証するため、TISの健康活動サポートアプリ「ASTARI」(https://www.tis.jp/service_solution/astari/)を活用し、【図2】にありますPoCを実施しました。徒歩で移動することによるユーザーにとっての価値ある仕組みとは何か、ファンの気持ちを金銭に頼らず内面から刺激できるインセンティブ設計とは何か。これらを検証するため、札幌ドームの最寄り駅から徒歩で球場まで向かう途中に謎解きのクイズヒントを探しながら楽しく歩いてもらう仕掛けや、到着した球場では試合途中に大型ビジョンへ当日の徒歩来場歩数を掲示するなどの演出も行いました。

【図2】ボールパーク開業前PoC(札幌ドームにて実施)
図2-ポールパーク

<デジタルパス>

プレミアム付きデジタル飲食券を一般社団法人さっぽろイノベーションラボ(https://sapporo-innovation-lab.jp/)が提供する「札Navi」上で購入できるよう私たちが【図3】にあるサービスを構築しました。これは、「コロナ対策」や「消費喚起対策」におけるプレミアム付き商品券事業等へのDX化支援として、現在多くの商品券事業が「紙」主体で実施されているものをデジタル化することで3密を回避することができます。また、地元住民の方でも安心してご利用いただき、お得にお買い物や飲食・テイクアウトサービスなどを参画店舗より受けることもできるようになります。

TISが支援できること
①デジタルチケット決済で衛生的
紙のチケット発券・購入を必要とせず、金銭・チケットの受取時の物理的な接触機会をなくすことが可能。
②導入コスト低減と事業展開スピードアップ
お客様のスマホ画面にQRチケットを表示、利用時の消込も完結するため、店舗側の専用決済インフラが不要で、紙のチケットを印刷・配布なく事業展開がスピードアップ。
③予定変更なども即時対応
デジタル編集が基本のため、プレミアム付き商品券事業の提供期間変更や飲食店休業などの変動要素に即座に修正・変更が可能

【図3】プレミアム付き商品券事業へのDX化支援イメージ
図3-DX

3.札幌での取組み「札Navi」とは

札Naviロゴ

本実証サービス「札Navi 」ロゴ

皆さん、はじめましてTISの牟田です。札Navi(サツナビ)の取組みについては、私からご紹介します。

 

TISが地域課題の解決を目指して開発支援を行った、ユーザーの趣味趣向に応じた札幌の観光施設や飲食店をレコメンド・旅程提案するWebアプリ「札Navi(https://sapporo4mobility.com/)」についてです。

札幌を訪れたことのある観光客に対して札幌市が実施したアンケートから、観光客は市内の移動に関して最も不満を持っていることがわかりました。特に、観光スポット間の距離が離れている、公共交通機関の乗継が不便でわかりにくい、といった課題が挙げられました。
こうした背景の中、ユーザーが求めている観光スポット情報と公共交通機関を使った最適な移動方法・旅程を提案することで、観光シーンにおける移動課題を解消、市内観光における円滑な移動を支援するサービスとして「札Navi」を企画・開発し、2021年2月に実証実験を実施しました。

実証実験の実施結果をご報告するプレスリリース


ユーザーの趣味趣向に合わせた観光地を提示できる観光型MaaS「札Navi」を札幌で実証事業
を行い、2022年には、観光客だけでなく地域住民にも利便性の高いサービスを提供するため、「札幌市データ活用プラットフォーム」のオープンデータを一部活用し、「札Navi」に飲食店やトイレ・おむつ交換所などの立ち寄りスポット情報を追加・拡充しました。また新たに電子チケット機能と決済機能を追加し、自身のスマートフォン上で交通系チケットや飲食チケットの販売・利用が可能となりました。(2022年2月に期間限定で事業実施)。

【図4】札Naviサービス全体イメージ

図4-札navi

■札Naviの主な機能としては下記の通りです。
 ・観光施設、飲食店のレコメンド(推薦)
  ユーザーの趣味趣向、来札経験に合わせて札幌のおすすめスポットをAIがレコメンドします。
 ・自動旅程作成機能、旅程編集機能
  訪れたい観光スポットと旅行の開始/終了時刻を設定すると、最適な旅程を自動で生成します。
 ・立ち寄りスポット情報の検索
  トイレやおむつ交換所、公衆wi-fiなど、外出時に必要な情報を検索できます。観光客だけでなく地元住民にも役立つ情報を提供します。
 ・電子チケット、決済機能
  札Naviを使って乗車券や飲食券などのチケットをオンラインで購入・利用が可能となります(クレジットカードによる事前決済)。本実証期間では、札幌市電の1日乗車券や、すすきのエリアの飲食店で使えるプレミアム付きデジタル飲食券「すすきのデジタルパス」を販売しました。

※「すすきのデジタルパス」は新型コロナウイルス感染拡大に伴い、自治体の要請を受け、販売中止となりました。

本事業で構築した「札Navi」は、観光周遊を促すツールとしてだけでなく、札幌市の観光に関連したさまざまなデータの収集・活用機能として地域に貢献しています。「札Navi」は「札幌市データ活用プラットフォーム」のオープンデータを一部活用しており、札Navi事業で新たに収集した観光情報や立ち寄りスポット情報などは「札幌市データ活用プラットフォーム」にオープンデータとして提供します。オープンデータの蓄積、利活用促進のため、観光情報や立ち寄りスポット情報整理のデファクト化、施設IDや住所表記などの統一を目指します。

【図5】札幌市データ活用プラットフォームとのデータ連携について

図5-プラットフォーム連携図

また、今回新しい価値提供の一環として、経済的基準ではない新しい「移動計画の提案」を可能とする特許を申請中です。ユーザーのウェルネス向上意欲に応じた移動提案を実現出来るなどの内容となっておりますが、詳しくはまた別のコラムなどでご紹介したいと思います。

4.今後の展開について

再び、畑から今後の展開について、ご紹介します。

札Naviの「ナビゲーション」は観光客向けだけでなく、地元住民である生活者に対しても有益な情報がお届け出来るよう「生活アプリ」として「なくてはならない存在」となれるよう、引き続きTISとしての「価値提供」を図っていきます。その中で、我々が注目しているトピックは、「地域のブランド力向上」と「行政運用の効率化(コスト削減)」の2点です。
いずれも行政からの情報発信だけでは魅力含めて訴求しきれない部分を複数の民間企業と連携して推進していきます。理想は地元企業が主体となることですが、私たちが最新テクノロジー面を含め後方支援させていただきながら、「サービスドリブン」で利用者、地域住民の方々から評価・支持されるサービス提供を目指しています。
結果、これらサービス提供により蓄積されたデータを利活用することで、新たなサービスが持続的に創出されるような地域経済の好循環サイクルを確立することが重要と考えています。

前回のコラム(「デジタル×地方創生」の取組みについて)でもお話しましたが、各地域における人口減少をどのように抑制し、減少を前提とした運用コストや運用手段を確立していくことが出来るかが今後の鍵となります。行政がより「タウンマーケティング」の視点を持ち、リアルとデジタルを融合させた「行政版OMO(*4)」の取組みを実行し、今以上の住民や観光客とのコミュニケーションツールを確立させることが重要です。地域住民向けにはマイナンバーカード連携などによる居住歴に応じたコミュニケーションやインセンティブプログラムなどを提供し、住民とのエンゲージメント向上を図ることで、ブランド力向上とコスト削減を実現させることが可能と考えています。

最終的には「お金もデータも地産地消」出来るようなエコシステムの提供となるよう、引き続き行政/住民のDX化推進を地元企業と連携しながら進めていきます。今後の活動や進捗などもあらためてご報告させていただきますので、次回以降のコラムにもご期待ください。

(*4)Online Merges with Offlineオンラインとオフラインの統合して行くマーケティングの手法を行政に向けて提供して行くこと。

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