コラム Column

AI×観光の可能性について

こんにちは、畑です。

日本は、「世界で最も魅力的な国に選出」され、観光地として世界から注目を集めています。
日本政府観光局(JNTO)の発表※によると、日本は大手旅行雑誌の米国版・英国版のランキングでいずれも第1位を獲得しました
また、米国版のランキングでは、人口50万人以上の大都市部門「世界で最も魅力的な大都市」として、東京が第1位に選ばれています。

※JNTO発表資料:https://www.jnto.go.jp/news/press/20241002.html

日本は「四季がある自然環境」や、「豊かな食文化と多様な観光資源」に恵まれています。観光業の発展には「観光インフラの整備」や「テクノロジーの活用」が大きく寄与すると考えております。これらを背景に、今後も観光業の市場マーケットがより拡大していくとして、大きな期待を感じています。

今回のコラムでは、観光分野における可能性についてご紹介します。

1 日本の観光におけるポテンシャル

前述したJNTO発表で魅力的な観光地第1位となった日本全体のポテンシャルや、アジアからも人気が高い北海道のポテンシャルをここでは少し掘り下げてみていきます。

1-1 日本全体の観光ポテンシャル

新型コロナウイルス感染症流行前の2019年時点では、約3,200万人のインバウンド年間来日客数がありました。日本政府は2030年までに日本の人口の約半分に当たる6,000万人を目標に掲げ、年間観光消費総額15兆円の実現を目指しています。この規模は、自動車産業の年間輸出総額(約13兆円/2022年)を上回る水準です。
また、2023年の訪日観光消費単価は約21万円でしたが、2030年には1人あたり25万円に引き上げることも目指しています。こうした数値目標や政策動向からも、日本の観光業には今後さらなる成長の余地が大きいことがうかがえます。
観光ビジネスは裾野が広い産業であり、どこまでを「観光業」とみなすかの線引きは容易ではありません。
観光客の消費は、宿泊や交通だけでなく、地域の商店や飲食店など、日常の経済活動にも波及します。そのため、観光産業は地域経済の活性化やまちづくりと一体で進めるべき分野といえます。

次に、日本全体の観光ポテンシャルを5つの観点から整理してみていきます。

1,多様な観光資源
日本は自然景観、歴史的遺産、文化的体験など、多様な観光資源を有しており、訪れる観光客に多様な選択肢を提供しています。
2,食文化の魅力
日本食は世界的に人気が高く、寿司やラーメン、和菓子などを目当てに訪日する観光客も多く見られます。
3,四季の変化
春の桜、夏の祭り、秋の紅葉、冬の雪景色など、四季折々の自然と文化が観光の魅力を一層高めています。
4,安全で清潔な環境
日本は治安が良く、公共交通機関も整備されているため、観光客が安心して旅行できる環境が整っています。
5,アニメやマンガ
アニメやマンガ、ゲームなどの日本のポップカルチャーは、特に若い世代の観光客を惹きつけています。作品の舞台を訪れる「聖地巡礼」など、コンテンツツーリズムとしての人気も高まっています。

こうした日本の観光ポテンシャルを的確に把握し、海外へ訴求強化と合わせて、受け入れ側となる観光地でのインフラ整備や環境維持を継続的に進めていくことが重要です。

1-2 北海道の観光ポテンシャル

北海道では、2030年のインバウンド年間来日客数が500万人に達すると予測されています。
この数値は、2019年度比でおよそ2倍の水準です。
また、年間観光消費総額は3兆円を目標としており全国全体の約20%を占める見込みです。

つづいて、北海道の観光ポテンシャルを4つの特徴からみていきます。

1,自然の美しさ
世界自然遺産・知床をはじめ、雄大な自然環境が広がり、四季折々の風景が楽しめます。
流氷、美瑛の丘、青い池、富良野のラベンダー畑など、象徴的な景観が国内外の観光客を魅了しています。
2,多様なアクティビティ
サイクリング、カヌー、スキーなど、アウトドアアクティビティが豊富です。「アドベンチャーツーリズム」の適地として知られ、特に冬季はスキーリゾートを中心に多くの観光客が訪れています。
3,豊かな食文化
新鮮な海産物や農産物が豊富で、海鮮料理や乳製品など北海道ならではの味覚が人気です。函館朝市や小樽の寿司店など、地元食材を活かした飲食店が多く、食を通じた地域体験が楽しめます。
4,文化体験
アイヌ文化や縄文遺跡群など、独自の文化体験ができるスポットが点在しています。観光客はこうした体験を通じて、地域の歴史や文化の魅力をより深く感じ取ることができます。

北海道では、体験型観光アドベンチャーツーリズムの推進やリピーターの獲得強化を強め、年間観光消費額の達成を目指しています。

2 TISが取り組んできた沖縄/北海道における事例

私たちのチームは、観光DXを中心に、沖縄と北海道を活動のフィールドとして様々な観光の社会課題解決に取り組んでいます。ここでは代表的な4つの事例を紹介していきます。

2-1 事例①:MaaS

沖縄唯一の鉄道であるモノレールを中心に、バスなどの移動手段と、観光・商業施設とを連携させた企画券をデジタル化した「沖縄MaaS」を展開しています。この取り組みは、多くの事業者と連携しながら展開をしてきたもので、チケット購入から移動、観光までをよりシームレスに実現しています。沖縄における交通課題の解決にも貢献しています。最近では、「手ぶら観光」の実証にも取り組みました。これは、地域の通勤通学としても利用されているモノレールに、観光客の荷物がいっぱいで途中の駅で乗降ができないといった課題に対し、荷物は那覇空港で預けたものを宅配便でホテルまでお届けし、人はモノレールに乗車してそのまま観光地へ移動する仕組みを実現させたものです。

【沖縄MaaSウェブサイト】
https://okinawacdn.tis-maas.com/lp/index.html
沖縄MaaSでもっと快適な沖縄旅を

2-2 事例②:観光アプリ

観光都市札幌では、路線バスのネットワークが充実している一方で、初めて札幌を訪れる観光客にとっては路線バスを乗り継ぎ、観光施設へ行くことの難易度が高いという課題があります。この課題を解消するため、地元バス路線情報を連携した経路検索と、観光施設紹介をナビゲーションできる観光アプリ「札Navi(さつなび)」の提供を行いました。
札Naviは、地元IT企業が集まる一般社団法人さっぽろイノベーションラボの加盟企業と共に開発提供した仕組みとして、自治体のオープンデータの活用から地元ならではの情報発信に努めました。

【札Naviウェブサイト】
https://sapporo4mobility.com/business/
 あなたの街の周遊アップに。札Navi

2-3 事例③:生成AI音声ガイド/沖縄

また、全国的な人手不足という状況のなか、特に観光業は賃金水準や労働環境を背景とした慢性的な人手不足が発生しており、そのことが提供するサービスの質や量の制約につながり、結果として収益性を高めることができないという負のスパイラルに陥っている状態です。
それらの課題を解決すべく、生産性向上と付加価値提供を目指した「生成AIを活用した多言語音声ガイド」の実証実験を沖縄で取り組みました。

【生成AIを活用した多言語音声ガイドサービスの実証実験に関するニュースリリース記事】
https://www.tis.co.jp/news/2024/tis_news/20241112_1.html
生成AI音声ガイド(沖縄)

2-4 事例④:生成AI音声ガイド/北海道

沖縄での実証実験をベースに、北海道乙部町役場様向けに生成AI音声ガイドの活用を開始しました。
乙部町内には観光名所が点在しており、中でもGLAY(函館出身)が乙部町にて撮影した場所(シラフラ)が、人気の観光スポットになっています。しかし、案内掲示板や案内ガイドなどを配置することが困難なため、観光客が持っているスマホ上で、音声ガイドにより乙部町内の各観光スポットを多言語で案内を可能としたものです。

【乙部町向け生成AI音声ガイド:トップ画面】
生成AI音声ガイド(北海道)

3 AI×観光における今後の展望

AIの活用は言うまでもなく、観光関連業務の効率化や顧客体験の向上、持続可能な観光の実現に大きく貢献するツールです。
ここでは、観光分野におけるAI活用の可能性を3つの観点から整理します。

1,業務効率化
AIを活用したチャットボットや自動応答システムにより、24時間365日、多言語での観光客
対応が可能になります。観光客は時間や場所を問わず、必要な情報やサービスを利用できるようになります。
2,顧客体験の向上
AIは観光客の思考や行動履歴をもとに、ニーズに応じたパーソナライズされたサービスを提供することができます。
AIを利用した旅行プランの提供や、混雑予測に基づく最適な観光ルートの提案など、利便性と満足度の両立が期待されます。
3,言語の壁の克服
AI翻訳技術の進化により、外国人観光客が言語の壁を気にせずに旅行を楽しめるようになっています。
音声翻訳や自動字幕などの活用で、観光地での体験がよりスムーズになります。

まだ万能なAIは存在しませんが、近年は観光業務に特化した「AIエージェント」が注目を集めています。汎用AIと特化型AIを組み合わせて活用すれば、人手不足や業務不可を軽減しながら、より高品質な観光サービスの提供が可能になりつつあります。
AI技術の進化スピードは非常に速く、AIが別のAIに相談し、最終的な対応まで完結するような「完全AI対応」もそう遠くない未来に実現するかもしれません。

4 今後の展開とデータ利活用

4-1 今後の展開

今後の日本の観光は、地域経済の活性化、官民連携の強化、持続可能な観光の推進がより一層求められます。こうした中で、観光地域づくりの中核を担う存在として注目されているのが「DMO(Destination Management Organization)」です。

観光庁は、DMOについて次のように定義しています。
「地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する「観光地経営」の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者と協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人。」
(引用元:観光庁)

地域DMOは、データに基づく観光地域の経営をリードする「司令塔」の役割を果たします。一方で、実際に観光客を受入れ、現場のオペレーションを担う「地域DMC(Destination Management Company)」の存在も欠かせません。地元に根ざした企業として、観光人材の育成や雇用の持続にも取り組むことが求められています。

4-2 官民連携によるデータ利活用の重要性

観光ビジネスでは、民間企業が観光ビジネスで得たデータを個社で保有しているだけでは、全体の需要予測や効果検証に限界があります。
一報で、行政にもデータに基づいた判断や政策立案、いわゆるEBPM(Evidence Based Policy Making)の実践が求められています。
EBPMとは、科学的根拠に基づいて政策を立案・評価する考え方を指します。
限られた財源を有効に活用し、政策の成果を検証するうえで欠かせない手法として注目されています。
今後は、官民が連携してデータを共有・利活用することで、より的確な施策立案や地域マネジメントを実現していくことが求められます。

4-3 人口減少社会における観光の役割

日本では人口減少が進む中、従来の大量消費型の経済システムから、人口縮小社会に適用する仕組みへの変革が急速に求められています。
地方では労働力の確保が難しくなり、税収の減少によって経済の停滞が深刻化しています。そのような中、インバウンド(域外からの観光客を含む)による消費を、現行の枠組みを超えて地域経済に取り込むことが重要です。
これは、冒頭でも触れたJNTO発表に各国間で観光客を奪い合う競争の時代に突入していることを意味します。日本が世界の中でどの程度のシェアを獲得できるのかが問われる今、具体的な戦略と実行力がこれまで以上に重要です。

5 まとめ

日本が世界トップクラスの「観光立国」として成長していくことは、地域の未来、そして日本全体の持続的な発展につながると私たちは考えています。
TISは今後も、観光分野の課題解決に向け、地元企業や自治体との連携を大切にしながら、
各プレーヤーと価値交換ができる仕組みをお届けしてまいります。観光を通じた地域創生の実現に向けた今後の活動にご期待ください。