今となっては当たり前のように使われている「O2O」や「オムニチャネル」という言葉がありますが、ビジネス領域では新たに「OMO」に注目が集まっています。
「OMO」とは「Online Merges with Offline」の略称。日本語に直訳すると「オンラインとオフラインの融合」を意味します。なぜ「OMO」に注目が集まっているかというと、『これからのアフターデジタル社会において欠かせない主軸となる考え方』だと言われているからです。
今後のビジネス領域で生き残るには、OMOの理解が必要です。今回の記事では「OMO」の基本的な知識と、今後OMOを取り入れるにあたって必要なことを紹介します。
1.OMOとは?~オンラインとオフラインの融合~
まずは、「OMO」の基本的概念を紹介します。
OMOという言葉が生まれたのは2017年9月ごろ。元GoogleチャイナのCEOである李開復(リ カイフ)が提唱しました。「オンライン/オフラインの垣根にこだわらずUX(User Experience、ユーザー体験)を主軸に考える」という概念です。
今や一般消費者の多くは、日常生活の中でもスマートフォンなどで常にオンラインにつながっている「アフターデジタル(※1)」の中で暮らしています。OMOという概念が広まる前から店やEC、アプリなどの購買チャネルを行き来していました。
OMOは、店舗やECサイトなど購買チャネルを行き来する一般消費者が増えた今、企業目線でチャネルを分けるのではなく、適切なタイミングで適切なチャネルを提供し「ユーザーの購買体験をより良くしよう」という考え方なのです。
(※1) あらゆるモノ・人の行動がオンラインデータ化し、オフラインがなくなる世界のこと
考文献:藤井 保文、尾原 和啓 アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る」 日経BP 2019年
2.OMOが注目される背景
モノからコトに変わる消費者価値
インターネットやスマートフォンの普及によって、消費者は場所・時間を問わず買い物ができるようになりました。暮らしが豊かになり、商品やサービスの機能で差別化が困難になっている現代は、消費者の消費価値が「モノ」ではなく「コト」に置かれるようになっています。例えばインバウンド向けの「茶道体験」や「染物体験」など、商品やサービスを通した体験や経験が「コト消費」とされています。しかし、イベントやアトラクションなど、消費者が直接「体験」するコト消費も重要ですが、それらは店舗で扱っている既存商品を活かした購買活動とはいえません。そこで近年重視されているのが「シームレスな購買体験」です。商品の機能やサービスを所有するまでの一連の過程を「コト消費」として提供するため、自社の店舗の商品やサービスを活かしながら、消費価値を捉えられます。
店舗は非計画購買者に向けた、消費価値を「モノ」に喚起させるための仕掛け作り(動線の工夫やオンラインを使用した衝動喚起)を「コト消費」として捉えていく必要があるため、 適切なタイミングで適切なチャネルを提供するOMOに注目が集まっているのです。
デジタル技術の進歩
OMOはオフラインとオンラインを単純に合わせるのではなく、「オンラインとオフラインを融合し、デジタル起点で物事を考える」ことで生まれます。
OMOを発生させるにはデジタル技術の進歩が必須でしたが、今の日本はモバイルネットワークが普及し、QRコード決済などキャッシュレス化も進んでおり、その土壌は整いつつあります。ユーザーの情報を収集するためのセンサー、分析をするためのAIの発達により、常にオンラインに接続しその場でデータ処理をすることなども可能になりました。
日本のデジタル技術が進歩したことでオンとオフの境界が曖昧になり、さらに融合していくことが考えられるため、日本でOMOが注目されるようになったと言えます。
関連記事:デジタル技術を活用した新しい店舗のあり方について
スマートストアとこれからの顧客体験
DX推進に欠かせない「CX」の向上
あらゆる業界で近々の課題となっているDXの推進。2018年に経済産業省が公表した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」を受け、業務のデジタル化・業務フローのデジタル化など、デジタル技術の活用を前提とした企業の取り組みが増えています。
一方、DXの本質は「デジタル化」ではなく「デジタル化によって既存のビジネスモデルを変革・新しいビジネスやサービスを創出し、消費者の暮らしを豊かにする」ことです。デジタル化の段階でDXヘの取り組みが終わった企業は、単に業務を効率化したにすぎません。意識すべきは「顧客体験」を意味するCX(カスタマーエクスペリエンス)の向上です。
CXは、消費者が製品やサービスの機能面はもちろん、購入・利用・アフターケアを受けるときに感じる「価値全体」を指します。企業は製品やサービス自体の機能や利便性だけでなく、購入・検討・購入後に対し包括的に価値提供して初めてCXの向上を達成します。
CXの向上を意識することで、既存の製品・サービスの変革点や新しい発見につながるはずです。あくまでもデジタル化はDX推進の手段、DXはCX向上の手段と捉えることが重要でしょう。
店舗運営においても、単にセルフレジ導入・EC開始・クーポン提供するだけでは包括的なCXに寄与しません。OMOはDX推進が求められる現代において、デジタルを活用した顧客との接点拡充、実店舗を融合した価値提供として必須の概念となるでしょう。前述したUXを主軸とした戦略設計に加え、製品やサービスの利用時以外の顧客体験も考慮することで、さらなるファン化やリテンションのきっかけとなります。
関連記事:自社のファンを作るUX(ユーザーエクスペリエンス)とは?
3.O2Oやオムニチャネルとの違いは?
次に、今では当たり前に使われている「O2O」と「オムニチャネル」について、そしてこの2つの言葉が「OMOとはどう違うのか」を説明します。
O2Oとは
「O2O」とは、「Online to Offline」の略。インターネット(オンライン)の情報から、実店舗(オフライン)での購買につなげるマーケティング戦略です。
ECサイトから実店舗で使えるクーポンを発行したり、メルマガやLINE@を使って実際の来店を促したりすることが挙げられます。
オムニチャネルとは
「オムニチャネル」とは、オンラインオフラインを問わずすべての販売チャネルを統合し、ユーザーとの接点を多く持とうとすること。「オムニ=すべて」「チャネル=販路」という意味を持ちます。
すべての販売チャネルを統合することで、ユーザー情報や購入履歴などの一元管理が可能になります。その結果、ユーザーは接点を持ったどのチャネルからでもスムーズに商品の購入ができるのです。
普段はオンラインで買い物をしているユーザーがカタログ通販を使って買い物をしても、購入履歴が統合されるので、次回以降オンラインからカタログで買った商品を購入できる、などの例が考えられます。
OMOと「O2O・オムニチャネル」の違い
OMOとO2O・オムニチャネルの違いは「オンラインとオフラインの区別」、「ユーザー体験(UX)」への考え方です。
「O2O・オムニチャネル」は「オフラインとオンラインを区別する考え方」です。オフラインがベースにあった上で、オンラインから実店舗にユーザーを誘導する施策がほとんど。購買行動を促すために、企業目線で施策を実施しています。
一方、「OMO」は「オンラインとオフラインを区別しない考え方」です。実店舗ではレジのPOSシステムが常にオンラインに接続していて、来店するユーザーもスマートフォンで常にオンラインに接続しています。「オンラインとオフラインの融合状態」であることを理解し、企業目線ではなくユーザー体験(UX)を中心に設計した施策を実施しています。
O2Oの市場規模からみるOMO
野村研究所が発表した「ITナビゲーター2021年度版」によると2021年におけるBtoC・EtoC市場規模は22.2兆円であるのに対し、O2Oコマース市場は56.7兆円になっています。また、今後もO2Oコマース市場は拡大していくと見込まれ、2026年におけるBtoC・EtoC市場規模は29.4兆円と予想されていますが、O2Oコマース市場は80.9兆円の見通しとなっておいます。
OMOはオンラインとオフラインの区別をなくすという観点でO2Oと非常に似ていますが、O2Oは顧客と関わるあらゆる手法ということで事業側目線の概念と言えます。
O2Oの拡大によりOMOにシフトチェンジした事例を参考にすれば、自ずとOMOの市場拡大に即したOMOによる増益を見込めるでしょう。
4.OMO導入のメリット
オンラインでの購買が浸透している現代、消費者にとって製品やサービスを購買するチャネルに「オンラインかオフラインか」は大きな問題ではなくなっています。その都度、最も便利かつメリットのある手段を選び活用しています。
企業にとっては、どのチャネルからでも顧客とのタッチポイントが生まれ購買につながるため、購買フローの拡張が見込めるOMOは大きなメリットになります。しかし、OMOを取り入れた企業の真のメリットは顧客接点にて獲得できるデータの活用です。具体的に見ていきましょう。
顧客データを活用した体験価値の向上
体験価値(カスタマーエクスペリエンス)とは、商品の機能性など消費者が実際に商品を使用して得られる価値のことです。
例えば、衣服を購入する際に価格や着心地以外に「この服を着れば気分が晴れやかになるか」や「自分のライフスタイルに合っているか」などを購入の判断にする人も多いのではないでしょうか。
このような消費活動は「コト消費」と呼ばれ、コト消費を促すためには、商品を通して得られる体験価値を高める必要があります。オンラインとオフラインを組み合わせたOMOは消費者の体験価値を高める手法として非常に有効であると考えられています。
LTVの最大化
LTV(顧客生涯価値)を成長させるためには、既存顧客と良好な関係を継続する必要があります。そのためには、顧客一人ひとりの行動やニーズを把握した上での価値提供が欠かせません。購買チャネルが多様化し、顧客の購買行動もオンラインとオフラインを行き来する現代は、両者を融合したデータ収集と分析が求められます。OMOの概念を前提としたECや実店舗の活用ができれば、LTVの成長に必要なデータを戦略立てながら各種施策に落とし込め、LTV最大化に寄与するでしょう。
5.OMOの事例
ここからは、実際にOMOを取り入れている事例を紹介します。
Luckin Coffee(中国)
2018年1月に創業した「Luckin Coffee」は事前にアプリで注文、決済を行い、時間になったらお店へ行くと行列で待たずにコーヒーが飲めると中国で人気のカフェです。
自宅や会社からアプリで事前に注文し、出来上がる時間にお店に行く(オフライン→オンライン→オフライン)。ユーザーの利便性を第一にUX(ユーザー体験)が考えられていて、オフラインとオンラインも融合している。まさにOMOを取り入れた好例と言えます。
その結果、成長が早いと言われている中国企業の中でも、史上最速でユニコーン企業(評価額が10億ドルを超える未上場企業)の仲間入りを果たしました。
無印良品「MUJIpassport」(動線分析)
人気ブランド「無印良品」を展開する良品計画のスマートフォンアプリ「MUJI passport」は、在庫検索や商品の情報収集、よく使う店舗など、オフラインとオンラインで起こるコミュニケーションをすべて可視化しています。
その結果、「WEB(オンライン)で情報を収集した半数以上は、店舗(オフライン)へ行って購入をする」という動線がある、 WEBで情報収集をした後にそのまま購入まで至るユーザーが3割はいる、といった、ユーザーを深く理解するために必要なデータを得られました。
また、データ収集だけではなく、コミュニケーションを可視化した「MUJI passport」には「無印良品におけるUXを向上させるアプリ」という側面もあり、ユーザーが『よい体験』ができるかどうかを顧客視点で考えることを大切にしています。
マクドナルド
飲食ではOMOを取り入れているところは多く存在しますが、マクドナルドは分かりやすい例です。
特に新型コロナウィルスの流行が始まり店内で飲食するよりもテイクアウトやデリバリーといった形態をとる人が増えました。2020年1月から全国で「モバイルオーダー」が導入され、実店舗に来店するお客様以外にもテイクアウトやデリバリーを利用する顧客の情報を収集することが可能になりました。事前に予約をすれば待たずに商品を貰うことができるため、顧客にとってもメリットになるなどWin-Winの仕組み作りが行われていることがわかります。
以上のことからOMOを取り入れることで動線、データ分析もできるので、自社のファン育成にも役立つと考えられています。
6.OMO実現に向けた取り組み
続いて、OMO実現に不可欠な取り組みについてご紹介します。
データベース構築と活用
OMOの導入にアプリやWebサイト、SNSと顧客データの連携を取る必要があり、それに伴うデータベースの構築が必要不可欠です。
また、オフラインで得られたデータと統合することでよりパーソナル化された体験を顧客に提供することができます。
顧客がどのような好みなど前回の来店時のデータを参照すれば、顧客のリピート率が高まり、LTVを上げることができるでしょう。
流入チャネルの拡大
OMOは店舗をはじめ、ECサイトやメールマガジン、SNSなどあらゆる流入チャネルを統括して得られた情報を顧客に提供する必要があります。
そのため、流入チャネルを拡大すればするほどOMOによって得られる効果は高まります。
OMOはオフラインとオンラインを組み合わせて新たな体験価値を提供することを目的としているので、流入チャネルの拡大により新たな顧客を創出するとともに、各々に適した質の高い体験価値を提供できると言えます。
ICT環境の構築
OMOの実現のためにはICT環境の構築が不可欠になります。商品や顧客データを分析し、ニーズを満たした新商品を生み出す際には顧客関係管理やマーケティングオートメーション(MA)などあらゆるICTを利用したツールが重要になってきます。
顧客が必要としているものを見極めることができれば、体験価値やLTVの向上にもつながるため、ICT環境を構築する必要があると言えるでしょう。
7.OMOを進める小さなデジタル化
OMOを進めるために、まずはユーザーとのオンライン上の接点をつくることが重要です。例えば会計時に現金だけではなくQRコード決済を取り入れて「キャッシュレス化」を進めたり、「デジタルサイネージ」を使って広告配信をしたり…など、小さなことからデジタル化をしていくことでオンライン上での接点ができます。
QRコード決済サービスについての詳しい説明はこちら
またデジタル化を進めればユーザーの行動データを収集、把握出来るだけでなく、さらにAIによる分析、活用といった領域までの深耕が可能になり、今よりワンランク上の「デジタルマーケティング」が可能になるでしょう。結果、アフターデジタルに対応することになり、ユーザー体験(UX)が向上。新規ファンの獲得、既存ファンの囲い込みなどにつながる、と考えられます。
8.まとめ
OMOはこれからの時代を生きるために必要な概念
現在、欲しい商品の情報をインターネットで検索し、比較をしてから購入をしたり、気になるお店をSNSで探して実際に行ってみるなど、ユーザーがオンライン上で活発に行動をする時代になりました。
アフターデジタルを享受する人が増え、デジタルネイティブ世代が活躍するこれからの時代に「オンラインとオフラインを分けて考える」のは、少し古い考えかもしれません。「キャッシュレス決済ができないから別のお店に行く」という消費者の機会損失にもなります。
アプリを開発して、AIを取り入れて…など大規模でコストがかかるデジタル化の前に、まずは自分たちでできる小さなことから「オンラインとオフラインの融合」を考えましょう。それだけで、今の時代を生きるユーザーの購買体験(UX)を見直すきっかけになるはずです。
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