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欧州の決済市場の徹底解剖

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欧州ではデビットカードやクレジットカードが早くから普及していることから、「キャッシュレス先進国」のイメージを抱いている人も多いのではないでしょうか。しかし一言に欧州といっても、実際には国ごとに違いがあります。生活の中で国境をまたぐ機会が多く、単一通貨「ユーロ」が存在するといった特徴を踏まえながら、キャッシュレス事情を紹介します。

●イギリス

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※参照元:UK Payment Markets Summary
(https://www.ukfinance.org.uk/system/files/Summary-UK-Payment-Markets-2018.pdf)

EUから離脱する「ブレグジット」が話題のイギリスでは、2017年にキャッシュレス(デビットカード)の取扱高が現金を上回りました。欧州内の多くの国と同様、銀行口座にひも付いたデビットカードが普及しており、加盟店手数料の低さも相まって、急速にキャッシュレス化が進んでいます。

ロンドンでは交通カードとして「Oyster(オイスター) card」が導入されており、NFC Type-A/Bを利用した非接触決済も利用できます。

ロンドン地下鉄の自動改札-pic

※ロンドン地下鉄の自動改札。黄色いリーダーにOyster cardやスマートフォンをかざして通過

そのため、iPhoneのApple Payに日本で発行されたMastercardなどのクレジットカードを登録しておけば、切符を買うことなく地下鉄やロンドンの代名詞の赤い2階建てのバスに乗ることができます。

交通機関以外にも、スーパーマーケットやドラッグストア、レストランやパブ、小規模な商店まで、NFC決済は広く普及しています。首都ロンドンだけでなく、マンチェスターやエディンバラといった地方都市でもキャッシュレス化が進んでいます。

 

通貨は、イギリスではユーロではなくポンドが使われており、さらに、スコットランドや北アイルランドでは、独自のポンド紙幣が流通しています。この独自の紙幣に関してはイギリス国外に持ち出しても基本的には両替ができない為、旅行に行った際の決済はなるべく現地通貨ではなくキャッシュレスで行う事をお勧めします。

ポンド紙幣-pic

※スコットランドの銀行が発行したポンド紙幣。イギリス国外では通用しない

その他、端末をいくつかご紹介します。

磁気スワイプ-写真

1.磁気スワイプ、ICチップ、NFCの三面待ちに対応しており、欧州各地でよく見かける決済端末です。

TESCOのセルフレジの写真

2.TESCOのセルフレジ。イギリスの主要なスーパーマーケットはNFC決済に対応しています。

 

 

マンチェスターの年旅客鉄道の改札機械の写真

3.マンチェスターのライトレール(都市旅客鉄道)。改札はなく、NFC決済で乗車前と乗車後にタッチをして精算します。

●ドイツ

経済大国として知られるドイツでは、若者を中心にモバイルバンクやデビットカードに普及の兆しがあるものの、現金決済には匿名性や自由がある事が評価されており、日本よりもキャッシュレス比率が低くなっています。

ドイツのATM写真

現金決済の多いドイツには多数のATMが。老朽化したベルリン・テーゲル空港にも真新しい端末が設置されています。

ドイツ国内でも、主要なスーパーマーケットや商店、レストランや有料トイレにおいて、キャッシュレス対応が進んでいます。しかしよく観察してみると、地元の人は現金払いが多く、カードでの払いをするのは旅行者ばかり、という場面も珍しくありません。

 

ROSSMANNのレジ写真

ドイツのドラッグストア「ROSSMANN」のレジ。キャッシュレスに対応しているが、現金で支払う人も多い

マクドナルドのセルフオーダー端末

欧州各地に普及するマクドナルドのセルフオーダー端末。現金ユーザ―が多いドイツでも現金は使えない

 

 

 

 

 

 

 

ドイツでもデビットカードの普及は進んでおり、切符の券売機は「Maestro」やドイツの「Girocard」に対応しています。ただし空港や中央駅以外では、手数料の高さからか、「クレジットカード不可」としている券売機を見かけます。

ハノーバーの地下鉄券販売機の写真

ハノーバーの地下鉄券売機。現金とGirocardに対応しているが、クレジットカードは使えない

ドイツの鉄道には改札がなく、交通ICカードもありません。各都市では紙の切符が使われていますが、ベルリンではスマホアプリで市内交通のチケットを買えるようになりました。車内検札の際にはアプリのQRコードを見せる仕組みになっています。

 

 

 

●北欧のキャッシュレス大国スウェーデン

スウェーデンは最もキャッシュレスの進んだ国の一つです。スウェーデン中央銀行による2018年の調査では、直近の実店舗での支払いで現金を使った人はわずか13%と、現金を持ち歩かない習慣が定着しています。

スウェーデン、デンマーク、ノルウェーの3カ国はユーロを導入せず、独自の通貨を用いています。デンマークのコペンハーゲンから電車で30分も乗ればスウェーデンのマルメーに着きますが、いちいち両替するのは大変。でもキャッシュレスなら問題ありません。

ストックホルムの交通カード「SL Access」をチャージできる券売機。現金には非対応

スウェーデンの空港バス券売機もキャッシュレス。シンプルな構造になっている。

 

 

 

 

 

 

 

ストックホルム中央駅に増えている現金お断りの店

現金が使われなくなった結果、ストックホルムには現金レジ管理の煩雑さなどからキャッシュレス対応のみの「現金お断り」の店が増えています。

銀行強盗など、現金を狙う犯罪が減少した効果もある一方で、現金しか使えない人が排除されつつあり、キャッシュレスの行き過ぎが社会問題になっています。

 

 

 

コペンハーゲンによくあるホットドッグ屋台。カード類は使えず、現金またはモバイル決済「MobilePay」に対応している

モバイル決済アプリも普及しており、スウェーデンでは「Swish」、デンマークでは「MobilePay」が人気です。いずれも携帯電話番号と銀行口座がひも付いているため、簡単に送金できる事が特徴です。

 

スウェーデンでは紙幣の切り替えも進みました。2015年から新紙幣が登場したことで、旧紙幣はわずか2年ほどで廃止されました。米ドルや日本円では考えられないスピードでの移行です。

 

●電子政府国家エストニア

またバルト三国では、電子政府を推進するエストニアも注目されています。エストニアでは生まれた時に国民IDが付与され、日本のマイナンバーカードにあたるe-IDカードが交付されます。

エストニアの公共交通機関は「IDチケット」を購入してe-IDに登録することで乗車することができます。「IDチケット」は各種の運用コストが下げられることから、従来の切符に比べて運賃が安く設定されました。このチケットを利用するために、e-IDカードの取得者が増えたともいわれています。

(参照元:未来型国家エストニアの挑戦 電子政府が開く世界 [NextPublishing])

また、国はe-IDにより人口管理を行い、国民はそのe-IDを使えばほとんどの行政サービスはオンラインで受けられる仕組みになっています。また国民のデータは行政・民間サービスでセキュアに連携されており、Once Only(“変更は一度だけ”)という原則のもとルール化されています。例えば引っ越しの際はオンライン上で入力すれば、銀行や公共サービスへの転居届は不要です。また本人と家族の健康情報についてもオンライン上で参照でき、健康要因や予防医学の観点で個人ケアの実現を図っています。

こうした制度を通して、エストニアは人口を現在の約130万人から電子的な住民登録を含めた1000万人に増やそうとしています。エストニアの若者は仕事や娯楽を求め、フィンランドや欧州各国に流出しているのが現実です。そこでエストニアは人口流出を防ぐため、電子政府の樹立に国家としての生き残りをかけているのです。

●オランダ

オランダもキャッシュレス先進国の1つです。現地では「Pinnen」と呼ばれるデビットカードが広く普及しており、オランダ銀行の調査によれば2015年には現金とキャッシュレスの比率が逆転しました。
(参照元:https://www.dnb.nl/en/news/news-and-archive/dnbulletin-2016/dnb341309.jsp)

大手スーパーのアルバート・ハインでは、Pinnen専用のレジが用意されています。一方で、空港など一部の店舗を除いてクレジットカードは利用不可となっています。キャッシュレス先進国にも関わらず、欧州外からの旅行者にとっては現金で買い物せざるを得ない場面が多いのです。

アルバート・ハインでのキャッシュレス支払いには、「Maestro」や「V PAY」対応のデビットカードが必要

アムステルダムにある「クレジットカード不可」のファストフード店。Maestroか、現金のみ使用可能となっています。

 

 

 

 

 

●まとめ

このように欧州には多種多様な国が集まっていますが、キャッシュレスの手段としてクレジットカードやデビットカードが広く普及しており、その多くがよる非接触決済に対応しているという共通点があります。
 日本においても大手コンビニがNFC Type-A/Bに対応し、MastercardコンタクトレスやVisaタッチに対応したクレジットカードは徐々に増えています。しかしFeliCaベースの電子マネーが先行しており、最近ではQRコード決済に勢いがあります。新型コロナウイルスの終息後、東京オリンピック・パラリンピックなどインバウンド(訪日客)需要の回復が期待される中、国内においてもNFC Type-A/Bの普及は進むのか、注目が集まります。