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プライバシー保護や多様性が重視される、パーソナルデータ活用時代が到来。パーソナルデータ利活用がマーケティング成功のカギを握る

ITがビジネスや生活に浸透したことで、デジタルマーケティングにおけるアプローチの1つ “パーソナライズ”が主流になり、ユーザーの購入履歴や検索履歴にもとづいた情報・コンテンツを提供する手法は当たり前となった。一方で、どのWebサイトを開いても同じ広告コンテンツが表示され、追いかけられているように感じてしまう……など、パーソナライズがユーザーに不快感を与えてしまうのも事実だ。さらに昨今ではプライバシー問題への関心も高まっている。

「パーソナライズはいま、変わらなければならない」と、TIS株式会社のDXパーソナルデータサービス部 部長・フェロー 岡部 耕一郎 氏は言う。本記事では同氏にパーソナライズの変遷と、適切なパーソナルデータの利活用が創り出すウェルビーイングな社会について話を伺った。

岡部耕一郎の写真

TIS株式会社 DXビジネスユニット DX企画ユニット
DXパーソナルデータサービス部 部長・フェロー 岡部 耕一郎 氏

ダイバーシティやweb3、トレンドをふまえると浮き彫りになる、パーソナライズが変わるべき理由

具体的にパーソナライズはどのように変わるべきなのだろうか。岡部氏は、現状のパーソナライズの課題は“企業主導”にあると指摘する。

「現状のパーソナライズでは、企業がユーザーの行動や情報を用いて類型に当てはめ、関連するコンテンツを提供するという仕掛けがほとんどです。ユーザーの個性や多様性とパーソナライズにズレがあっても企業側はそれに気づけません。またユーザー自身が変化していったり、複数のパーソナライズに該当したりすることを把握できません」(岡部氏)

社会全体で「多様性」が重視されるようになったことも、企業主導のパーソナライズが受け入れられなくなってきている背景にある。企業がユーザーのペルソナを仮説立てるのでは、個性や多様性をケアすることは難しいだろう。

企業主導のマーケティング図

また、プライバシーに関する問題意識が高まっている現在、暗黙的なCookieの収集や同意のないサードパーティーデータの活用といった従来のパーソナライズ手法には限界が訪れている。ユーザー自身が「なぜこのサイトで検索したキーワードが別の動画配信サイトで参照されているのか」といった疑念を抱くようになってきていると岡部氏は言う。

とはいえ、データ活用時代とも呼ばれる現代で企業が顧客満足「パーソナルデータ利活用+ウェルビーイング」が、新しいパーソナライズを実現する度を高めていくには、価値あるパーソナルデータの利活用が不可欠だ。プライバシーを十全に配慮したうえでのデータ流通をベースとして、“ユーザー主導のパーソナライズ”へのシフトが必要とされている。

そこでいま、注目を集めているのがweb3の掲げる「自己主権」をパーソナライズに適用する考え方だ。また「情報銀行」という概念も同様の考え方にあり、ユーザー同意のもと、データの第三者提供等も管理することで、安全にパーソナルデータを流通させるというものだ。パーソナルデータ及びそのペルソナをユーザー自身のコントロール下に置き「自己主権」的な「なりたい自分」に対応していくのが、次世代型のパーソナルデータ利活用と言える。

「パーソナルデータ利活用+ウェルビーイング」が、新しいパーソナライズを実現する

TISでは、企業主導からユーザー主導へとシフトした新しいパーソナライズを実践する組込型情報銀行ソリューション「ペルソナバンク」を開発し、パーソナルデータ利活用を模索する企業に向けた支援を開始している。同ソリューションは、「ウェルビーイング(well-being)」の指標を取り入れられるプラットフォームとして設計されている。

ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあること、いわゆる“幸福な状態”を意味する概念だ。ユーザーのウェルビーイングを叶えるためのサービスを提供したい、またはすでにリリース済みのアプリケーションにウェルビーイングの要素を取り入れたいと考えている企業は増加傾向にあり、ペルソナバンクはこうしたニーズに対して極めて有効な選択肢となる。

たとえば、自社で持っているウェルビーイング指標をペルソナバンクに組み込むことで、「ペルソナ診断」を実施することができる。まずは診断結果となるペルソナをユーザーに提示したうえで、合っていない場合はユーザー自身が別のペルソナを選択するというプロセスをふむことで、ユーザー自身が発信するパーソナルデータを使った、ユーザー主導のパーソナライズ実現につながるといった仕組みだ。

ペルソナバンクのサービス図

ペルソナバンクに博報堂が提供する「生活者ウェルビーイング21 因子」ソリューションを組み合わせることも可能だ。

「多様性への対応やユーザー主導のパーソナライズを実現するためには、ウェルビーイングの考え方が重要な役割を果たすと考えています。現在の自分だけではなく、“なりたい自分”、すなわち幸せを感じるためにはどう在ればよいのかという要素もパーソナライズに含めることで、現在のニーズだけでなく長期的なニーズをとらえられるようになります」と岡部氏は説明する。

岡部耕一郎の写真

岡部氏が述べたとおり、ペルソナバンクは多角的なパーソナルデータの利活用により、「新しいパーソナライズ」を実現し、多様なシーンで活用できる基盤として機能する。くわえて注目したいのが、特許出願済みである、1人のユーザーが複数の人格を持っていると定義する「分人」に対応したデータ管理を実現していることだ。

「現実世界では、会社にいる自分と家庭にいる自分、子どものころの自分など、環境や時間軸によって自然に異なる人格を使い分けています。これを『分人』と呼んでいますが、分人に対応したパーソナルデータ管理により、個性や多様性をより深く重層的に表現できます。これにより、現実世界の自然な人らしさをサイバー世界でも実現できるサービスを企業が提供できるようになり、ウェルビーイングにつながります」と岡部氏は力を込める。

分人のイメージ図

さらにペルソナバンクは、プライバシー面での懸念を払拭してくれる。ペルソナという単位でパーソナルデータを活用するため、個人の情報が特定されることがなく、より柔軟なパーソナルデータ活用を推進できるという。

「たとえば、ペルソナを軸に他の統計データとマッチングさせるといった使い方も可能です。外部から入手したデータなど、個人情報と紐付けることが難しいデータは、ペルソナバンクを介することで組み合わせることが可能となります。これにより、データ活用に広がりを持たせることができると考えています。さらに第三者提供に関しても、パーソナルデータを断片化したペルソナという単位ならばユーザーの同意を得やすくなります」(岡部氏)

ペルソナバンクを通じてTISが目指す世界とは

TISでは、組込型情報銀行パーツとしてペルソナバンクのソリューション化を進めているという。地域ウォレットの決済データを軸にしたパーソナルデータ利活用基盤の実証や、自社サービスの相続DXアプリ「Portraitin’( ぽーとれーてぃん)」にサービス一体型の情報銀行パーツとして組み込むなど、さまざまな取り組みを展開している。

「ペルソナバンクを通じてTISが目指しているのは、『個人のプライバシーがすべて守られた状態で、個性や多様性を重視し、社会課題の解決・活性化のためにパーソナルデータが利活用できる世界』の実現です。ユーザーのため社会のためのパーソナルデータ利活用を推進していくことで、企業・個人・社会のすべてがベネフィットを得られる世界が実現できると考えています」と岡部氏は展望を語る。

データ利活用の必要性が多くの企業で問われているが、パーソナルデータを効果的に活用できている企業は多くないのが実情だ。TISが提供するペルソナバンクは、ユーザー主導のペルソナで新しいパーソナライズを実現し、第三者提供や外部統計データとのマッチングまでを見据えたデータ利活用を可能にする。従来のパーソナライズによるマーケティングに限界を感じているのならば、TISに一度相談してみてはいかがだろうか。

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サービスについての詳細はこちら
https://www.tis.jp/service_solution/personabank

※本コラムは2023年3月27日にTECH+で掲載された内容を転載しています。

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