トークンエコノミーは、すでにさまざまな企業や自治体が取り組みを始めており、今後ますます発展していく可能性を秘めています。ただ、注目されるようになってきたのはここ数年なので、まだ耳慣れないという方も多いでしょう。
今回は、トークンエコノミーの基礎知識について解説すると共に、トークンエコノミーが世界に何をもたらすのか、実際の事例も含め紹介します。
●トークンエコノミーとは
トークンエコノミーのトークンは「代替通貨」エコノミーは「経済圏」を指し、合わせると「代替通貨経済圏」という意味になります。言葉だけ見ると、なんだかややこしそうに感じるかもしれませんが、それほど難しい概念ではありません。トークンについては「決済の仕組みで重要な「トークン」徹底解説!」でも詳しく解説しているので、興味がある方は是非確認してみて下さい。
話を戻しますが代替通貨とは、円やドルといったお金と同じように使える「通貨の代わりになるもの」です。たとえば商店街で使える商品券や、貯めるとサービスが受けられるポイントカードのポイント、オンラインゲーム内でユーザーが買い物に使うゲーム内通貨など、すでに多くの場所で代替通貨が利用されています。
1種類の代替通貨が多くの人によって使われると、そこには経済圏ができあがります。代替通貨によって生まれる経済圏――それがトークンエコノミーなのです。
このように聞くと、トークンエコノミーは昔から存在する商品券やゲーム内通貨を言い換えたものであり、なぜそれが今になって注目されているのかわからないという疑問を持つ方もいるでしょう。
そこには、トークンエコノミーを支えるある技術が関わっているのです。
●トークンを支えるブロックチェーン技術
トークンエコノミーを支える技術とは、ビットコインをはじめとする仮想通貨でも活用されているブロックチェーンです。
ブロックチェーンは「分散型台帳」のことで、取引の情報をネットワークに接続した複数のコンピューターで共有し、改ざんを防ぐ技術です。特定の誰かが管理しているのではなく、ネットワークに参加している大勢が情報を管理するので、不正が限りなく起こりにくいというメリットがあります。このブロックチェーンが、トークンエコノミーの信頼性を下支えしているのです。
というのも、「代替通貨」に必要なのは、何よりも「信頼性」だからです。私たちが普段使っている円やドルといった通貨は政府が管理しています。政府が管理しているのだから通貨の価値が急激に落ちたりゼロになったりはしないだろう――と“信頼”しているわけです。この信頼性が通貨に価値を持たせています。
逆に、誰か知らない人が1人で管理している代替通貨を使うでしょうか。その管理している人の判断一つで価値がゼロになってしまうかもしれない代替通貨と、信頼できる「円」を交換する人はいないでしょう。
このように、代替通貨が流通して経済圏ができるためには、通貨に信頼性が必要であり、その信頼性をもたらすのがブロックチェーン技術なのです。
近年になってトークンエコノミーが注目され始めたのは、ブロックチェーンを用いることでトークンに信頼性を持たせられるからなのです。
●トークンエコノミーのメリット
では、円やドルではなく、わざわざトークンを発行して経済圏を作ろうとするのはなぜでしょうか。もちろん、トークンエコノミーに大きなメリットがあるからです。
メリット1:最小額でのやりとりが可能
メリット2:多くのユーザーが選ぶ商品だけではなく、個人的に好きな商品にも価値を付加する事が可能
トークンエコノミーのメリットは、円やドルと異なり、細かい単位でのやりとりが気軽にできる点です。たとえば、クリエイターがコンテンツを投稿して、それに別のユーザーが「いいね」したり、コメントしたりする投稿サイトがあるとします。
一般的には、投稿されたコンテンツを生み出したクリエイターに対して、ユーザーが直接お金を支払うことは簡単ではありません。なぜなら、数円~数百円といった少額のお金を振り込むのは銀行手数料の関係で難しいですし、逆に銀行手数料が気にならない数万円といった多額のお金を支払えるユーザーはほとんどいないからです。だからこそ、クリエイターの作品に感動したとしても、これまでは「いいね」やコメントで評価せざるをえませんでした。
しかし、コンテンツ投稿サイトがトークンエコノミーを構築していたなら話は変わってきます。トークンエコノミー内であればトークンは銀行を介さず流通できるので、手数料もほとんどかかりません。ユーザーは少額でも気軽にトークンを送ることができ、クリエイターは作品を正当に評価される機会を得られます。
また、クリエイターだけでなく、「作品は投稿していないけれど、積極的に良いコメントを投稿してコミュニティを盛り上げている人」などもトークンを送られる対象になるかもしれません。
手数料がほとんどかからず気軽にトークンを送れるトークンエコノミー内では、これまで評価することが難しかったあらゆる「価値ある行為」を評価できるようになる可能性があるのです。このことは、クリエイターやユーザーのモチベーション向上にもつながるはずです。
●トークンエコノミーの導入事例
最後に、トークンエコノミーの国内事例をいくつかご紹介します。
1.LINE Token economy
LINEは仮想通貨である「LINK」を提供しており、「LVC社」が開発した「LINE Blockchain」の中で利用する事ができるものです。その中で企業とユーザー間で利益を還元できるような「LINE Token Economy」の実現を目指すと発表しています。
具体的には、サービスに貢献したユーザーにLINKを付与する「LINKリワード」をスタートさせており、LINEの金融サービスを皮切りにトークンエコノミーの拡大を目指しているようです。
言うまでもなくLINEは国内最大のコミュニケーションプラットフォームです。国内に約8,600万人の月間利用者数を抱え、日本の人口の約7割に当たります。(※1)膨大なユーザーが「LINKリワード」に参加すれば、近いうちに巨大なトークンエコノミーが形成される可能性は十分に考えられるでしょう。
(※1)参照元:https://www.linebiz.com/sites/default/files/media/jp/download/LINE%20Business%20Guide_202101-06_summary_v1.pdf
2.STARトークンエコノミー
慶應義塾大学FinTEKセンターは、2021年7月8日、トークンエコノミーを個人情報管理プラットフォーム「STAR」内に作る実証実験を開始すると発表しました。主に就職活動での使用が想定され、STARでは企業が学生の情報開示を求める際に、情報量などに応じて企業がトークンとして「STARコイン」を発行します。
従来の就職活動では、成績表や履歴書を元に学生の評価を行なってきましたが、STARコインによって学習履歴やゼミ・サークル活動など「学生の成長に関する情報」にも独自の価値が付与されます。学生はSTARコインでSTAR独自のさまざまなコンテンツを利用でき、学生の成長に貢献しながら企業と学生のより良いマッチングの促進が期待されます。
現在、同実証には慶應義塾大学を中心に2000人以上の学生と11社の企業が参加しています。
(参照元:https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2021/7/8/28-81163/)
3. 地方自治体向けの取り組み
TISは自治体向けにトークンエコノミーを用いたサービス「会津財布」を提供しています。
TISが取り組む「会津財布」とは
2020年、TISの地域向け共通決済サービス「ID決済プラットフォーム」を活用したデジタルウォレット「会津財布」を開発し、会津若松市の観光活性化企画「極上のはしご酒」のデジタルクーポンを「会津財布」上で利用できるサービスとして提供しています。
「ID決済プラットフォーム」は、アプリを通じて地域住民や観光客などへ、QRコード決済、地域通貨やクーポン、生活に便利なサービスなどを提供できるプラットフォームです。
会津財布(トークンエコノミー)を利用することで店舗側は手数料負担を軽減する事ができ、トークンの動きによって生じるデータを元にマーケティング活動に生かしていくことが可能になります。
例えば会津若松の観光資源になっている日本酒や食を観光客へアピールするためにユーザーは会津財布から事前にデジタルクーポンを購入でき、店舗ではスマホからタップするだけで支払いが完了します。紙クーポンとは異なり、データが蓄積されていくのであらたな施策につなげ易いというのも特徴です。「極上のはしご酒」以降も、「妖怪フード食ベ歩キ」という企画で“おばけコイン”というトークンが活用されるなど、地域でトークンエコノミーを展開するためのプラットフォームとして注目を集めています。
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●まとめ
トークンエコノミーは代替通貨による経済圏のことです。通貨に必要な信頼性をブロックチェーンで担保することで、あらゆるコミュニティに経済圏を生み出す可能性を秘めています。
トークンエコノミーでは、少額決済やトークンの即時受け取りが可能になるため、コミュニティ参加者のモチベーション向上や、これまで価値評価が難しかったモノを正当に評価することが可能になるなどのメリットがあります。
すでに自治体をはじめとするさまざまな組織団体で、トークンエコノミーに関する取り組みが行われています。今回は日本という枠組みでお話しましたが国境を越えての経済圏を作る事も可能です。今後、トークンエコノミーはますます拡大していくことは間違いないでしょう。
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