コラム Column

スーパーシテイの取組(第2段) ~「人間中心社会」ってどんな社会?~

 前回の記事からあっという間に半年が過ぎてしまいました。最近ではスマートシティに向けた各企業の取組が加速し、今まで以上に注目されるテーマになってきていると感じています。今回のコラムでは、「スーパーシティ」によって実現できる社会について、例を挙げながらご紹介したいと思います。

●日本の社会は不便だらけ

 住民目線で未来社会を追求する事については、前回の記事でも触れさせて頂きました。では具体的にどんな部分が未来社会になっていくのでしょうか?

 未来社会というと「空飛ぶ車」など、ある種の「ドラえもん」のようなイメージをお持ちになる方もいらっしゃるかもしれません。確かにそういう要素もありますが、「スーパーシティ」の意味する未来社会は、「データの利活用の仕組み」によって実現していくと言えます。

 現在の日本の社会の仕組みを考えてみると、例えば自宅を転居する場合、気が滅入る程の量の事務手続きが発生します。各自治体へ転出、転入などの住民異動届をし、警察署で免許証の住所を更新し、郵便局へ転送届けを出し、さらに同じような「住所変更」の申請を、会社、学校、銀行、証券会社、保険会社、カード会社、馴染みのお店の登録情報などに行う必要があり、例を挙げればきりがありません。このような大量の手続きを市民自身が一生懸命おこなう事が当たり前の社会になっており、市民は大量の手間が発生する事に対して、「なぜ全く同じ手続きを色んな組織にしないといけないのか?」という疑問を持つことすらなくなっている状態です。

 また異なる例を考えてみると、例えば持病があり病院に通っている方もいらっしゃると思います。自宅から1時間程度かけて病院に行き、事前に診療予約をしていても、病院で診察受付をした後に1~2時間待ち、待ちくたびれた頃に順番がまわってくる。診察は5分で終わり、お会計で数十分待ち、やっと処方箋をもらえます。その後処方箋を薬局に持っていき、さらに1時間待ち、やっと薬を受け取って1時間かけて自宅へ帰る。丸1日がかりで通院してクタクタになって帰ってくる状態です。「体調が悪くて病院に来ているのに、なぜこんなに待たないといけないのか?」と思いながらも、どうしようもないので並んでいる方も多いのではないでしょうか。

 これら、現在の日本の社会では当たり前の光景も、「データ利活用の仕組み」ができる事で市民の利便性が向上すると期待されています。ここで誤解をしてはいけないのが、ここでいう「仕組み」とは法律や市民の理解なども含めた「社会の仕組み」であって、ICT(情報通信技術)はその一部だという事です。

●「人間中心社会」実現に向けて

 「データ利活用の仕組み」と言っても、何でもかんでもデータを自由に使えるようにして良いわけではありません。特に個人情報に関しては、高いセキュリティを維持しつつ、より市民中心の社会が実現できる仕組みを考える必要があります。そこでこの仕組みづくりの基本的な考え方になっているのが、「オプトイン」や「ワンスオンリー」などです。「オプトイン」とはデータ取得に際して事前に市民の同意を得る事で、「ワンスオンリー」とは、同じ情報であれば1度だけの登録・更新で、必要な組織がそのデータを受け取れる仕組みにする事です。つまり、市民の同意を得つつ、必要な組織にデータを連携していく事で、より市民中心の未来社会が実現できるようになります。

 前項で挙げた転居の例でいえば、オプトインで市民の同意を得たうえで転居先住所情報をデータ連携し、1度だけの手続きで様々な組織の住所変更手続きを完了できるようになります。病院の例でいえば、自宅或いは病院行きバスなどで診察受付に必要なデータを登録し、病院についたらすぐ診察してもらい、診察が終わったらそのまま帰宅。会計処理はあらかじめ登録しておいた決済手段で会計待ちをせず支払いができるようになります。更に処方箋は薬局にデータ連携し、必要な薬はドローンやロボットによる自動搬送などで配達してもらうという一見近未来の仕組みも、社会の仕組みが整えば実現できるようになります。また、すでに一部病院などで始まっている遠隔診療、遠隔処方などをさらに活用すれば、通院自体も減り、より混雑解消につながると期待されています。

 これらを実現するICTアーキテクチャ(設計)の基本的な考え方は、都市のプラットフォーム上で市民ひとりひとりの一意な番号(=市民ID)にさまざまなデータを紐づける事が大きなポイントになります。市民IDをキーにすることで、市民ひとりひとりのオプトイン情報を管理しつつ、市民ひとりひとりが利用したいサービスを円滑に利用できるよう関係組織へデータ連携が行えるようになります。各サービスの利用データがさらに他サービスで利活用されることで、市民生活がより便利に豊かになるようになっていきます。
  上記で挙げた例はそのうちのごく一部ですが、スーパーシティでは、これらを実現する都市のプラットフォームを「都市OS」、そのプラットフォームとつながるサービスを「都市サービス」と呼び、人間中心社会を具現化するICTの仕組みと位置付けています。

●TISの取り組み

 TISでは19年度から、上記で述べてきたような未来社会を具現化するためのアーキテクチャ検討の実証実験が始まっています。また、検討を通してデータ利活用に向けた現状のルールに対する課題提起などもおこなっています。
参考URL:https://www.tis.co.jp/news/2019/tis_news/20191126_1.html

 TISはこの実証実験で、会津若松で市民IDと決済情報を紐づけるID決済プラットフォームを構築しました。決済は様々な都市サービスとの連携も想定される、非常に間口の広い機能でもあり、都市OSのコア機能として準備を進めています。会津若松で都市OS、都市サービスの実証を進めたうえで、将来的には全国の自治体へ展開していきたいと考えています。

 最後となりますが、2020年4月から、私は会津サービスクリエーションセンターのセンター長を拝命致しました。すでに会津若松に転居しており、今後は地域に密着しながら社会課題解決につながるサービス企画活動を進めて参ります。また、私は決済に限らずTISのスーパーシティの取組全般に関与していく事になり、「決済」に関連するブログ発信については今後、私の後任が中心となって担当させて頂く事になりますのでご期待下さい!私も時々、この場をお借りして情報を発信していきたいと思っておりますので、引き続き宜しくお願い致します。

(過去の記事)
1.日本の未来を描く「スーパーシティ」構想とは?TISがすスーパーシティ

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