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非接触NFC仕様改定“2センチ”のインパクト

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日頃、多くの方がさまざまな場面で非接触ICカードを利用しているのではないでしょうか。実際「非接触」という言葉の意味を深く考える人は多くはないでしょう。今回はこの「非接触」にフォーカスしてお話をしていきたいと思います。

過去に非接触決済の種類について説明している記事がありますので、興味がある人はこちらも確認してみてください。「日本の非接触決済を徹底解説!現状の課題と今後の行く末とは」

1.はじめに

日本国内において、非接触ICカードが最初に爆発的に普及したのは2001年に登場したJR東日本のSuicaではないでしょうか。同時期にEdy(現在の楽天Edy)もビットワレットから登場し、2007年にセブン&アイグループの電子マネーnanaco、さらにイオングループのWAONが登場すると、欧米よりも早く非接触ICカードで鉄道やバスの乗車券として利用され、また買い物でも決済をする光景が広く見られるようになりました。ここ数年で海外においても非接触ICカードが広く普及しました。背景には新型コロナウイルスによるパンデミックの影響もありますが、簡単にかざすだけで利用できる非接触ICカードはグローバルでその便利さが認知されていると言えるでしょう。

2.非接触ICカードは非接触なのか?

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非接触ICカードは名前の通り、カードを改札機や決済端末のリーダーに接触させなくても動作することができます。すなわち、ICカードのチップに格納されている情報を改札機や端末が非接触で通信し、読み取ることができるのです。

「え?非接触っていうけどタッチしていませんか?」という疑問を持つ人もいるのではないでしょうか。実際にSuicaが登場したころ、改札を通るときに「タッチ&ゴー」という言葉でJR東日本がPRしていましたし、最近でも国際ブランドの非接触決済を「タッチ決済」と呼んでいます。「タッチ」ですから、接触していると考えるのは正しい流れです。しかし、これは消費者がICカードを端末に確実にタッチすることで通信エラーが起こらないようにするために、鉄道会社やカード会社が考え出したPR用語なのです。

実はICカードと端末をタッチさせなくても通信は可能な仕様となっています。国際標準のNFC仕様(Near Field Communication:近接通信)では10センチ程度の距離で通信ができます。ただし実際に消費者が街中で利用しようとしたときに、「10センチまでなら離して大丈夫」と言われても、うっかり10センチ以上離れてしまい、通信エラーとなってしまう可能性があります。したがって「タッチしてください」ということで確実に通信できるようにしているのです。

3.非接触ICカードの仕組みについて

非接触ICカードはどうして接触しなくても通信できるのか考えたことはありますか?世の中にはトランシーバーや携帯電話、無線LANなどの無線通信があふれていますから、非接触ICカードも電波を使って通信しているのかなと思いますよね。

ご想像の通り、電波を使って非接触ICカードと端末は通信を行っています。電波を使うので、電流が必要になります。改札機や決済端末のようなデバイスは電源が供給されているので問題はありません。スマートフォンにも内蔵バッテリーがあるため、電源の問題はありません。しかし、プラスチックカードはどうでしょうか?カードの中にはバッテリーは入っていないのです。どうやってカードに電源を供給しているのか、その仕組みについて少し説明します。

非接触ICカードに電流を流すには中学校の理科で勉強した「電磁誘導」という現象を利用しています。発電機などでも利用されている現象です。

電磁誘導解説図 
 
左図の様にコイルに磁石を近づけるとコイルに電流が流れる現象が「電磁誘導」です。非接触ICカードの中には通信を行うためのアンテナ兼コイルが埋め込まれています。改札機や決済端末からは磁界が発生します。カードの利用者が改札機や決済端末にカードを近づけるとカードに埋め込まれたコイルに電流が流れます。結果的にバッテリーを持っていない非接触ICカードに電流が供給されるということになるのです。電流が流れる瞬間にデータ通信がICカードと改札機、決済端末間で行われます。

 

4.NFC仕様改定で便利になる未来

ここからがコラムの本題です。この便利な非接触ICカード仕様の国際標準であるNFC仕様を策定しているのがNFC Forumという団体です。今年の6月にNFC Forumが、NFC仕様の改定について検討を始めたという記事が発表されました。(*1)その記事によると、NFC非接触の有効作動範囲を現在の2センチから3~4センチへ変更するという内容でした。

有効作動距離解説図

有効作動範囲とは、上図の通り非接触ICカードと決済端末の有効作動距離のことです。現在は0~2センチと定められており、この範囲では安定的に正常な動作が行われます。2~10センチでも接続は可能ですが、仕様上必須ではないそうです。この有効作動範囲を0~3センチまたは4センチに変更するというわけです。

現在よりたった1センチ、2センチ有効作動範囲を伸ばすだけでどれほどのインパクトがあるのかと思われるかもしれません。

NFC ForumのエグゼクティブディレクターであるMike McCamon氏は「この技術によって便利になり、使いやすくなる。今より速く感じるようになる」と言います。さらに「私たちは全員、携帯電話をかざす際、端末の正しい位置を探した経験があるはずです。携帯電話の通信距離が伸びれば、もはや探す必要はなくなります。」とも言っていました。確かに、スマートフォンは機種によってNFCチップの位置が異なるため、決済などでかざす際、正しい位置を探すことがあります。これは有効作動範囲が2センチまでであることが影響しているということなのです。これを1センチ、2センチ伸ばすことで、位置を探さなくても反応するようになるというのはよくわかります。更にICカードやスマホをかざす際、1センチ、2センチ速く反応するようになると、処理速度も速く感じるようになるはずです。

しかし、それだけではないといいます。時間的に速く反応するようになると、これまでより多くの仕事をさせることができるということもNFC Forumは狙っているようです。例えばSuicaで買い物をしようとすると、Suicaカードと決済端末の間で決済処理を行います。これは1タップで1動作行うことが原則になっており、これ以上の処理を行うことはできません。しかし、時間的に早く反応するようになれば、1タップで複数動作できるようにするということも視野に入れているようなのです。

具体的には「1タップで決済+電子レシートを受取れるようにする。」というのがあります。電子レシートは今でも受け取れる場合がありますが、これはお店側に予め購入者のメールアドレス等を登録しておく必要性や専用のアプリを利用するなど手間がかかります。しかし、新しいNFC仕様では決済と同時に通信をするスマホにNFC通信で電子レシートを送ることができるようになります。他にも1タップで決済+ポイントカードの提示が同時にできるというようなことも考えているようです。

実はこのNFC仕様の改定はまだ研究段階であり、実現するにはもしかしたら10年位かかるかもしれないとのことです。更に便利になった世界を早く体験してみたいと思いませんか?少し先走った情報だったかもしれませんが、非接触決済の将来を少し垣間見れたのではないでしょうか。

(*1)https://www.nfcw.com/contactless-world-congress/nfc-forum-to-increase-transaction-range-from-2cm-to-three-or-four-centimetres/

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