2023年4月からデジタル給与制度が開始され、導入を検討もしくは進めている会社が増えていることと思います。デジタル給与はこれまでの現金支払いや銀行振込や証券口座にはないメリットがあります。この記事では、デジタル給与に対応するメリットと必要な準備について解説します。
1.デジタル給与とは?
デジタル給与とは、スマホ決済やプリペイドカード、電子マネーなどのデジタルマネーで支払われる給与のことを指しており、現金や銀行振込に代わる新たな給与支払いの形です。従来、給与の支払いは原則現金で、従業員の同意を得た場合には銀行口座や証券口座でもよいというルールでした。
2023年4月に労働基準法の省令が改正されることで、新たにデジタルマネーなどでの給与支払いが可能になるデジタル給与制度が開始されました。デジタル給与であれば、企業から従業員へ直接デジタルマネーで給与支払いができるようになります。
このデジタル給与が普及することで、日本全体のキャッシュレス化が進み、現金取り扱いのコストや関連業務の削減、新たな経済の創出などが期待されています。
デジタル給与が導入されることになった背景として、諸外国に比べて日本のキャッシュレス化が遅れている点が挙げられるでしょう。2020年時点の世界のキャッシュレス決済の普及率は韓国の93.6%を筆頭に、中国83%、オーストラリア67.7%と続きます。対して日本は2021年の調査で32.5%に留まっており、政府としては大阪・関西万博が開かれる2025年までに40%に引き上げ、将来的に80%を目指して動いていく考えです(※1)。
(※1)出典:経済産業省「キャッシュレス更なる普及促進に向けた方向性」
デジタル給与の制度導入にあたり、資金移動業者の破綻やセキュリティのリスクが懸念されていましたが、安全性を確保しながらデジタル給与の利便性を図るための基準が制度内で示されています。資金移動業者は厚生労働省に指定申請し、安全性などの基準を満たしているか審査を受けます。基準を満たし、指定登録が完了することでデジタル給与の支払いが可能になります。この指定登録には数ヶ月かかると見込まれているため、実際の現場での活用が始まるのはしばらく先となりそうです。
2.デジタル給与に対応するメリット
ここからは、デジタル給与のメリットについてご紹介します。
●振込手数料の軽減
デジタルマネーのみでの給与支払いは、手数料がかからないか安価であることが特徴です。銀行振込の場合、振込回数が増えるほど手数料の負担が大きくなりますが、デジタル給与のみであれば手数料の負担削減が期待できます。そのため、給料日を「週払い」や「日払い」など、柔軟に設定することにもつながるでしょう。
●従業員への福利厚生
日頃から電子決済を使う従業員であれば、チャージの手続きが必要なくなり、支払われた給与ですぐに決済できる点にメリットを感じられるでしょう。
また、デジタルマネー利用者はキャッシュレス化を推進する政府の後押しなどもあり、ポイント還元やキャッシュバックなどの特典を利用できる機会も多いです。デジタルマネーで給与を受け取る従業員は、日々の決済をキャッシュレスで行えば特典を得られるため、お得にポイントを貯められます。キャッシュレス決済やデジタル給与のこうしたメリットを理解する人が増えれば、デジタル給与制度の利用も拡大していくことでしょう。
3.デジタル給与の対応に必要な準備
自社でデジタル給与の支払いを導入するには、法令要件やシステムへの対応を実施する必要があります。
●法令要件への対応
法令要件への対応では、労使協定の締結と従業員からの同意取得が必要です。
1.従業員への説明と同意取得
労働基準法では給与支払いは原則現金とされており、銀行口座や証券口座への振り込みの場合は従業員の同意が必要です。デジタル給与も銀行振込などと同じで現金以外の手段に該当するため、企業側は資金移動業者の口座への支払いを自ら選択したことに対して同意を取得しなければなりません。雇用主がデジタル給与での支払いを強制すれば、労働基準法違反となります。なお、同意を取得する前に、資金移動業者の口座への賃金支払いに対する留意事項説明が必要です。
同意書を作成する場合、記載すべき項目は、以下の5つです。
同意書に必要な項目(※2)
・資金移動業者の口座への賃金支払いに対する留意事項の説明への同意
・資金の範囲と金額:デジタル給与として労働者が受け取る金額
・給与の振込先情報:指定資金移動業者名や資金取り扱いサービスの名称及びID、名義人情報、
その他口座を特定するのに必要な情報
・支払開始希望時期:デジタル給与の支払い開始を希望する時期
・代替口座情報:指定資金移動業者の口座の上限を超えた場合、資金移動業者が破綻した場合の振込先情報
(※2)出典:厚生労働省「同意書の様式例」
デジタル給与の支払いで利用する資金移動業者は、厚生労働省への指定登録が完了している業者である必要があります。厚生労働省の指定資金移動業者一覧より、利用予定の業者が指定業者に該当するかを確認しましょう。また、指定資金移動業者が破綻するなども考えられるため、同意書には緊急時に対応するための情報も記載が必要です。
2.労使協定の締結
銀行口座や証券口座への振り込みと同様に、労働者の過半数で組織する労働組合もしくは過半数の労働者を代表するものと労使協定を締結する必要があります。すでに銀行口座や証券口座への振り込みについて労使協定が締結されている場合は、内容を修正し再締結が必要です。
労使協定に必要な項目
・対象となる労働者の範囲
・対象となる賃金の範囲と金額
・開始時期
・金融機関、証券会社、指定資金移動業者の範囲
さらに、締結した契約内容を滞りなく実施するために、企業としてさまざまな実務対応が必要です。スムーズに労働者へ給与の支払いが行われるように、賃金の支払日までに指定資金移動業者への入金を完了させ、午前10時以降には労働者が全額利用できるよう手配します。
従業員がそれぞれ別の指定資金移動業者を希望した場合は、従業員の利便性を確保するために柔軟に対応する必要があります。
●システム対応
デジタル給与での支払いを導入するために、システムの見直しなどの対応も必須です。通常だと人事給与システムの改修対応が必要になり、コストもかかります。
一般の人事給与システムでは銀行振込が標準となるため、まずは振込のフォーマットの見直しを行います。デジタル給与での支払いでは、振込先情報としてアカウント情報の登録が必要です。現状のシステムで銀行口座番号体系のみを登録している場合は、システムの改修をすることになります。さらに、銀行振込であればフォーマットは統一化されていますが、資金移動業者へチャージする場合は各社でフォーマットが別々であるため、それぞれに対応しなくてはなりません。
また、給与を扱うシステムである以上、十分なセキュリティ対策も欠かせません。金融とITの両方のノウハウを必要とするうえに、人事給与システムの業者と企業側で個別対応が必要となるため、その点でもコストがかかります。
こうしたシステム対応の難しさから、現金もしくは銀行振込のみの選択肢にしてしまうと、従業員がデジタル給与のメリットを得られず、満足度が低下してしまうかもしれません。
そこで、各社の人事給与システムと資金移動業者を安全かつ低コストでつなげることを目的に、TISでは「給与デジタルマネー払いゲートウェイサービス」でデジタル給与に対応するためのソリューションを提供しています。
4.デジタル給与を簡単に導入する方法
TISの「給与デジタルマネー払いゲートウェイサービス」は、既存の人事給与システムと資金移動業者のシステムを安全かつスムーズにつなげます。
ご利用中のシステムを資金移動業者ごとに改修する必要がないため、自社で構築するよりも開発・運用コストを下げられます。また、現在の銀行口座振込の業務フローに合わせたサービス設計のため、これまでの運用から大きく変更することなく振り込み対応が可能です。
実際に対応しているシステムやチャージ可能なデジタルマネー一覧は、以下のページよりご覧ください。デジタル給与の導入をご検討の際は、ぜひご相談ください。
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