最近、海外の決済関連の記事を見ていると、「Click to Pay」という言葉を時々見かけるようになりました。今回はこの「Click to Pay」について紐解いていきたいと思います。
その正体は国際標準仕様であるSecure Remote Commerce(SRC)
2019年9月にVISA、Mastercard、JCBなど国際ブランドが主体で構成されている標準化団体EMVcoからSecure Remote Commerce(以降SRCと書きます)のVersion 1.0が公開されました。EMVcoはこれまでもICカード、トークナイゼーション、QRコードなど決済に関わる標準仕様を世に出してきました。今回取り上げるSRCはEC決済、モバイル決済など、非対面取引(店舗などで店舗スタッフと対面で行う取引は対面取引といいます)に関わる標準仕様です。実は今まで標準仕様がなかったため、オンライン店舗がEC決済を行う場合、そのシステムの構築に少なからず手間やコストが掛かりました。
SRC仕様が普及すると、業界標準に準拠したソリューションが登場してきますので、オンライン店舗はソリューションが提供する決済ボタンを設置するだけで、安全で使い勝手の良いEC決済サービスを容易に構築可能となるのです。
消費者はSRCに対応したオンライン加盟店において、決済ボタンをクリックすることで簡単に支払いが完了します。そのようなわけで「Click to Pay」と呼ばれるようになったのだと思われます。
Click to Payのユーザー体験はどうなる?
Click to Payで消費者のオンラインショッピング体験がどのようになるのかを説明します。SRC仕様のユーザーインターフェイスをご説明します。これはスマホ画面におけるSRCの例になります。
これはオンラインショッピングサイトで腕時計を買う想定で書かれた図です。購入したい商品を見つけた後の商品選択画面から始まります。
●商品選択画面
ここでは選択した商品を確認した後、画面下部の決済ボタンを押します。この決済ボタンですが、EMVcoが定めたSRCボタンと、このショッピングサイトで使える国際ブランドのロゴが表示されます。一番左の5角形を横にしたようなボタンがSRCの決済ボタンです。このボタンを押すとSRCで決済することを選択したことになります。
●ログイン画面
SRCではログインが必要になります。イメージ的にはAmazonや楽天と同様にID、パスワードなどを入力して本人かどうかの認証が必要になります。従って事前にSRC会員として登録する必要があります。または初めてSRCを利用するときにこのログイン画面から新規登録をすることが可能になります。
●カード選択画面
この画面では事前に登録しているカードの一覧が表示されます。カード券面のイメージとカードの名称、カード番号の下4桁などが表示されることになると思います。ここで今回の購入で決済するカードを選択します。
●決済情報確認画面
ここでは決済に使用するカードの情報や、事前に登録した配送先住所が表示され、確認を行います。
●注文確定画面
購入する商品、金額、決済方法、配送先住所などを最終確認し、注文を確定されます。その後、決済処理が行われます。
以上がClick to Payの決済プロセスの例になります。あくまで例ですので必ずしもこの通りになるとは限りませんが、雰囲気は理解いただけたのではないでしょうか。
ではいくつか従来の仕組みとClick to Payを比較し、どう違うのか説明していきます。
①従来のEC決済との違い
従来のEC決済では、カードで決済するときに、カード番号、有効期限、セキュリティコード、氏名を入力し、その後に配送先住所を入力する必要があります。1回の買い物を行うのに、これだけの情報を入力するのは非常に手間が掛かります。決済情報の入力があまりに面倒であるため、買い物をせずに、ショッピングサイトを離脱してしまう人は少なくありません。
Click to Payではログインをし、カードを選択すればそれで決済が完了します。従ってオンラインショッピングの手間が大幅に削減されるため、ユーザーにとってはとてもメリットのある技術なのです。
②Amazonや楽天との違い
Click to PayはAmazonや楽天のように、ログインをすることにより事前に登録した決済情報で支払ができる点については同じ仕組みです。では、Amazonや楽天との違いは何でしょうか。
Amazonや楽天ではID、パスワードがそれぞれの店舗でのみ利用できます。店舗ごとにID、パスワードが異なる人(セキュリティを確保するには本来そうすべきですが)は、ログイン情報の管理が必要になります。
Click to PayはSRCという国際標準に準拠した仕組みとなりますから、これが世界中に導入されると、1つのID・パスワードで世界中のオンラインショップで決済が簡単にできるようになるのです。
気になるClick to Payのセキュリティ
最後に、セキュリティ面についてお話をしたいと思います。実は国際標準SRCではシステムの中でカード番号を使ってはいけないことになっています。従ってシステム上はカード番号に代わるトークンやSRC固有のIDが利用されています。
またSRCでは本人を認証するために、3Dセキュアという技術が使われます。3Dセキュアはカード払いを行う人が本当に本人なのかどうかを確認する仕組みです。こちらもバージョンアップが進んでいて、ユーザービリティの改善が進んでいます。(3Dセキュアについては別の機会にご説明します。)
つまりClick to Payの環境において、技術的にカード情報が漏洩することは無い仕組みになっているのです。他人が本人になりすまして利用することも、かなり困難といえるでしょう。
Click to Payがいつ日本に普及するのかまだ目途がたっていません。しかし、アメリカではすでに始まっていて、2019年末時点で、約5,500のオンラインショッピング加盟店がSRCを導入しているとVISAは発表しています。
VISAだけでなく、Mastercard、AMEX、Discoverといった国際ブランドがSRCの商用化をアメリカにおいて開始しています。私たちが日本でClick to Payを目にするのは時間の問題だと思います。
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