コラム Column

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?多様化する消費者ニーズと成功事例を紹介

dx

昨今、注目を集めるDX(デジタルトランスフォーメーション)。
多くの企業がDX推進への対応に急がれる今、失敗する企業・成功する企業の分かれ道が浮き彫りになってきました。

今回は、DXの概要を振り返りつつ、対応の必要性や現状課題、成功事例、TISのDX事業の取り組みをご紹介します。

●DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何か

数年前から「DX」という言葉を耳にすることが増えました。DXとは「デジタルトランスフォーメーション」の略称で、日本語に訳すと「デジタルによるビジネス変革」を意味しています。

このように説明すると、「ビジネスにデジタルを取り入れることなんて、昔からやっているよ」と思われるかもしれません。しかし、そこには少し誤解があります。

会社としてITツールを導入し、現在の業務を効率化したり、自動化したりすることは単なる「デジタル化」であり、別の言い方をすれば「デジタライゼーション」となります。デジタル化はデジタルで推進していくべきですが、ここでいうDXとは異なる概念です。

DXとはデジタルでビジネスそのものに変革――たとえば新たなビジネスの創出――をもたらすことなのです。

なお、経済産業省が2018年12月に策定した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」によると、DXの定義は以下の通りとなっています。

“企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること”

●DXが求められる、消費者ニーズの多様化とは

消費者ニーズ

DXへの注目が集まる背景として、消費者のニーズや行動が多様化し、これまでのビジネスの常識が通用しなくなってきた点が挙げられます。インターネットとスマートフォンの普及により、世の中にはさまざまな情報があふれました。消費者はそうした多くの情報をもとに、より細分化されたニーズを持ち、多様な行動をとるようになっています。

そんな消費者行動の変化を示す代表例として挙げられるのが、流通科学大学の近藤勝直教授が提唱する「三通」です。

三通とは「流通」「交通」「通信」という3つの「通」を表す言葉です。流通とはビジネスでモノが運ばれること。交通は人の移動。そして通信は郵便、あるいはスマートフォンによる電気通信も含まれます。

近藤教授は、これら三通の境界分野で新たなビジネスが起こっていると述べています。たとえばスマートフォンの登場により、私たちは移動しながら通信を行うようになりました。この移動時間を狙って、“ながら”で楽しむデジタルコンテンツも多く登場しています。つまり、「交通×通信」という領域がデジタルで革新されたことにより、新たなビジネスが生まれたといえるのです。まさに「DX」の好例です。

さらに、デジタルテクノロジーの発展により、私たちは店舗に足を運ぶことなくインターネット上で買い物を楽しめるようになりました。これはまさに、「流通×通信」のDXといえます。

こうしたデジタル変革を裏で支えているのが、通貨のDXともいえる「キャッシュレス決済」です。経済活動は支払い――すなわち“決済”なしには成り立ちません。現実世界でビジネスを行っていた時代は現金での決済が一般的でしたが、インターネットを介したビジネスが当たり前の現代においてはそれでは不十分です。DXが進んだ世界では決済もまたデジタルで変革される必要があるからです。

今後、DXによる変革が進むにつれて、キャッシュレス決済はさらに増えていくでしょう。
参考:交通・流通・通信の融合:三通とモバイルマーケットhttp://library.jsce.or.jp/jsce/open/00039/200306_no27/pdf/150.pdf

●DX推進の課題

dx推進の課題

DXの推進をうたう企業は少なくありませんが、そのすべてが成功しているわけではありません。なんとなくトレンドだから始めてみたものの、あまりうまくいっていないという企業も少なくないのです。

DXの推進がうまくいかない原因はどこにあるのでしょうか。

まず、大きな理由として挙げられるのが、「DXを盛り込んだ具体的な経営戦略を描けていない」ことです。デジタルテクノロジーと一口に言ってもその種類はさまざまです。AIやIoT、5Gといったキーワードだけが独り歩きしてしまい、「AIで何かできないか」といった曖昧な取り組みに終始してしまうケースが多いのです。

冒頭でも述べたように、DXとは「デジタルによるビジネス変革」であり、最終的な目的は「ビジネス変革」です。「どのようにビジネスを変革するのか」というゴールが描けていないままデジタルテクノロジーを導入しても、曖昧な状態で終わってしまうのは当然といえます。

また、人材不足もDXがうまくいかない原因の1つです。先ほど挙げたように、「デジタルでビジネスをどう変革するのか」という戦略を描ける人材、そしてそのゴールに向けて適切なテクノロジーを導入し、運用できる人材をいかに確保するのかも、多くの企業を悩ませている課題といえます。

●日本国内のDX推進事例

dx推進事例

ここでは日本国内のDX推進事例をご紹介します。

リアル店舗をデジタル革新:ワコール

日本を代表する下着メーカーであるワコールは、2019年よりデジタルテクノロジーを活用した新たな接客サービス「3D smart & try(スマート アンド トライ)」をスタートさせました。

衣料品業界の中では、売上に対するECの比率が高いワコールですが、これまで築き上げてきたリアル店舗における接客も重視。その結果、「リアル店舗をデジタルで革新し、ECと連携する」方針が生まれました。

そうしたワコールの戦略を実現するのが、3DスキャナとAIを組み合わせた接客サービス「3D smart & try」です。現在、東急プラザ表参道原宿の店舗に常設されています。店舗を訪れた顧客は3Dスキャナで自分自身の体型を測定し、接客ノウハウを学習したAIの接客を受けて、自分自身に最適な下着を選ぶことができるのです。

ここで測定したデータはECでも生かせるため、ワコールの顧客はパーソナライズされた最上の購買体験をいつでも受けられます。また、リアル店舗ゆえに人のスタッフに相談するという従来通りの買い物も行えるのが特徴です。

DXにより顧客に新たな価値をもたらしたワコール。「3D smart & try」稼働以来、コロナ禍にも関わらず多くの顧客が店舗を訪れるなど大成功を収めています。

<参考>
https://news.mynavi.jp/itsearch/article/solution/5280
https://news.mynavi.jp/article/20190418-811053/

レジなし店舗:ローソン

全国にコンビニエンスストアを展開するローソンは2020年2月、レジなし店舗「ローソンGO」の実証実験を行いました。ローソンGOは生体認証で入店し、商品を手にしてそのまま退店すれば自動的に決済が行われるという仕組みを導入した店舗です。

あくまでも実証実験ではありますが、ローソンGOの取り組みの結果、レジ待ちが嫌で入店しなかった顧客の呼び込みに寄与し、省人化によるコストダウンといった効果が得られたようです。

ローソンGOの成功ポイントは、前段でも述べたように「課題解決を目的においたこと」です。もし、生体認証やキャッシュレス決済といったテクノロジーを使うこと自体を目的にした場合、結果的に顧客や店舗の課題につながらず、曖昧な取り組みになっていた可能性もあります。

まず現場における課題を抽出し、その課題の解決にテクノロジーでどう取り組むのかという姿勢が重要なのです。

<参考>
https://news.mynavi.jp/itsearch/article/solution/5567

寿司皿でデータ収集:スシロー

回転寿司チェーンとして業界最大手のスシローも、DXを推進しビジネスの変革に成功した企業です。

同社の取り組みとしてユニークなのは、寿司皿の裏にICチップが取り付けられていること。このICチップで商品の売れ行きやレーンを走った距離などを管理しており、ロスの軽減や商品企画に生かすためのデータ収集などに役立てているのです。

また、同社はデータ活用やアプリによる予約システムなど、ITによる効率化を長年行ってきました。現在、同社は新宿や渋谷などに都市型店舗と呼ばれる店舗を展開しており、これまでのノウハウを最大限に活用した非接触型の顧客体験を構築しています。

<参考>
https://news.mynavi.jp/itsearch/article/solution/2304

●TIS:DXへの取り組み

TISでは、TIS内のDXを推進するとともに、2021年4月には、DXビジネスを推進する組織として、「DX ビジネスユニット」を新設しました。企業のDXビジネスを加速させるため、さまざまな取り組みを行っています。ここではその中から2つの取り組みをご紹介します。

・ユーザーとの接点を最大化するミニアプリ戦略

Widget活用事例図

これまで、スマートフォン向けアプリを開発しそれを利用してもらうために、お金と労力をかけて営業活動やプロモーション活動を行うのが普通でした。しかし現在、世の中にアプリは何万と生み出されているため、数多のアプリの中から自社のアプリを選択してもらい、新たな顧客を獲得することは難しくなっています。
 そういった中で日本でも注目され始めているのが、さまざまなサービスを統合し1つのアプリ内で利用する事ができる「スーパーアプリ」です。これは自社のサービスだけではカバーできない領域を「ミニアプリ」としてスーパーアプリに連携することで自社経済圏の拡大を見込むことが可能になります。詳しくは以下のコラムでご紹介していますので、参考にしてください。

・スーパーアプリによるWEBビジネスチャンス拡大手法を徹底解説
~ユーザーとの接点を最大化するDX、ミニアプリ戦略とは?~

・デジタル口座の活用

デジタル口座

 キャッシュレスの普及は堅調に推移しており、多くの方がクレジットカード、デビットカード、コード決済などを利用するようになっています。EC決済も同様に、新型コロナウイルス(COVID-19)の流行も後押し、増加傾向にあります。
現在は銀行口座預金をベースにさまざまな支払いが行われています。その一方PayPay、楽天ペイなどのように、銀行口座からデジタル口座にお金を入金し(※1)、そこからデジタル上で支払いが行われるようになりました。今後、給与のデジタル払い(※2)が解禁されれば、この流れは加速していくのではないでしょうか。そうなればデジタル口座はオンラインサービスとの親和性が高いため、更に重要な存在になっていくと予測しています。

 先ほど記述したPayPayや楽天ペイなどは主に金融を専門に事業を進めてきました。しかし、このような金融を専門に行っている事業者ではなく、非金融事業者がデジタル口座(決済)をきっかけにデジタルフォーメーション(DX)しようとしている動きが加速しています。まさに決済×自社サービス=DXの形です。TISはこのように決済をお客様サービスに掛け合わせ、新しいサービスを作り出す事業の支援も行っています。デジタル口座に関する詳細は次回のコラムの中で詳しく説明しますので、ぜひご確認下さい。

※1:PayPay、楽天ペイ残高へ銀行口座からチャージすること
※2:企業が銀行の口座を介さずに直接スマホ決済で受け取れること
 

詳しくはコチラ給与デジタルマネー払いとは?

●DX推進のカギは課題理解とデータ活用

dx推進の鍵

DXの本質は、多様化する消費者ニーズへの対応に伴う既存ビジネスモデルの変革にあります。DXの目的を定めず、単に「デジタル化」を進めるだけでは、手段が先行し大幅なコストロスにつながる可能性もあります。

成功事例でご紹介した3社のように、まずは既存ビジネスの課題や消費者ニーズを把握した上で、価値向上につながるデジタル技術を正しく導入することをお勧めします。

またDX推進にはデータの活用が欠かせません。課題の抽出や中長期的な目標を掲げる際には、定量的な数値をデータから分析し行動に移す必要があります。まずは定型業務の自動化や効率化をはかるデータ収集を可能にする全社統一のデジタル化を推進し、ビジネスモデル変革の兆しを見つけ出しましょう。

●まとめ

DXは「デジタルによるビジネス変革」を意味する言葉であり、単なるデジタル化とは似て非なるものです。
現在多くの企業がDXを推進しています。しかし、具体的な経営戦略を描けないまま進めてしまうなど、課題も散見されます。冒頭でもお伝えした通り課題を整理し、データとデジタル技術をどうサービスに組み込んでいくのかを考えた上で自社DX推進に取り組んでみては如何でしょうか。

※この記事が参考になった!面白かった! と思った方は是非「シェア」ボタンを押してください。