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コラム

オンチェーン金融とは何か
――ステーブルコイン・CBDC・トークン化預金を実務で理解
オンチェーン金融とは何か――ステーブルコイン・CBDC・トークン化預金を実務で理解
INDEX

2026年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」※1では、資産運用立国の取り組みを発展させ、成長分野への資金供給を促進する施策の一つとして、オンチェーン金融が位置付けられています。

 活用が期待される領域としては、
・ 製造業における受発注・納品データ
・貿易実務における書類管理
・金融分野における証券決済
 などがあります。

オンチェーン金融は、暗号資産やWeb3のみを対象とする議論ではなく、資金決済、商流・物流データ、契約条件、コンプライアンス対応などを連動させる金融・産業インフラとして捉えられています。支払、納品、権利移転、コンプライアンス、決済条件などを、一つのプログラマブルなプロセスとして連動させられることに本質があります。

政府の重要な経済政策文書にオンチェーン金融が明記されたことは、国内での取り組みが、実証実験中心の段階から、政策的な推進・制度整備を見据えた検討段階へ移行しつつあることを示すものとして注目されています。

特に注目すべきなのは、政府によるオンチェーン金融の定義です。
骨太の方針の脚注では、オンチェーン金融を「ブロックチェーン上で、トークン化預金やステーブルコイン等による資金決済が、商流・物流データとプログラムで連動・一体化される金融」と説明しています。政府の定義が名指ししているのは、トークン化預金とステーブルコインです。本稿ではこれに加え、CBDC、セキュリティトークン、RWA、スマートコントラクトを、関連の深いテーマとして取り上げます。

オンチェーン金融は暗号資産投資や投機的なトークン取引だけを指す言葉ではありません。
金融機関や事業会社にとって重要なのは、台帳、決済、権利移転、本人確認、AML/CFT、会計、既存システム連携をどのように再設計するかです。

本稿では、オンチェーン金融とは何かを、銀行・企業財務・システム企画の実務者向けに整理します。

※1 出典: 内閣府:経済財政運営と改革の基本方針2026(決定版)

1. オンチェーン金融とは何か

オンチェーン金融とは、金融取引や金融資産に関する情報を、ブロックチェーンや分散台帳などのデジタル台帳上で扱う金融の総称です。ここでいう「オンチェーン」とは、取引の状態、残高、権利、移転履歴、契約条件などが、台帳上で記録・参照・更新されることを意味します。

従来の金融では、銀行、証券会社、決済機関、清算機関、取引所、会計システムなどが、それぞれの台帳やデータベースを持ち、取引後に照合・清算・決済を行ってきました。オンチェーン金融では、これらの一部を共通のデジタル台帳やプログラム可能な仕組みの上で扱うことで、決済や権利移転の効率化、透明性向上、自動化を目指します。

観点従来型金融オンチェーン金融
記録各金融機関・システムが個別に記録し、後続処理で照合する台帳上の状態を参照し、取引・残高・権利を一体的に管理する
決済取引、清算、決済、照合が分かれ、時間差が生じることがある条件が整えば、資金と資産を近いタイミングで移転できる
契約条件契約書、業務ルール、システム処理が分かれて管理されるスマートコントラクトやAPIで条件付き処理を組み込める
実務論点既存業務・既存システムを前提に処理を組み立てる台帳、法務、会計、リスク管理、既存システム連携を同時に設計する

2. なぜ今、オンチェーン金融が注目されているのか

オンチェーン金融が注目される背景には、金融取引のデジタル化、即時化、グローバル化があります。国境を越える決済、証券決済、担保管理、資産運用、企業間決済では、複数の金融機関、複数の通貨、複数のシステムが関係し、処理時間、照合負荷、資金拘束、透明性の低さが課題になります。

トークン化預金、ステーブルコイン、CBDC、セキュリティトークン、RWAは、それぞれ別々に見えます。しかし実務上は、資金側のデジタル化と資産側のトークン化をどう接続するかという共通テーマを持っています。資産だけがトークン化されても、決済手段が従来型のままであれば、DVP(資産と資金を同時に決済する仕組み)、PvP(異なる通貨間の決済を同時に行う仕組み)、アトミック決済、自動償還、自動分配の効果は限定的です。

3. オンチェーン金融を構成する主要テーマ

オンチェーン金融を理解するには、個別の技術名ではなく、金融実務上の役割で整理すると分かりやすくなります。中心となるのは、資金側のトークン化、資産側のトークン化、台帳・スマートコントラクト、本人確認・規制対応、既存システム連携です。

テーマ意味実務上の論点
トークン化預金銀行預金(正確には、預金者に対する預金債権)をデジタル台帳上で移転可能にする考え方預金としての性質、勘定系との関連性、発行・償還、顧客管理、決済確定
ステーブルコイン法定通貨等の価値に連動するデジタルマネー発行者、裏付資産、償還、AML/CFT、決済利用、企業財務での扱い
CBDC中央銀行が発行するデジタル通貨制度設計、二層構造、民間マネーとの共存、決済インフラとの関係
セキュリティトークン・RWA証券や実物資産等の権利をトークンとして表章・管理するもの権利内容、譲渡制限、投資家管理、DVP、保管、償還・分配
スマートコントラクト条件に応じて処理を実行するプログラム条件判定、権限、例外処理、監査、法的効力、運用管理

4. 暗号資産との違いをどう理解するか

オンチェーン金融は、暗号資産とは同じものではありません。暗号資産は、ブロックチェーン上で発行・移転されるデジタル資産の一種です。一方、オンチェーン金融は、金融取引や金融インフラの一部をデジタル台帳上で扱う広い概念です。

金融機関や事業会社がオンチェーン金融を検討する際には、価格変動の大きい暗号資産そのものではなく、法定通貨建ての決済、預金、証券、債権、担保、会計、コンプライアンスをいかに安全に接続するかが重要な論点となります。

比較軸暗号資産中心の見方オンチェーン金融の実務的な見方
目的投資、交換、分散型サービス利用が中心決済、資金管理、証券決済、担保管理、業務自動化が中心
価値の裏付け暗号資産ごとの市場価格・需給に左右される法定通貨、銀行預金、証券、債権、実物資産などと接続する
利用者個人投資家、暗号資産利用者、開発者が中心金融機関、事業会社、投資家、決済事業者、インフラ事業者が中心
規制・統制暗号資産規制、取引所規制、ウォレット管理が中心金融規制、AML/CFT、会計、内部統制、既存システム連携が中心

5. 銀行が検討すべき論点

銀行にとってオンチェーン金融は、既存の預金・決済・証券・担保・顧客管理をどう拡張するかというテーマです。新しい台帳を導入するだけではなく、既存の勘定系、決済ネットワーク、AML/CFT、顧客管理、監査証跡、障害時対応と整合させる必要があります。

特にトークン化預金やCBDC、ステーブルコインとの接続を考える場合、マネーとしての安全性や決済確定性、顧客保護、法的性質、運用権限、API接続先管理が重要になります。論点としては以下です。

  • 既存預金、トークン化預金、ステーブルコイン、CBDCをどのように役割分担させるか
  • 勘定系、決済基盤、顧客管理、AML/CFT、リスク管理システムとどう接続するか
  • 台帳上の記録と銀行内部の正式記録をどう整合させるか
  • スマートコントラクトやAPI接続先に対する審査・監視・停止権限をどう設計するか
  • 障害、誤送金、凍結、制裁対応、取消・訂正、顧客問い合わせをどう運用するか

6. 企業財務が検討すべき論点

企業財務にとってオンチェーン金融は、資金移動、入金確認、照合、資金繰り、グループ内資金管理、クロスボーダー決済をどう高度化できるかというテーマです。単に新しい決済手段が増えるだけでは、経理・財務・会計の運用負荷が増える可能性もあります。

そのため、企業側では、ERP、会計、請求、入金消込、承認ワークフロー、資金管理システムとの接続を前提に検討する必要があります。オンチェーン金融の価値は、取引が台帳上で動くことだけではなく、その情報が企業の業務プロセスに正しく取り込まれることで発揮されやすくなります。

企業財務の課題オンチェーン金融で期待される変化実務で確認すべきこと
入金可視化支払状況や着金状況をより早く把握請求番号、支払ID、取引先IDとの紐づけ
照合・消込台帳上の取引情報を使って自動消込を高度化ERP・会計・売掛管理とのデータ連携
資金効率即時決済や条件付き決済により資金滞留を減少資金繰り、残高管理、利用限度額、内部承認
クロスボーダー複数通貨・複数法域の決済を効率化為替、規制、制裁対応、税務、会計処理

7. オンチェーン金融のリスクと管理論点

オンチェーン金融には、効率化や自動化の可能性がある一方で、管理すべきリスクもあります。

スマートコントラクトの不具合、秘密鍵・認証情報の管理、台帳と既存システムの不一致、取引の取消困難性、AML/CFT、制裁対応、プライバシー、サイバーセキュリティなどです。

重要なのは、オンチェーン金融を既存金融の外側に置かずに検討することです。銀行や事業会社が扱う以上、既存のリスク管理、内部統制、監査、法務、会計、システム運用の枠組みと接続する必要があります。

リスク領域
主なリスク初期検討で決めるべきこと
技術スマートコントラクト不具合、台帳障害、API障害、秘密鍵管理権限管理、テスト、監視、停止、復旧、変更管理
業務誤送金、二重処理、照合不一致、例外処理の属人化取消・訂正、凍結、再実行、顧客通知、監査証跡
規制AML/CFT、制裁対応、本人確認、利用者保護、データ管理取引モニタリング、本人確認、データ共有範囲、ログ管理
会計・税務取引時点、評価、手数料、仕訳、残高表示の不整合会計処理方針、ERP連携、証憑、消込キー、報告資料

8. 導入検討はどこから始めるべきか

オンチェーン金融の検討は、技術選定から始めるよりも、業務課題から始める方が現実的です。

自社や自行のどの業務にコストや負荷、リスク、資金拘束があるのかを整理し、その課題に対してオンチェーン化が有効かを見極めます。

①対象業務を決める
 (例:クロスボーダー決済、グループ内資金移動、証券決済、担保管理、請求・消込など)

②現行業務の摩擦を定量・定性で整理する
 (例:処理時間、手数料、照合件数、例外処理、資金滞留、問い合わせ件数など)

③オンチェーン化の接続対象を決める
 (例:資金側と資産側のどちらを接続するか、または両方を接続するのか)

④既存システムとの接続要件を整理する
 (例:勘定系、ERP、会計、AML/CFT、リスク管理、監査証跡との連携要件など)

⑤PoCで確認する検証観点を決める
 (例:技術成立性、業務成立性、運用負荷、リスク管理、本番化条件など)

9. 弊社がオンチェーン金融の検討で支援できる領域

TISIは、オンチェーン金融に関する構想整理、ユースケース選定、業務要件定義、既存システム影響調査、PoC設計、API・台帳連携、リスク管理論点の整理などを支援しています。オンチェーン金融は、単一の技術導入ではなく、決済、預金、証券、会計、AML/CFT、システム連携を横断するテーマです。

  • オンチェーン金融、ステーブルコイン、CBDC、トークン化預金の関係整理
  • 銀行・事業会社におけるユースケース選定と業務要件整理
  • 既存勘定系、決済基盤、ERP、会計、資金管理、顧客管理との接続影響調査
  • スマートコントラクト、API、ウォレット、権限管理、監査証跡の論点整理
  • PoC計画、評価指標、本番化ロードマップ、社内説明資料の作成支援
まとめ

オンチェーン金融とは、金融取引をブロックチェーン上に載せることだけではありません。資金、資産、権利、契約条件、本人確認、決済、会計、監査証跡を、デジタル台帳と既存金融システムの関係から再設計するテーマです。 トークン化預金、ステーブルコイン、CBDC、セキュリティトークン、RWAは、それぞれ独立した流行語ではなく、オンチェーン金融という大きな流れの中でつながっています。実務者にとって重要なのは、どの技術が注目されているかではなく、自社・自行のどの業務をどう変えられるかを具体化することです。